映画「パリ、嘘つきな恋」は、2018年にフランスで公開され、200万人を動員した大ヒット映画です。日本では2019年5月に劇場公開されました。
プレイボーイで軽薄な男・ジョスランがついた1つの嘘がきっかけとなり、車椅子生活を送るフロランスと恋に落ちるというラブストーリーです。
2人は惹かれあっているものの、ジョスランは深まる関係に比例して本当のことを打ち明けることができなくなっていきます。そんな大人の恋愛模様を軽妙なコメディで描いたフランス映画となっています。最後には心温まる結末を迎え、キャラクターの2人を応援したくなってしまうでしょう。
今回は映画「パリ、嘘つきな恋」のネタバレ感想や解説、考察を書いていきます。
目次
映画「パリ、嘘つきな恋」を観て学んだ事・感じた事
・軽快なギャグと深まる恋愛が映画をより魅力的にしてくれる
・障害を持つ人と接するといった題材を大胆かつ緻密に描く
・キャラクターが魅力的ならストーリーなど二の次でも構わない
映画「パリ、嘘つきな恋」の作品情報
公開日 | 2019年5月24日 |
監督 | フランク・デュボスク |
脚本 | フランク・デュボスク |
出演者 | ジョスラン(フランク・デュボスク) フロランス(アレクサンドラ・ラミー) ジュリー(キャリライン・アングラード) マリー(エルザ・ジルベルスタイン) マックス(ジュラール・ダルモン) |
映画「パリ、嘘つきな恋」の内容・あらすじ
ジョスランは大手シューズ代理店で働くビジネスマンでプレイボーイ。自分を偽る嘘が大好きで軽薄な恋で遊びにふけています。ある日、亡き母の実家で車椅子に座っているところをケアワーカーの隣人・ジュリーに見られます。
彼女の気を引くために車椅子生活であると嘘をついたジョスラン、そんな彼を信じたジュリーは同じ車椅子生活の姉・フロランスを紹介します。
ジョスランの嘘がきっかけで出会った2人でしたが、次第に2人は惹かれあっていきます。そして、2人の恋が深まれば深まるほど、ジョスランは本当のことを打ち明けることができなくなっていきます。
映画「パリ、嘘つきな恋」のネタバレ感想
映画「パリ、嘘つきな恋」は、フランス映画らしいおしゃれなタッチと軽妙なコメディが入り混じった大人のラブコメ映画です。
ジョスランの嘘がきっかけに始まった恋愛だったのですが、次第に相手を気持ちが本物に変わっていきます。その中で、2人の関係のとって決定的な嘘を打ち明けることができないジョスラン。
嘘をつき通して2人の関係を続けていくか、真実を打ち明けて相手を失望させてしまうかで葛藤する姿はコメディとしてもラブストーリーとしても魅力的でした。
また、車椅子生活ながらもテニスやバイオリンなど活発な生活を送るフロランス。優しく包容力を持ちながらも、障害があるなんて思わせないほどの明るく前向きな姿に考えさせられる部分もありました。
軽快に進むストーリーとエスプリの効いたギャグ、軽やかに見ながらも最後には心暖まるラブストーリーに着地させていく気持ちよさに惹かれる映画です。
ここでは映画「パリ、嘘つきな恋」の感想を1つ1つの項目に分けて書いていきます。
【解説】人気コメディアンが描く大人のラブストーリー
この映画の監督・脚本・主演を務めたのがフランスのコメディアン「フランク・デュボスク」です。
フランス国内ではかなりの人気者で1人芝居などを得意としています。そんな彼が監督として挑戦したのがこの映画です。もともと彼はコメディアンとして女好き&嘘つきの気取り屋を演じることが多く、いけ好かない部分もありながら憎めないキャラクターを得意としています。
映画「パリ、嘘つきな恋」に登場するジョスランは、まさに彼にとってはまり役といってもいいでしょう。
さらに、劇中にはコメディアンらしい軽快な笑いが随所に散りばめられています。物語の大筋としては、車椅子生活であるという嘘をついたプレイボーイが車椅子生活の女性と恋に落ちてしまい、だんだん引っ込みがつかなくなり、本当のことが言えなくなるというものでしたが、要は「いかにバレないように振る舞うか」が重要なポイントになります。
フロランスの前でジョスランがどのように振る舞うのかが笑いのキーになっていて、あの手この手でアイデアに溢れるシーンの連続で観客を楽しませてくれます。
ジョスランが働いている会社へ急に訪問したフロランスは、当然会社の中では車椅子に乗っていません。突然のことで焦った結果、ジョスランがデスクの上に座ってことなきを得たりします。
こういったシーンの連続で、上品に笑いを重ねていく姿勢はコメディアンらしい一面を見せてくれます。
また、ジョスランはフロランスやジュリーらの前では車椅子に乗っている必要があるのですが、それ以外ではその必要がありません。なので、フロランスと別れた直後に急に車椅子から立ち上がって周囲の人を困惑させるなど、1つの題材の中で設定をあらゆる角度から活かしたギャグが魅力的でした。
フレンチコメディらしい押し付けがましくなく、観客を気持ちよく笑わせる様はこの映画の大きな魅力となっています。
【解説】障害者が出ても暗くなりすぎずに軽快な物語が進む
最近では、障害者を題材にすることのタブーな感覚というのはある程度取り払われてきた部分はあるでしょう。ただ、それでもデリケートになってしまいがちなところもあります。
さらには「感動ポルノ」という言葉で批判されるような物語に終始することもしばしばあります。
映画「パリ、嘘つきな恋」はそういった要素を無くし、障害を持っているキャラクターが出演していたとしても同じようにギャグを作りますし、変に暗くなったり、無理やり感動させる方向に持っていきません。
あくまで障害を持っていようがなかろうが私たちは同じであり、同じように面白さを感じるし、自分とは違う人に対して同じような目線を向けます。これ自体は自然なことであり、それが悪意や偏見に繋がらなければいいわけで、そういった部分をタブー視するのはむしろ不自然なことでもあります。
この映画では、ジョスランが車椅子生活であるという嘘をついた上で女性と出会い、恋に発展していくというストーリーで、ジョスランがついた嘘自体は非常識なことではありますが、決して不愉快になるような描かれ方ではないと思いました。
障害者を揶揄するようなブラックユーモアでもなく、感動を押し付ける演出でもなく、直球的なコメディを描いたという点では、この作品が高く評価されるポイントの1つだといえます。
フロランス自身が、「私のお尻はかわいいのに誰にも見えない」という自分の障害を自虐的に言うようなジョークを言ったりもします。
どこか私たちもそういった冗談を言うのはいけないことだという意識を持ってしまいますが、実際私たちも自虐的なギャグを言ってガス抜きをしたり、自分の気持ちを吐露したいと思うことはあるでしょう。
「障害」というテーマをを何かしらのコンテンツで扱う場合に、制作者は常に頭を悩ませ続けることになるとは思うのですが、そういったデリケートな題材を扱いながらも気持ちよく笑わせてくれました。
映画「パリ、嘘つきな恋」には難しいテーマに挑みながらも、それを見事にエンターテイメントに昇華させ、最後には心をホッコリさせる映画でした。
【解説】落ち着いた大人のラブストーリー
この映画はコメディが中心にありながらも、物語全体は大人の恋愛を描いたものになっています。その部分もやはり大人の落ち着いた恋愛というか、激しく愛憎渦巻く感じではなく、緩やかに進んでいきます。
ジョスランは大手シューズ代理店のエリートサラリーマンで、収入も地位も高い男性です。プレイボーイで軽薄な恋愛ばかりをしていた彼ですが、彼のついた嘘がきっかけでフロランスと出会うことになります。
しかも最初はフロランスの妹ジュリーに近づくためについた嘘でもありました。女好きでスケベなオッサンなので、スタイル抜群でケアワーカーの仕事をしているジュリーに接触するため偶然が重なった部分もありましたが、車椅子生活であるという嘘をつきます。
その中で姉のフロランスを紹介されるわけですが、最初は特段彼女に惹かれている感じではありませんでした。むしろ狙いはジュリーだったにも関わらず、姉を紹介されて当てが外れた感じになっていました。
しかし、彼女の生き生きとした姿、テニスで躍動し、バイオリンを優雅に奏で、包容力や優しさ、明るくてユーモラスな彼女の魅力に惹かれていきます。
一方でフロランスもジョスランに惹かれていきます。フロランスは自らの境遇から自分を障害者というフィルターを通じてしか見てもらえないことが多く「1人の女性」として見てもらいたいという願望がありました。
ジョスランはそんなフロランスを障害など関係なく、女性として見てくれたというポイントに恋心を抱いていきます。しかもフロランスはジョスランの嘘を最初から見抜いていたというのも重要なポイントです。
考えても見れば車椅子で長く生活している人から見れば、ジョスランのぎこちない姿は当然不自然に見えます。車椅子生活なのに靴がすり減っていたり、エレベーターに前向きで入っていくシーンなど気づこうと思えば、気づける要素はたくさんありました。
ジョスランの嘘に気がついていたフロランスですが、それでも彼に近づき恋に落ちていきます。そこにはジョスランが1人の女性として自分を見ていたことに気がついていたといえますし、そこに嘘がなかったともいえます。
その気持ちが本物であるなら、たとえ2人の関係性にとって非常に重要な意味を持つ嘘であっても大きな問題ではないという奥深さもあります。
また、ジョスラン側からしてみれば「真実を告げることによって相手を傷つけてしまい、それで自分を傷つけてしまう」ことになります。それゆえに嘘を重ねてしまい、本当のことを打ち明けることができない臆病な一面を見せています。
逆にフロランスはジョスランの嘘を見抜いていながらも、相手が傷つくことをわかっているからこそ気づかないフリをしています。そういったところにも、相手を思いやる気持ち(ジョスランの場合は自分が可愛いのもありますが)が見えて心奪われてしまいます。
もちろん人によっては許せないことかもしれませんが、フロランスは障害のことを決してネガティブに考えているわけではなく、その上で自分らしく明るく生きている女性でもあります。
「障害」ではなく「個性」であるという表現では陳腐かもしれませんが、個性として、自分らしさの1つとして見なしているのであれば、この嘘自体はフロランスにとってさして重要なことではなかったのかもしれません。
また、フロランスは嘘を嘘として気が付いた上で恋を楽しんでもいます。そして、真実を告げられた瞬間にこの恋が終わることも察知していました。
この辺も大人の恋愛といった感じがしていいですよね。嘘を嘘として認めながらも、束の間の恋愛を思い切り楽しむ様はフロランスの魅力的な人物像が浮かび上がってきます。
【解説】映画を彩る映像美にも注目
軽快なコメディと大人のラブストーリーが魅力の映画「パリ、嘘つきな恋」ですが、注目したいのが、この映画をさらに彩る映像美です。
演出がおしゃれで魅力的で、アッと驚かされるようなシーンがあり、それが2人の恋愛の盛り上がりをより観客に伝えてくれます。
特にお気に入りなのが、ジョスランとフロランスが家でシャンパンを飲んでいるシーンです。広めのベランダのような場所にテーブルを広げお酒を楽しんでいた2人、ジョスランがリモコンのボタンを押すと床が下がっていきます。
2人がいた場所はジョスランの家にあるプールの上で、2人は徐々に水の中に沈んでいきます。それを上からのカメラで捉えた映像が本当に美しいです。フロランスの赤いドレスが放射状に広がり、色のコントラスト光の反射が美しく、床が下がっていくという予想外の演出にも驚きましたが、このシーンを演出したセンスは素晴らしいと思いました。
こういったおしゃれなシーンが随所に登場することによって、ラブストーリーをさらに彩っています。
【考察】キャラクターが魅力的な分、細部を考えなくてもいい
映画にはさまざまな要素があり、人によって評価する基準が異なるものです。そういった点で言えば、映画「パリ、嘘つきな恋」はストーリーに少々無理があると感じてしまう部分もありました。
しかし、そういった細かい部分が気にならないほど、キャラクターが魅力的な映画でもあります。気になる人は疑問を抱えたまま進んでいくしかなくなってしまうのですが、キャラクターを好きになって、この人たちがこれからどのように動くのかをワクワクしながら見ていく分にはそのようなことを気にする必要はありません。
そもそもこの映画はコメディですし、重厚なテーマや練りに練ったプロットがあるわけではありません。逆にそれがあるからといって面白い映画になるわけではありません。それらは十分条件であり、必要条件ではないからです。
なので、軽い気持ちで最後まで見ることができますし、見やすく面白い映画であることは間違いありません。それを成り立たせているのは、この映画に登場する人物が魅力的であるということに尽きます。
愉快でユーモラスで、ラブストーリーに心奪われる。細かいことは関係なく、これらの要素がこの映画の魅力を形作っており、映画として最後まで目が離せず、恋の行方が気になって仕方がなくなるほどの魅力があります。
映画「パリ、嘘つきな恋」は嘘から始まる真実の恋を描いたロマンチックな作品
映画「パリ、嘘つきな恋」はおしゃれな映像に魅惑のラブストーリー、そして散りばめられたコメディと楽しく、そして心暖まる映画となっています。結構スレスレな題材を扱っているように見えて、全くそのような印象を抱かせないというのもこの映画の凄い部分でもありますね。
障害を持っていながらもキラキラと自分らしく生きるフロランスと、健康な体を持っていながらも臆病で自分と向き合うことができないジョスランが対比的で、2人の関係性をより際立たせてもいます。
クスッと笑えて、2人の恋の行方最後まで目が離せない映画となっています。嘘から始まる真実の愛を描いた映画「パリ、嘘つきな恋」をぜひご覧になってみてください。