映画『雪の華』は「3代目 J Soul brothers」のボーカリストである登坂広臣さんと、ファッション雑誌「seventeen」の専属モデルとして活動しながら、女優としても知名度を挙げ始めている中条あやみさんが主演の恋愛映画です。
東京と北欧のフィンランドを舞台にしたこの恋愛映画は、今から16年前の2003年にリリースされた中島美嘉さんの大ヒット曲、「雪の華」からインスパイアされて制作された映画だそうです。あの名曲がモチーフになっているだけに、名曲の名にふさわしい大人の心温まる素敵な恋愛映画でした。
今回は映画「雪の華」の個人的な感想やネタバレ解説を紹介していきます!
恋愛映画だけに結末を知ってから見てしまうと楽しみが半減してしまう可能性があるので、その点は注意して下さい。
目次
映画「雪の華」を見て学んだこと、感じたこと
・圧倒的に映える、非日常を感じさせるフィンランドの街並み!
・勇気を振り絞って自分の殻を打ち破ることの大切さ
・音楽映画としても十分に楽しめる、物語を盛り上げた葉加瀬太郎さんの音楽
映画「雪の華」の作品情報
公開日 | 2019年2月1日 |
監督 | 橋本光二郎 |
脚本 | 岡田恵和 |
出演者 | 豊坂広臣(綿引悠輔) 中条あやみ(平井美雪) 高岡早紀(平井礼子) 浜野謙太(岩永) 箭内夢菜(綿引初美) |
映画「雪の華」のあらすじ・内容

都内の図書館に勤める平井美雪は、幼少期から両親に幾度となく聴かされていたフィンランドで“オーロラを観る”ということと、“恋をする”という2つの夢がありました。
フィンランドまで足を運ぶも肝心のオーロラは見れず、意気消沈していた美雪。そして帰国直後には、兼ねたから患っていた病気の悪化による余命一年の宣告を受けてしまいます。
「どうして私ばかりがこんな目に……」、そう思いながら散々な人生に絶望する美雪は帰り道、引ったくりに遭ってカバンを奪われてしまいます。思わずその場で座り込み自暴自棄になる美雪を助けたのは、偶然近くを通りかかっていた綿引悠輔でした。
後日、美雪は偶然立ち寄った喫茶店で従業員として働く悠輔と再会し、その時に悠輔の働く店の経営が困難になっていることを小耳に挟みます。そこで美雪は悠輔に対して100万円を支払うことと引き換えに「1ヶ月限定の恋人になってほしい」と提案しました。
こうして100万円で成立した悠輔と美雪の1ヶ月限定の付き合いが始まることとなります。
映画「雪の華」のネタバレ感想
平凡な日常をキラキラさせる、橋本光二郎監督の魔法

今回、メガホンを握ったのは過去に「羊と鋼の森」や「orange オレンジ」を手掛けた橋本光二郎監督。過去作品でもそうでしたが、橋本光二郎監督の特徴は何と言っても平凡な日常、在り来りな風景を輝かせることのできる方です。
東京とフィンランドを舞台にした今作は、余命一年を宣告された美雪が悠輔と期間限定の恋人関係になり、残りわずかな時間を共に過ごす……といった内容になっています。視聴者である私たちが日常で経験するようなことではないので、容易く感情移入ができるような物語ではないかもしれません。これは今作に限ったことではなく、過去に手掛けた「orange オレンジ」も同様に、「雪の華」も多少のファンタジー要素を含んでいると思います。
ファンタジー色を含む映画の中にも少なからずある、現実でも起こり得るような日常的なシーン。その何の変哲もない一コマを輝かせるのが、橋本光二郎監督は非常に上手いです。
例えば劇中でデートを終えた後、悠輔が美雪にメッセージを送るシーンがあります。「無事に帰ったか?」といった内容のメッセージでしたが、このメッセージを受け取った美雪は自室から外を眺めながら、頬を緩ませてスマートフォンを握りしめていました。その表情だけで、今日一日のデートで美雪がどれだけ充実感を味わったのか、そして期間限定で付き合い始めたはずの悠輔のことを本気で好きになっているのかが、視聴者には伝わるのではないかと思います。
他にも一緒に食事をしたり他愛もない会話をしたり、そんな物語の中枢ではない場面でのやり取りや演出、登場人物たちの心境の表し方が非常に巧みで、時間が経つにつれて視聴者を自然と登場人物たちに感情移入をさせてくれるのです。
『余命一年を宣告された若い女性が、100万円を払って期間限定の彼氏を作り、一緒にフィンランドへ行く』
このあらすじだけ見ても、正直感情移入をして物語を楽しむのは難しいと思いますが、日頃体験するような何気ないシーンを丁寧に作り込むことで輝かせ、登場人物の心境の変化を事細かに的確に表現することによって、自然と視聴者に親近感を覚えさせ、いつの間にかファンタジーの世界ではなく身近な世界の物語だと感じさせてくれるのです。
誰もが経験するような出来事、普段私たちが暮らしている中にも転がっているようなシーン。そんな「普通の日常」を輝かせる腕前があるからこそ、多少のファンタジー要素を含む作品でも多くの視聴者を置いてけぼりにせず、惹きつけれるのではないかと思います。
今作を見る際は、特に前半部分に多い二人のデートシーンや日常パートの二人の表情や言動に注意して見たら、より一層登場人物たちに感情移入ができて物語を楽しめることができるはずです。
視聴後にもう一度聴きたくなるような、心温まる二人の不器用な恋愛模様

冒頭で記述したように、この映画は中島美嘉さんの名曲「雪の華」からインスパイアされて製作された作品になります。中島美嘉さんの歌声が儚さを感じさせる、冬時期に自然と聴きたくなる定番曲の1つである「雪の華」。今作はそんな名曲に相応しい、大人のラブロマンスになっています。
子供のように無邪気で夢見がちな美雪とぶっきらぼうで不器用な性格の悠輔。100万円で成立した二人の「1ヶ月限定の恋人関係」が始まった当初、あまり乗り気ではなかった悠輔は美雪への接し方が分からずに戸惑いを感じ続けていました。
「100万円のため」「働く喫茶店のため」「契約のため」と自身に言い聞かせ、美雪の要求に渋々付き合っていた悠輔ですが、一緒にお弁当を食べたり水族館デートをしたりと二人で多くの時間を過ごしていく過程で、次第に美雪に対する気持ちが変化しはじめていきます。
対する美雪は余命を宣告されていることを悠輔には打ち明けず、終始明るい表情取り繕り、影を感じさせないまま悠輔との短い恋人期間を満喫します。契約期間の最後に訪れたフィンランドでは悠輔の気持ちに気付いていながらも、十分に自分を楽しませてくれた彼に悲しい想いをさせないためにわざと見過ごし、一方的に契約の終わりを告げました。
『誰かのために何かをしたいと思えるのが愛だと知った』
愛する悠輔を悲しませないために、美雪は余命のことを自身の口から語りませんでした。
そして物語終盤、契約期間を終えた後に美雪の余命が近いことを知り、契約や100万円の為ではなく美雪の為だけにフィンランドへと向かう悠輔。まさに物語の題材になった「雪の華」の歌詞通り、二人ともいつしか契約のためではなく、不器用ながらも相手のことを思いやって惹かれあっていく姿は感動的でした。
ぜひ映画の視聴後に中島美嘉さんの「雪の華」をもう一度聴いて欲しいと思います。きっと視聴前とはまた違った味を感じられるはずです。
美しいフィンランドの街並みは見どころ満載!

今作の舞台となったのは、冬の寒さが厳しい北欧の国フィンランド。なんと今回、夏と冬の2度にも及ぶフィンランドでの大型長期ロケが行われたそうです。
フィンランドといえば北欧特有のオシャレな街並み、いかにも『海外』って感じがして誰もが一度は憧れますよね。今作ではそんな魅力的な街並みが、美雪と悠輔の恋物語に風情を添え、華やかに彩ってくれました。
劇中、幼少期からの憧れだった「オーロラ」を見るという悲願を死ぬまでに達成するためにフィンランドを訪れた美雪。ですがそれは自身の人生が残り僅かなモノだと知らされ、本格的な闘病生活が始まる前の最後の思い出作りの旅行でもありました。
憧れであるフィンランドへやってきて興奮する反面、当然ながら美雪の無邪気な表情の裏には着実に迫り来る死への恐怖が見え隠れします。「この旅行が終わればもう二度とフィンランドへ来ることはできなくなる」そういった美雪の想いが垣間みえ、楽しいはずなのに何処か悲壮感漂うフィンランド旅行。美雪のバックグラウンドを踏まえるとどうしても暗くなってしまいがちですが、北欧の美しい街並みがそんな暗い雰囲気を緩和してくれます。
特に物語終盤の冬時期のフィンランドの街並みは圧巻です!どんよりとした空からは厳しい雪は降り注ぎ、観ているだけでも寒くなるような風景のはずなのに、薄暗い街を照らすレトロな街灯や色とりどりのレンガ造りの建物たちが優しい温もりを感じます。
厳しい冬だからこそ映える、思わず見とれしまうようなフィンランドの美しい冬景色。まさに「雪の華」というタイトルに相応しい舞台でした。
また、二人が交わした1ヶ月限定の恋人期間の最後の一大イベントとして美雪が位置付けした夏のフィンランド旅行で、二人は現地のレストランでディナーを楽しむシーンがあります。その際にドレスアップした美雪と正装としてジャケットを羽織る悠輔の姿が、オシャレなフィンランドの街並みと物凄くマッチしていて、すごく印象的でした。
実はカナダやアメリカでもオーロラが観測できるそうなのですが、何故物語の舞台に北欧のフィンランドを選んだのかーー。
主演である登坂広臣さんと中条あやみさんがフィンランドで過ごすシーンを見れば、その理由も自然と納得するはずです。
物語を引き立てる葉加瀬太郎の深みのある音楽

中島美嘉さんの「雪の華」からインスパイアされた作品として公開前から非常に注目を集めた本作ですが、音楽界屈指のヴァイオリニスト、葉加瀬太郎さんが当作品の音楽を手掛けることになったため、内容もさることながら劇中の音楽にも注目が集まりました。
事前に公開された映画の予告映像では、葉加瀬太郎さんのヴァイオリンの美しい音色によって奏でられた「雪の華」が解禁され、フィンランドの美しい街並みを背景に笑顔で走る美雪や悠輔の姿や、ドレスアップして初々しくディナーを楽しむシーンを華やかに彩っていましたね!葉加瀬太郎さんが演奏する美しすぎる音楽は、ヘルシンキ大聖堂や広場マーケットなどで異国の文化に触れて楽しむ二人の魅力を最大限に引き出しています。
葉加瀬太郎さんは「雪の華」だけではなく本作の劇伴すべても自身で手掛けており、音楽に関して「作品全体を通して、徐々に心に沁みていくのが理想です。それは全ての音楽を手掛けるからこそできることで、とても楽しい作業でした」とコメントしています。
また、映画本編のラストシーンが見所と自ら話していただけに、感動的なクライマックスシーンを葉加瀬太郎さんのヴァイオリンと中島美嘉さんの雪の華がさらにステキなものにしています。
日本から遠く離れたフィンランドで二人が迎えた物語の結末は、葉加瀬太郎さんの奏でる美しい音色と二人の姿が重なり合って、劇場では涙腺を崩壊させて涙ぐむ人も多く見られました。
【解説・考察】最後のワンシーンと悠輔によって生まれ変わった美雪の意志

ここからは最後のワンシーンの解説や、そこに到るまでの考察を含んでいきます。
物語の序盤、美雪は一人で憧れだったフィンランドへ向かうも目当てのオーロラは見れず、失意の中日本へと帰国します。渋々と帰路を辿っていた美雪を待ち受けていたのは、あまりにも残酷すぎる余命宣告。覚悟はしていたもののそれでもショックを隠せずにいられない美雪は、更にその帰り道で引ったくりに遭ってカバンを奪われてしまいました。
「どうして私ばかりがこんな目に遭わなければ……」、楽しみだったオーロラも見れず、自身の人生がそう長くないことを告げられた挙句、引ったくりにまで遭う。あまりにも重なりすぎる不幸に美雪は自暴自棄になり、引ったくり犯を追うことすらしないでその場で自分の不運な人生を呪うことしかできませんでした。
しかしその後、すぐに引ったくり犯を捕まえた悠輔から「もっと声出して行けよ!」と言われて励まされたことから美雪の考えは一変。今までの自分の不幸な人生を呪うだけで抗おうともせず、淡々と迫り来る死を受け入れようとしていたネガティブだった美雪が、「どうせ死ぬのならやり残していたやりたいことを全部やろう」といったポジティブ思考へと変化していきます。
それから引ったくり犯を捕まえてくれた悠輔が、偶然立ち寄った喫茶店で働く従業員だったと知り、そのお店の経営がよくない話を小耳に挟んだ美雪は、震える声を絞り出して「100万円で恋人になってください!」と悠輔に持ちかけました。この直後、「私、声だせるじゃん……」と自分自身でも驚いていた姿が印象的でしたが、これを機に美雪は地味で根暗な女の子から明るくて前向きな女の子へと変貌を遂げていくのです。
100万円という金額で紡がれた1ヶ月限定の悠輔との恋人関係。その中でメガネを外してコンタクトに変えてみたり、地味だった普段の私服から色鮮やかな明るめの服を着るようになった美雪の姿を見て、まさに理想の彼女像を感じた男性の方も多かったのではないかと思います。
「手作りのお弁当を彼氏と一緒に食べる」「水族館にデートに行く」「別れ際に姿が見えなくなるまで見送ってもらう」など、悠輔からしたら「こんなことでいいの?」と思わず疑問を抱くような些細なことでも、精一杯に悠輔との恋人期間を楽しみながら1つずつ憧れだったシチュエーションを叶えていく美雪。悠輔の隣で今を楽しむ美雪の姿には、オーロラが見れず、余命宣告を受けて引ったくりに遭い絶望していた頃の内気でネガティブな面影は完全に消え去っていました。
物語終盤で自分の身体がもう長くないことを知らされながらも、悲願だった「オーロラを観る」という夢を叶えるために無理をして再度フィンランドへ向かったのも、悠輔が最初にかけた「もっと声出してけよ!」という言葉によって自分の人生に前向きになれたからこそだと思います。最初の根暗でネガティブな思考のままだと、「どうせまた行ってもオーロラは観れないだろうし……」とやる前から悲観的になって挑戦すらしなかったはずです。
悠輔からすれば何気ない一言だったかもしれない最初の言葉が、結果として美雪の心を覆っていた氷を溶かしたのではないでしょうか。
そして、物語の幕が下りて中島美嘉さんの唄う「雪の華」がエンドロールで流れた際、あるワンシーンがスクリーンに映し出されます。
それは美雪の100万円によって救われた喫茶店で、車椅子に乗って生活する美雪と悠輔が雪が降り注ぐ空を見上げるシーンです。病気が進行し、いよいよ自力では立てなくなった美雪は車椅子での生活を余儀なくされます。しかし美雪は、そんな状態でも悠輔の胸の中で幸せそうに「私、長生きできそう」と呟きました。
このシーンが本当のラストシーンになったので、その後の二人がどうなったかは描かれていません。ですが個人的な考察としてこのラストシーンは、悠輔の言葉によって救われた美雪が前向きになり、自分の人生にちゃんと向き合えたことによって「奇跡」が起きたのではないかと思います。
悠輔と過ごした時間の中で、淡々と迫り来る死を受け入れようとしていた美雪が生きることへと渇望を持つようになり、前向きになったことで彼女の人生が変わったのではないでしょうか。
映画「雪の華」は美しい北欧の街並みと美しい葉加瀬太郎さんの音楽を舞台にしたラブストーリーですが、悠輔との偶然的な出会いによって凍り付いていた美雪の心の氷が溶かされ、内気で後ろ向きな女の子から明るく前向きな女の子へと成長していく物語でもあります。
彼女の前向きな成長が、最後のワンシーンで奇跡を感じさせてくれます。