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映画『クワイエットルームにようこそ』ネタバレ感想・考察!松尾スズキが描く精神病院を舞台にしたヒューマンドラマ

精神の病気を患った人が描かれている

映画『クワイエットルームにようこそ』は松尾スズキが原作・監督・脚本を務めたヒューマンドラマです。フリーライターの佐倉明日香が入院する精神病院を舞台に、個性的な入院患者との関わりが描かれています。

透明感ある印象の蒼井優が痩せた拒食症患者を演じるなど、演技派俳優が複雑な役を熱演。シュールな笑いが多い映画かと思いきや、精神を病んだ人たちに焦点を当てたシリアルな内容がベースになっています。

今回は映画「クワイエットルームにようこそ」の感想と解説を紹介します。ネタバレも含みますので注意してください。

目次

映画「クワイエットルームにようこそ」を観て学んだ事・感じた事

・心を病んだ人の心理を深く洞察した作品
・蒼井優や宮藤官九郎などわき役も豪華でコミカルなシーンも多数

映画「クワイエットルームにようこそ」の作品情報

公開日2007年10月20日
監督松尾スズキ
脚本松尾スズキ
出演者佐倉 明日香(内田有紀)
焼畑 鉄雄(宮藤官九郎)
ミキ(蒼井優)
江口(りょう)
コモノ(妻夫木聡)

映画「クワイエットルームにようこそ」のあらすじ・内容

映画「クワイエットルームにようこそ」のあらすじ・内容

ライターとして仕事にはげむ主人公の明日香。前の旦那が亡くなったことを知り、精神的ショックから薬を飲みすぎ、意識を失ってしまいます。

目覚めたときには、身体を拘束されて精神病院の閉鎖病院で入院させられていました。

閉鎖病棟で出会う入院患者との関わりを通して、明日香は自分の過去を返ります。精神病院というナイーブな場所を大胆かつコミカルに描いた松尾スズキの話題作。

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映画「クワイエットルームにようこそ」のネタバレ感想

精神の病気を患った人が描かれている

精神の病気を患った人が描かれている

本作は、精神病患者を描いた作品で、原作が芥川賞候補にもなりました。映画版は原作と内容の異なる部分も少しあります。初めて視聴したときは「ナイーブなテーマなのに、よく書いて映像化する勇気があったなあ」と思いました。大胆に描きすぎて、今ならあちこちからクレームがきそうな内容の気もします。

でも、精神の病を扱いながらもコメディタッチな演出を入れることで「精神を病んでいても明るく生きることができる」という救いを与えてくれているとも感じました。

 

“精神を患った人”という難しいテーマにもかかわらず、ところどころに挟まれる笑いの間合いがよく、コミカルな印象です。ブラックジョーク風の笑いのテンポが秀逸。今見てもクスリとするような笑いで、暗い題材の本作を明るいタッチに演出してくれています。

扱う題材はとても重いのですが、松尾スズキ監督で宮藤官九郎出演ということもあり、とくに前半は少し明るめな雰囲気が定期的に漂います。松尾スズキならではのシュールな笑いが随所にちりばめられています。

精神的にまいっていて現状に悲観している人は、少し気分転嫁になる部分もあるかもしれません。でも、胃洗浄のシーンなど、観ていてつらいシーンもあります。ご自身のメンタルの調子と相談して視聴することをおすすめします。

精神病院の閉鎖病棟がモデル

本作の病院のモデルは、精神病院の女性専用閉鎖病棟です。主人公の明日香が入れられた「クワイエットルーム」は、この閉鎖病棟のなかでも自傷の可能性のある重症患者が入れられます。入院当初、明日香は身体を5点も拘束もされていました。

ライターの明日香は原稿の締め切りが気になり出版社と連絡を取りたがりますが、りょう演じる看護師江口から「(仕事などの)しがらみから守るのが閉鎖病棟です」と冷たく言い放たれてしまいます。

閉鎖病棟は「患者の自由をうばう怖いところ」というイメージですが、「自由だからこそ周囲の欲求に応えすぎて自分を痛めつけてしまう人を守るところ」なのだと思いました。

出演するキャストが豪華


内田有紀をはじめ、蒼井優や大竹しのぶ、妻夫木聡、りょうと演技派俳優が顔をそろえています。また、人気脚本家の宮藤官九郎や映画監督の庵野秀明など、個性的な出演者も多く、監督の松尾スズキは人脈が広くて人望のある方なのだとあらためて感じました。

内田有紀は明るくはつらつとした演技で、蒼井優はこれまでのイメージを覆すダークな印象でした。大竹しのぶはぶっ飛んだ役柄にはまっていて、妻夫木聡は得意のちゃらんぽらんな男性を好演、りょうはイメージ通りのクールな役柄を自然に演じていました。

個人的に本作は阿部サダヲが出演していてもおかしくないような気がしています。でも、当時の阿部サダヲの勢いを考えると、映画そのもののイメージをかえてしまうのかもしれませんね。

拒食症患者を演じる蒼井優

今作ではドレッドのようなヘアスタイルで、黒っぽいファッションに身を包んだ蒼井優が出演しています。蒼井優演じるミキは拒食症患者であり、身長160cmの蒼井優は役作りのために体重39㎏まで減量したそうです。

ミキのセリフの「拒食の人はナースセンターで食べるの。食べることが治療だから」などから、拒食症で入院したらどのような生活になるのかが垣間見えます。

ミキ演じる蒼井優はいつものふんわりしたやわらかい印象とは異なる雰囲気で、オールバックのヘアスタイルで目もつりあがっていて眼光するどくきつそうな人です。無垢で透明感のある蒼井優のイメージとは違う、影と毒のある彼女をみることができますよ。でも、椅子に座っているたたずまいは、細くて洗練されたかわいらしいお嬢さんでした。

大竹しのぶは拒食症患者の西野役

明石家さんまの元妻の大竹しのぶは拒食症患の西野を演じています。映画公開当時の2007年で50歳を迎えたのですが、作中ではとっても若々しくてびっくりしました。

西野は金髪のかつらをかぶってジャージ姿ということもあるのでしょうが、笑顔もはつらつとしていて本当に若い印象です。薬で頭がもうろうとしていて理性がとんでいる様子を演じていて、くったくなく笑う表情は少女のようでしたね。

本作に出演するほかの俳優さんたちには、一線で活躍する名優ということもあってどうしても健康美のようなものがにじみ出ているのですが、大竹しのぶだけは病んでいる雰囲気を出したうえでの美しさでした。

ハリセンボンの箕輪はるかと近藤春奈も出演

2007年当時から人気を博していたお笑いコンビハリセンボンも出演しています。箕輪はるかは拒食症患者役で近藤春菜は明日香の友だち役です。近藤は明日香の回想シーンに登場し、カラオケボックスで物まねをしています。この1シーンのみなので、見落とし注意です!

当時、近藤は「女優業にどっぷりつかっていきたい。目標は内田有紀さん」と語っていたのだとか。このコメントは笑いをとるための冗談でしょうが、近藤は女芸人のなかでも頭ひとつ分くらい抜き出ているイメージです。器用にいろいろとこなせるタイプなのかもしれません。最後のほうに登場する箕輪はるかは、細くて背中を丸めていて役柄の雰囲気を醸し出していました。

庵野秀明の演技は上手でない

『エヴァンゲリオン』シリーズなど日本を代表する映画監督の一人の庵野秀明。スクリーンに登場しても、にじみ出る知性とセンスによるものなのか、味のあるいで立ちで、存在しているだけで画面が華やぎます。

でも、演技はみていられません。セリフは棒読みで抑揚がなく、素人感丸出しです。ほかの俳優が演技派なだけに、とくに目立ってしまいます。ただ、庵野秀明みたいな大物が役者としていくつものセリフを担当してくれるということで、本作のプレミア度は高くなった気がします。

サブキャラの多くは摂食障害患者


本作は精神病院を舞台にした物語で、サブキャラの多くは摂食障害を患う人たちです。蒼井優演じるミキ、大竹しのぶ演じる西野、箕輪はるかも摂食障害役です。

「トイレでウェーって聞こえたら、西野さんだから。不幸を食べて不幸を吐いて・・・。」というセリフや「自分が1食、食べなければ、世界のどこかの人が1食、食べられる。そのシステムに気づいたとき食べられなくなったの」というミキのセリフなどを通して、摂食障害について語られていました。

摂食障害は病名で症状をひとくくりにできるものではなく、原因と苦しみが人によって違うと感じました。摂食障害になる原因が違うなら対処法もかわってくると思います。食べることについて悩みがある方は、誰かに話して少しずつ気持ちを整理したほうがいいのでしょうね。

今なら許されないようなシーンも

身体に発疹のようなものが出て薬を欲しがる明日香。自由を阻止しようとする病院に対して、患者の自由を訴えて「場合によっては(自由が制限されている)今の状況を動画で撮影してネットでアップする!」と豪語します。病院側は、明日香の迫力におされて、明日香の意見を受け入れます。

映画公開当時は、精神病院にかかわらず病院と患者では患者が強かったような気がします。

実家からつき返された仏壇

明日香が身内のために実家に仏壇を送ったら「でかすぎる」というメールとともに送り返されてしまいます。私は、映画視聴前に「主人公が実家に仏壇を送ったら送り返された」というエピソードを知り、明日香が実家から拒絶されたのかと思っていました。

そういうわけではなく、明日香の恋人のてっちゃんが知人から紹介されて送った仏壇はとても大きな仏壇だったため、送り返されたようです。映画を観て、明日香が実家から拒否されたわけではなかったと知って安心できましたね。笑

明日香は2週間で退院

本作は明日香の入院生活2週間を描いています。映画を観ていると、内容が盛沢山なのでもっと長く入院しているのかと思っていましたが、意外と短くて驚きました。

身体を拘束されるくらい感情の抑制がきかなくなる患者でも、2週間くらいで退院させるものなのかと思いました。原作者でもある松尾スズキはかなり取材をしてから執筆しているようなので、実態はきっとそうなのでしょう。退院した患者は通院生活で症状の改善をはかっていくのだと思います。でも、自分の感情をコントロールしながら日常生活を送るだけでプレッシャーですよね。

もちろん暴力的行動はいけませんが、激しく怒っている人を隠し撮りしてSNS上で嘲笑するかのようにあげられていることがあると思います。感情的になっている人に対してもう少し寛容になっていったらいいと感じました。本作を通して、感情の爆発してしまう人はきっと、その人のなかで抱えきれない何かがあるのだろうと理解できました。

原作・監督・脚本・振付は松尾スズキが担当


松尾スズキといえば劇団『大人計画』の主宰です。「劇団の主宰という人はあれもこれも自分でやりたいんだろうな」と思ってエンドロールを観ていたら、本作で松尾スズキは、振付も「不可思議実体験ギバレンガー」という曲の歌詞も担当していました。

『クワイエットルームにようこそ』は松尾スズキのマルチな才能を発揮した作品で、明るく能天気そうな松尾スズキの暗い影の部分も垣間見ることができます。松尾スズキは映画『恋の門』で私情をはさむ監督というイメージになりましたが、やっぱり実力派の人なのだと感じました。

【考察】ミキが心配げに「おーい」とささやく

映画のクライマックスのシーンで、明日香がミキの顔を思いきり殴ります。ミキは、勢いで後ろに吹っ飛び、額は内出血していました。

それなのに、その後拘束されてしまった明日香をドアの隙間から見て「おーい・・・」とか細い声で心配そうにささやきます。「明日香から殴られたのに、なぜ?」と思いましたが、ミキは博愛主義者なのでしょう。きっと、やさしい人なのです。

拒食症になった理由も、「自分が食事をとらなければ他人が1食食べられる」というものでした。人を思いやるあまり、自分を思いやれていないのかもしれません。ミキは嘔吐もしますが、それも自虐感情によるものかと思いました。

摂食障害で悩んでいる人は、自分を大切にできているか一度振り返ってみてもいいかもしれません。食事をとりたくない理由は、「痩せてきれいになりたい」という以外に、自分を苦しめることが目的になっていないか、自分自身に問いかけてみてもいいかもしれません。

 

また、今作は松尾スズキ監督作品ということで、シュールでコミカルな笑いに包まれた作品かと思ったら、かなり深くて暗くてシリアスな作品でした。

精神病院が舞台ですし、精神状態のよくない人は少し注意して視聴したほうがいいと思いました。

映画の最初の部分は、明るいタッチで描かれています。ライターとしてバリバリ働く明日香のシーンから始まるのですが、油断禁物です。物語は突然、暗転します。

映画「クワイエットルームにようこそ」はコメディともシリアスとも解釈できる作品

『クワイエットルームにようこそ』の感想と解説を紹介しました。本作は監督・脚本を務める松尾スズキの原作小説をもとにした映画です。バリバリ働いていたフリーライター明日香の入院する精神病院が舞台で、摂食障害に悩むミキや西野などとの関係を通じて明日香の変化していく様が描かれています。

松尾スズキ監督作品ということで、シュールでコミカルな笑いを期待して観るなら注意が必要です。ところどころに笑いもありますが、物語のベースは精神を病んだ人たちの過去や考え方にあてられています。精神状態が良い時でないと、物語に感情が引っ張られて辛くなるかもしれません。

とはいえ、本作は登場人物のセリフを通して、摂食障害などについての学びがあります。俳優陣も豪華で、主役級の演技派がわきを固めます。宮藤官九郎や庵野秀明など豪華な顔ぶれも魅力です。コメディともシリアスとも解釈できる幅の広い映画が観たい人は、ぜひ視聴してみてください。

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