映画『孤狼の血』は2018年に公開された日本の任侠映画です。日本アカデミー賞を始めとする様々な賞を受賞し、続編の公開も決定しています。
本作は昔ながらの実録ヤクザ映画を彷彿させるような気合の入った作風が話題になりました。過激なシーンも多いですが、非常に強烈で見ごたえのある作品です。
そんな映画『孤狼の血』の個人的な感想や解説、考察を書いていきます。ネタバレを含む内容となっていますので、映画を未視聴な方はご注意下さい。
目次
映画『孤狼の血』を見て学んだこと・感じたこと
・完成度が高くて、古き良きヤクザ映画を体験できる
・街の人のために全てを懸けた男の生き様が凄まじい
・男の生き方について考えさせられる
映画『孤狼の血』の作品情報
公開日 | 2018年5月12日 |
監督 | 白石和彌 |
脚本 | 池上純哉 |
出演者 | 大上章吾(役所広司) 日岡秀一(松坂桃李) 高木里佳子(真木よう子) 瀧井銀次(ピエール瀧) 岡田桃子(阿部純子) |
映画『孤狼の血』のあらすじ・内容
1988年、広島の港町呉原市では地元の暴力団である尾谷組と、呉原に進出してきた広島の巨大組織五十子会系の組織である加古村組の間では不穏な空気が漂っていました。
そんな中、加古村組が関係している金融会社の社員が失踪し、両組織に緊張感が走ります。その社員の失踪事件を担当するのが、破天荒なベテラン刑事の大上と新人刑事の日岡です。
二人は失踪事件を機に、尾谷組と加古村組の抗争の始まりを防ぐために奔走します。しかし、話はさらにきな臭くなり抗争はやがて本格化していくがー。
映画『孤狼の血』のネタバレ感想
【解説】『仁義なき戦い』を彷彿させる古き良きヤクザ映画
『孤狼の血』は今の時代には珍しい、古き良きヤクザ映画を思い出させられます。まるで、かつての『仁義なき戦い』を見ているような感覚を覚えました。ヤクザ映画は昔、日本で大量に作られていましたが、現代では昔ほど大量生産されてはおりません。
しかし、この『孤狼の血』はそのような昔の古き良きヤクザ映画を復活させたような内容となっていました。本作は、現代のヤクザ映画である『アウトレイジ』シリーズとは、また違った良さを秘めている作品だと思います。
ヤクザ映画でよく見られているものは、暴力やカッコイイ男の信念です。『孤狼の血』は、その両方が作中で凄まじい迫力で描かれています。イケメンとかではなく、汗と血に塗れているような男臭い映画で、まさに昔ながらの日本の任侠映画です。現代では中々見られませんが、もしかしたら若い人よりも年配の人の方が、こういったヤクザ映画は人気があるかもしれませんね。
本作の役者の方々も非常に気合の入った演技で、映画を見ていて本当に面白かったです。主役である大上役の役所公司さんは、非常に流暢な広島弁を喋っていて、役がバッチリ決まっています。他にも日岡役である松坂桃李さんも、最初は育ちが良いエリート刑事っぽさがあったのですが、話が進むにつれ、どんどんと雰囲気が変わっていく様子もすごかったですね。
全体的に男臭い『孤狼の血』ですが、役者さんが自然と汗をかいています。こういった暑苦しいところが非常に作品にマッチしており、ヤクザ映画らしい男臭さを感じられ、エネルギッシュで暑苦しい様子を感じるだけでなく、昭和的な雰囲気もばっちり掴んでいてよかったです。
『孤狼の血』は、続編が決まっているので本作はそのシリーズの第1作となるのですが、この第1作だけでも十分な完成度を誇っていると個人的には思います。シナリオ的にもずいぶんとスッキリした終わり方でした。終わり方にはしっかりとしたカタルシスも感じられ、後腐れがないです。続編があるとは思えないほど、綺麗に完結していると思います。
あのラストからどう話が進んでいくかは確かに気になるところですが、本作だけでも十分に楽しめることは間違いないと思います。そのため、『孤狼の血』はエンターテイメントとして完成度の高い作品だと評価できるのではないでしょうか。
個人的には、本作の続編にも期待しているので、登場人物とストーリーをよく把握して、続編に向けて復習しておくのも良いかもしれませんね。
【解説】グロくて怖い描写もあるが暴力描写に気合が入っている
『孤狼の血』はヤクザ映画なので、やはり多少の暴力描写はきついところがあります。あまりにも残酷で情け容赦のない暴力シーンで、思わず画面から目を背けたくなった人も多いのではないでしょうか。
しかし、そのような強烈な暴力描写があるからこそ、本作は非常にヤクザ映画として迫力のある映画に仕上がっていました。実際、暴力描写がしょぼいヤクザ映画なんて、見ていてちょっと退屈ですし物足りないですよね。ヤクザ映画にとっては、過激な暴力は切っても切り離せない関係だと思います。
とは言っても、『孤狼の血』における暴力描写は、他の映画よりも拘っており、ただ残酷でグロい暴力ではありません。むしろ、非常に緻密に作り込まれている洗練された暴力描写です。
まず冒頭の養豚所の暴力シーンでは、一発目から非常にえげつないシーンでした。冒頭であれだけの暴力描写を映すことから、この映画はただのヤクザではなさそうだと一気に映画に引き込まれます。つかみとしての暴力なのですが、その効果は抜群。あれだけで「これはただの映画ではないぞ。」ということが予感でき、観客を引き込ませることができていました。
他にも加古村の組員である吉田への拷問などは、今の時代でよく撮れたなと思うほどの拷問シーンでした。痛々しいだけでなく、下ネタも入っているので本当にこれを撮ったのか、スクリーンで映していいのかと、驚いた方も少なくないのではないでしょうか。
まさにギリギリまで攻めた暴力描写なので、このシーンは強烈に印象に残ります。このように『孤狼の血』の暴力描写はきわどいところを攻めていながら、非常に気合いの入った暴力が描かれていました。本作の魅力は、そのような強気の暴力描写もやはり含まれていると思います。
また、吉田への拷問のような痛々しくて凄惨な暴力シーンもそうですが、本作は映画的でただ残酷ではなく、印象に残る暴力シーンもバッチリと捉えています。
例えば、大上の死後に日岡が養豚所の一人息子を気を失うまで殴るシーンは、一見ただ凄惨なシーンに見えるかもしれません。しかし、日岡が狂気に走っているところが、日岡の目にもよく表れていて非常に印象的です。さらに何度もただ無表情で、相手が意識を失っていても殴り続けるというところは、日岡が完全に我を忘れて本能のままに暴力を奮っていることが伺えます。これは、日岡が大上を失ったことによる喪失感と怒りからくる暴力ですが、そのような日岡のやり場のない怒りと狂気をよく表していると個人的には思いました。
役者の演技もさることながら、暴力描写へのこだわりがこの作品の良さです。現代において、このレベルの暴力描写ができる日本映画はそんなに多くはありません。
【解説】昭和の雰囲気を見事に再現している
『孤狼の血』は昭和の広島を舞台にした物語ですが、その時代や舞台も細かく作り込まれ、素晴らしい舞台を醸し出しています。
例えば、警察署の事務所内を見てみると、当時はパソコンなどはなく、クーラーもそこまで普及していなかったのでしょう。映画内の事務所は暑苦しそうで書類が山積みです。役者の人たちもしっかりと汗をかいています。使っている車も古い型式ですし、携帯電話なんてものもありません。他にもお店の外観や売っているものまでどこか昭和を感じさせるようなものばかりです。
このようなことから、本作は舞台のディテールにもこだわっていることがわかります。まさに神は細部に宿る。舞台の細部にまで拘っているからこそ、映画にのめり込みやすく、熱中できる映画に仕上がっているのだと思います。もう一度映画を鑑賞する時は、そのような舞台のディテールにも注意してみると、本作の面白さが増すのかもしれませんね。
ディテールにこだわっているのは舞台だけでなく役者の方々もです。ベテランの役所広司さんは圧倒的な演技を見せつけてくれましたが、新米刑事役である松坂桃李さんも凄まじい演技です。
特に松坂さんが演じる日岡役は、新米刑事で少しおぼっちゃんが残るエリートから、破天荒な大上や腐敗している警察を目の当たりにすることで、内面の価値観や倫理観が変化していくという難しい役でした。最初の青臭さが抜けない新米刑事の日岡役と、後半の大上を失った後に少し狂気が入った日岡の役を、松坂さんはよく演じ分けられていたと思います。
他の役者の方も非常に作品に合った人ばかりですし、雰囲気に違和感を感じるような演技はほとんどありません。このような演技力の高さからも『孤狼の血』はエンターテイメント映画として完成度が高いと感じさせるのです。
【考察】大上という人間の魅力。遺したもの。
『孤狼の血』で一番魅力的で強烈に印象に残る人物は、やはり大上だと思います。大上は最初、天真爛漫で狂気に満ちた危ない人物に見えましたが、本当は街の人のことを一番に考えている非常に義理堅い男です。
大上は警察なのにも関わらず、ヤクザよりもえげつない調査のやり方が何度も見られました。捜査のために放火や不法侵入、取調室の拷問など、傍からみたら完全にイッてる危ない刑事です。しかし、それは仮の姿であり、全ては街の人を守るために必要なことでした。
ヤクザと警察の両方が頼れない状態で街の人を守るのは、綺麗事だけでは到底不可能であり、警察も賄賂容疑で揺すり、ヤクザにも容赦のない大上の行動は傍から見たら狂気に映ってしまいます。しかし、クラブのママや薬剤師の岡田には、警察やヤクザから守りきっていますし、岡田のことも大上は非常に気にかけていました。普段そのような優しい素振りは全く見せませんが、大上の胸の内には揺るぎない信念があります。
大上は誰よりも街の人を守るために懸命で、そのために狂気に近い行動をとる必要がありました。街の人のために手段を選ばずに一人でただただ奔走する一匹狼。ある意味非常に完成されたキャラクターであり、男性にはとてもカッコよく映るヒーロー像のような人物だったと思います。
大上は街の人を傷つけるような警察やヤクザには容赦はありませんが、街の人にはとても優しい人でした。まさに昔ながらのヤクザ映画で人気がでるキャラクターです。
大上のそういった魅力的な性格を考えると、作中のあらゆる場面で、大上が天真爛漫に振る舞っていたことも、実は大上の戦略があったのではないかと考えられるシーンがいくつかあります。
例えば、作中で大上が最初に日岡に対して、パチンコ店でヤクザに喧嘩を売れなどと無茶苦茶なことを押し付けたシーンがありました。実はこれは、大上の優しさからだったのかもしれません。危険極まりない街だから、無理そうならさっさと本部に戻った方が身のためだということですね。日岡が駄目だったらそれでいいですし、本当に実行したら捜査のためにもなる。個人的な推測にすぎませんが、そのような知略が大上にはあったのかもしれません。
大上が残したノートを見ると、大上は非常に緻密な考えと準備を怠らない用意周到な人物であることが想像できます。実際に日岡と良い仲になった薬剤師の岡田は、日岡を監視するための大上の差し金でした。どこまでが大上の計算だったのかはわかりませんが、大上がかなり用意周到な人物であることは、このことからもわかりますよね。
もしかしたら大上が最後に残したライターも、日岡に見つけてもらうための最後のメッセージだったのかもしれません。あのライターを買ったのは、日岡しか知らないわけですから。大上の真意は全くもって不明ですが、大上の性格を考えると、そのようなことも想像できなくはないと思います。
もし、本作をもう一度鑑賞する時には、大上が伏線を張っている、あるいは大上の何かしらの行動を注意深く見ていくと何か新しい発見があるかもしれませんね。
【考察】ヤクザと警察の間を行き来する綱渡りのような生き方
個人的に『孤狼の血』で一番語りたいのが、大上と日岡の生き方についてです。大上が行方不明になる前に、大上は日岡に自分の生き方をサーカスの綱渡りのようだと語っていました。綱渡りの生き方とは、ヤクザと警察の間をいったりきたりして、手段を問わずに街の人を守り続けるという生き方です。
映画でも明らかになっていたように、大上はヤクザだろうが警察だろうが何でも構わずに街の人を守っていました。そんな大上の生き方と想いを日岡が知った後、日岡も大上と同じような生き方をするようになってしまいます。
ラストシーンで日岡が尾谷組の若頭である一ノ瀬を利用して、五十子の会長を殺害させる。そして一ノ瀬を逮捕することで、事の収束を図りました。さらに、日岡は大上が残した賄賂の証拠で、警察を脅して街を守ろうとします。
これらの行為は、大上が過去にやってきた手段を選ばない街の守り方であり、警察とヤクザを1つのコマとしてしか見ておりません。そのような日岡のやり方から、日岡の行動はただの大上の復讐では留まらないと思います。恐らく、日岡は大上の意志と綱渡りのような生き方を引き継いだという形になったのでしょう。
最初は大上の法外で暴力的な捜査を批判して、本部までにも報告しようとしていた日岡でしたが、自分の上司である本部の警察も信用できなくなっていました。そんな状態で大上の覚悟と生き様を間近で見せつけられ、日岡は大上の跡を受け継ぐ決心をしたのだと思います。
しかし、日岡の決意は本当に良かったのかはちょっと考えさせられることですよね。何故なら、大上が命を懸けて守りたかった人の中には、恐らく日岡もいたからです。大上は日岡に自分と同じような生き方をしてほしいなんてことは、これっぽっちも思っていなかったと思います。実際に大上をよく知る銀次も、日岡の決意には完全に肯定しているとは思えない態度をとっていました。日岡の選択は大上にとって望ましいものではなかったのかもしれません。
大上がもし生きていたら、日岡は大上のような綱渡りの危険な生き方を選択せずに済んだのかもしれませんね。それは日岡にとって良いことなのか、悪いことなのかはきっと誰にもわからないでしょう。
続編で大上の意志と生き方を引き継いだ日岡はどのように行動していくのかも気になります。これから日岡がどのように変わっていくのかもわかりません。もし、日岡が大上と同じように、綱渡りのような生き方を今後していくというのなら、日岡もいつか大上のように、綱から落ちてしまう日が来てしまうのでしょうか。
そしてそれは、日岡にとって覚悟していることなのか…。こういうことを考えると余計に続編が気になりますが、日岡がどうなるのかがちょっと怖いですね。
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