映画「スノー・ロワイヤル」は「ジャンゴ 繋がれざる者」の制作陣が関わった作品です。
息子を殺された父親が復讐にかられて暴走するという内容の映画ではありますが、バイオレンスかつシリアスな映画かと思いきや、全体的にはコメディ色強めの内容となっています。
予告編を見て映画を見に行った人は想像を覆されてしまうことでしょう。それでもコメディ映画として面白い部分はたくさんあり、見どころの詰まった映画でもあります。
今回は映画「スノー・ロワイヤル」のネタバレ感想や解説、考察を紹介します。
目次
映画「スノー・ロワイヤル」を見て学んだ事・感じた事
・要所要所で散りばめられる笑い
・除雪車の迫力と暴走するリーアム・ニーソン
・コメディに割り切って作ることで好感を高めながら気持ちよく見れる
映画「スノー・ロワイヤル」の作品情報
公開日 | 2019年6月7日 |
監督 | ハンス・ペテル・モランド |
脚本 | フランク・ボールドウィン |
出演者 | ネルソン・コックスマン(リーアム・ニーソン) グレース・コックスマン(ローラ・ダーン) ヴァイキング(トム・ベイトマン) |
映画「スノー・ロワイヤル」のあらすじ・内容
除雪作業員として長年地域に貢献してきた男ネルソン・コックスマン。長年のキャリアが認められ模範市民賞を受賞するほど、真面目で実直な人でした。
しかしある日、彼の息子がドラッグ絡みでマフィアに殺されたことをきっかけに、復讐することを誓います。
ギャング達を1人ずつ殺していきながら息子の仇を取っていくコックスマン。そんな最中、彼の復讐劇をきっかけに、2つのマフィア・警察との四つ巴の戦いに発展していきます。
登場人物全てにクセがあり、勘違いによって物語が展開していく豪雪地帯を舞台にしたサバイバル・クライムサスペンス映画です。
映画「スノー・ロワイヤル」のネタバレ感想
「除雪車」「復讐」「殺し合い」など、ワクワクするようなキーワードが散りばめられた映画「スノー・ロワイヤル」。数々のアクション映画で輝きを放ってきたリーアム・ニーソンが主演というだけあり、どのような展開を見せるのか注目していました。
予告編では「ジャンゴ 繋がれざる者」のプロデューサーが制作陣に加わっていることもあり、かなり層の厚い復讐映画なのかとも期待していました。
ただ、本編はそんな予想を全て裏切り、良く言えばなんでもありで固定観念を覆す映画でもありました。重厚な映画というよりは、様々な要素が散りばめられた新しい復讐モノ作品といえるかもしれません。
ここでは、映画「スノー・ロワイヤル」の感想を1つ1つの項目に分けて書いていきます。
【解説】最初に断っておきたい。この映画はコメディです
予告編には「ジャンゴ」などの名作復讐映画の名前がアピールされており、映画の内容としても、息子を殺された除雪作業員の父親が復讐に駆り立てられるという内容だったため、どこかサスペンスの要素を呈したアクション映画っぽい内容なのかなと思っていました。
見る前はある程度重たい雰囲気の内容を想像していたのですが、実際に本編を見た所、その予想はいとも簡単に覆されます。端的にいえば、この映画は「コメディ」です。復讐モノの感じを出してはいながら、確かに人はたくさん殺されていくのですが、それでも全体的な演出はコメディそのものです。
ジャンル的には「雪山復讐コメディ」という感じになると思います。「ジャンゴ」のような復讐モノを想像していた人には予想外の展開かもしれません。確かに、序盤ではその雰囲気は少し残っていました。
暗いトーンから始まり、除雪作業員のコックマンが模範市民賞を受賞し、息子がドラッグ絡みの事件で殺されてしまいます。そして、犯人の手がかりを掴んだコックスマンが復讐の決意を固めマフィアの部下を殺していきます。
ここまでは「さぁここから復讐劇が始まりますよ!」という期待感も持ち合わせてはいたのですが、徐々に「あれ?これってコメディじゃないか?」と気づき始めます。
というのも、シーンの節々に完全に笑いを取りに行っているのが明らかだからです。
コックスマンは殺したマフィアの部下の遺体を金網に巻いて川に捨てるのですが、3回そのシーンが繰り返され、全く同じアングル、同じシーンを繰り返していたのを見て、「これって天丼では?」みたいなくすぐりを感じましたし、コックスマンも年なので2人目あたりから疲れが見えてくるなど、復讐をやっている割にはゆるい雰囲気が漂います。
そして、遺体を金網に巻いて川に捨てると浮かび上がることなく、魚が肉を食べてくれるので、証拠隠滅になるわけですが、なぜコックスマンがこの方法を知っていたかというと「犯罪小説で読んだから」みたいなのが理由だったりもします。
この他にもコメディに舵を切ったようなシーンが終盤まで続きます。そして、物語の軸としては、コックスマンに殺された部下の親玉が敵対するマフィアの仕業と勘違いし、コックスマンの関係のないところで抗争が繰り広げられます。
このような大枠から勘違いの連続でカオスな状況になっていきますし、要所要所に笑いを誘ってくるシーンが盛り込まれています。
一番面白かったのは、マフィアの親玉の息子をコックスマンが誘拐し、家に連れて行ったシーンです。コックスマンは息子に危害を加える意図はなく、息子も頭がいいのでそれを理解していました。
そして、その息子を寝かせようとした際、本を読んでほしいをせがまれてしまいますが、コックスマンの家には子供に読ませるような本はありません。一度は断ったのですが、なんでもいいから本を読んでほしいと頼まれたため、コックスマンは自分が所有している「除雪車のカタログ」を朗読します。
パワーが凄いだの最新型だの、このモデルは私も使っているなど、とぼけたシーンになっているのですが、物語の終盤である程度緊張した状態のところに、こういった緩和のシーンを持ってくるあたり、完全にコメディ映画として作っていることがわかります。
このように「スノー・ロワイヤル」は、復讐劇をベースにした暗い映画というわけではなく、あくまでコメディ映画であることがわかります。
確かに人は死んでいますが、完全にブラックコメディとして成立させています。なので、映画を見たときに想像を覆されるとは思いますが、これはこれで面白いので充分楽しめると思います。
【解説】登場人物がクセ者だらけ
映画「スノー・ロワイヤル」に登場してくる人物は総じてクセ者だらけです。普通の人が全然出てこないので飽きがこず、これもこの映画の魅力となっています。
まず、主人公のコックスマン自体がクセ者です。長年真面目に除雪作業員として働いてきて模範市民賞を受賞したにも関わらず、息子が殺されたことをきっかけに復讐の鬼と化してしまいます。「模範市民賞、キレる」というキャッチコピーにもありましたが、怒ったら怖い人物です。
さらに、敵方のマフィアもクセ者揃いです。健康志向で「果物とコカインで育った」と自称するボスのヴァイキング、年間100泊もモーテルで寝泊まりし、独自の方法で清掃員をナンパする部下、ゲイの幹部など様々です。
事件や抗争を追う警察も田舎町で退屈していたのでしょうか、事件が勃発するやいなやテンションが上がり、ワクワクしたそぶりを見せる警察もいます。
また、コックスマンがヴァイキングの暗殺を依頼した殺し屋は、すぐにターゲットに依頼を密告してしまいます。先住民族が集まったマフィアもお気楽な部下が多いですし、登場人物がそれぞれ個性を放ちます。
そして、それらがうまく絡み合い、ときには死ぬ原因になったり、ときに状況を好転されるなど、人物と物語がしっかり機能している部分もあります。このような人物たちが勘違いが素で争いを繰り広げます。当然、まともな結末になるはずがなく、状況はどんどん混乱を招いていくわけです。
【解説】コメディとはいいながらも無理矢理感はない
最初に、映画「スノー・ロワイヤル」はコメディ映画であると書きました。確かにジャンルとしてはコメディに該当するでしょう。ただ、何でもかんでも笑いを誘いに行こうとしているのではなく、しっかりと物語の線に沿う形で面白い部分を作っているというのは好感が持てました。
この映画をコメディとして見に行って、大いに笑おうとするという見方は若干違うのかもしれません。予告編などを見て「復讐モノかな?」と思いながら見ていくうちに「これってコメディじゃん」と気がつくのが多分一番面白いのかもしれません。
それを表すように、無理に笑いを取りに行くのではなく、映画の内側から滲み出てくるような笑いが散りばめられていました。
「ここが面白いですよ!」と過度にアピールするのではなく、観客が自分で面白い部分を発見していきながら勝手に笑っていく構造になっています。
実はこの部分が映画「スノー・ロワイヤル」の一番の核になっている部分だと考えられます。物語の登場人物は、それぞれ真面目かつシリアスに物語の中で動いていて、その中で自然なシーンとして笑いが盛り込まれているというのが面白さに繋がっていきます。
押し付ける笑いではなく、気づかせる笑いを重視して作っていることが伺えるので、コメディ映画としても気持ち良さが残り、多少期待外れな部分があったとしても、許せてしまう好感度はあります。
また、全体的に復讐劇という流れを作っており、シリアスかつ緊張感のあるシーンを織り交ぜることによって、笑いのシーンで上手く緩和しているのが見事でもあります。
【解説】除雪車の迫力がすごい
この映画の魅力は復讐と除雪車といってもいいでしょう。コックスマン操る除雪車の迫力は映画の見所の1つです
そして、除雪車の映し方によって、見え方が変わってくるというのも面白い部分でもあります。最初は普通の除雪作業員として、雪道を除雪していくだけの除雪車です。見え方としては街の役に立っている暖かい印象さえ伺えます。
しかし、復讐の鬼と化したコックスマンが乗り込んだ除雪車はまさに暴走状態で、サイズ感も合間って、とんでもない残虐性を帯びたマシーンに早変わりします。
除雪車でターゲットの車を追跡しながら、先回りして道を塞いでいくシーンなど、怖ささえ感じるほどの使い方でもありました。薄暗い雪道の中をスピード全開で走る除雪車は必見です。
また、映画のラストでは除雪車が大活躍を繰り広げます。「こんな使い方あったんだ!」と思わせられるシーンの連続で、除雪車のパワーをまざまざと見せつけられます。
【考察】ハリウッドコードのてんこ盛り
最近のハリウッドでは「多様性」が声高に叫ばれています。近年のアカデミー賞でもマイノリティが題材になる作品がノミネートされており、俳優への賞もそういった傾向を見せています。
その中で、映画のキャストの中にも多様性を保たせようとする意見も散見されます。キャストの人種のバランスなどを意識するような感じが目立っていますね。
この映画「スノー・ロワイヤル」では、それを逆手にとったような演出がなされているようにも見えました。物語の中で、そういった多様性を感じさせるキャストとしては、黒人の殺し屋、アジア系の妻、ゲイのマフィア幹部、健康志向のヴァイキング、先住民族のマフィアなどがいました。
物語としてはヴァイキングを親玉にするマフィアと、先住民族のマイフィアが中心となるのですが、それ以外の面々としては、まるで「とりあえず出しておけば文句も言われまい」という意図を感じさせます。
黒人の殺し屋もコックスマンから依頼を受けて、すぐさまターゲットに密告した結果殺されてしまいます。ゲイのマフィア幹部に至っては、なんの前触れもなく車の中で部下とキスをします。
アジア系の妻に関しても物語には大きく絡みませんし、条件をクリアするために寄せ集められたような印象さえ受けます。
しかし、深読みすれば、これ自体が大きなギャグとして機能しているとも取れます。
ゲイ幹部がいきなり部下とキスするシーンは何の伏線もなく、唐突に行われたのですが、これも「性的マイノリティを出しておけば、文句も言われまい」という目的があったのではないでしょうか。
ハリウッドでは多様性を叫ぶあまり、映画としての質とどのようにバランスをとるのかという課題とぶち当たっている部分もあるでしょう。
そういった状況への皮肉的な解決策として、こういった演出が行われたのではないかと深読みしてしまいました。これらのシーンを抜いたところで物語に大きな影響を及ぼさないことを考えると、これも監督の意図した部分なのかもしれません。
これだけ意図的に笑いを取ってくる映画なら、あり得る話かと思います。
【解説】今作はリメイク版?原作の方も見てみましょう
実はこの映画「スノー・ロワイヤル」は、2014年にノルウェー、スウェーデン、デンマークの共同制作で作られた「ファイティング・ダディ 怒りの除雪車」という映画のハリウッドリメイク版でもあります。
しかも、監督はハンス・ペテル・モデンドと変わっておらず、ストーリーも大きく変わらないので、2つの映画の違いを楽しむことができます。「セルフリメイク」というやつですね。
映画「スノー・ロワイヤル」を見て面白いと思ったのであれば見てみることをオススメします。批評家の評価では、「滅多に見られない上質なリメイク作品」という評価を受けていたので、もしかしたら「ファイティング・ダディ 怒りの除雪車」に関しては、ある程度雑な部分も目立つかもしませんが、それはそれで面白いと思います。
映画「スノー・ロワイヤル」はコメディ色強めのファーゴ!
映画「スノー・ロワイヤル」の作品の方向性としては、サスペンスストーリーでありながらコメディ要素が詰まった「ファーゴ」とよく似ていました。
「ファーゴ」の方では、自動車販売員の男が妻の狂言誘拐を依頼し、妻の父親からの身代金を奪おうとしていたのですが、ちょっとした勘違いをきっかけに大惨事になってしまうというもので、全体的にはシリアスな部分が目立つのですが、この映画にコメディ色を強めたのが映画「スノー・ロワイヤル」といえます。
色々な要素のある映画ですが、気楽に見て十分笑える作品だと思いますので、ぜひ視聴してみて欲しい映画です。暴走する除雪作業員と勘違いが引き起こす抗争劇に注目です!