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映画『サムライマラソン』のネタバレ感想・解説・考察!日本で初めてのマラソン大会を描いた映画

映画「サムライマラソン」のあらすじ・内容

映画「サムライマラソン」は、江戸時代に実際に行われた日本で初めてのマラソン大会とされる「安政遠足」を題材にした時代劇系統のエンタメ作品です。

アクション、笑い、家族愛など、様々な要素を詰め込みながらも2時間以内にスッキリと完結させられていて、大変観やすい映画となっています。

今回は映画「サムライマラソン」の個人的な感想や解説・考察を書いていきます!ネタバレも含みますので未視聴の方は注意して下さい。

目次

映画「サムライマラソン」を観て学んだ事・感じた事

・ペリーの来航は大事件だった!
・思惑は違えど、苦境の中では団結することが大切
・多方向視点の作品の面白さを実感!

映画「サムライマラソン」の作品情報

公開日2019年2月22日
監督バーナード・ローズ
脚本斉藤ひろし
バーナード・ローズ
山岸きくみ
出演者唐沢甚内(佐藤健)
雪姫(小松菜奈)
辻村平九郎(森山未來)
板倉勝明(長谷川博己)
上杉広之進(染谷将太)

映画「サムライマラソン」のあらすじ・内容

映画「サムライマラソン」のあらすじ・内容(C)“SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

1853年、浦賀にかの有名なペリーが来航します。彼は日本が他国との関わりを拒む「鎖国」体制下にあることを理解していながら、遠い異国の地までわざわざやってきたのです。

そして、ペリーと共にやってきた驚異的な技術力や軍事力に、多くの日本人が危機感を抱きます。

そのうちの一人、安中藩主「板倉勝明」は自らの藩に所属する者たちに意識づけをさせるため、50歳以下の者を対象とした遠足の開催を決定し、一着になった者の願いは何でも叶えるという特典をつけます。

参加者たちはそれぞれが様々な思いを抱えて遠足に臨みますが、そこに招かれざる客が訪れます…。

映画「サムライマラソン」のネタバレ感想&考察

多くの人が交錯する準・多視点(群像劇)作品

多くの人が交錯する準・多視点(群像劇)作品(C)“SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

今作は佐藤健さん演じる唐沢甚内を筆頭に、様々な境遇に身を置く安中藩に属する者たちが「安政遠足」を通して多くのことを考え、そしてその思いが交錯していく、いわば「準・多視点作品」と言える構成を持った作品です。

同じようなタイプの作品と言えば、有村架純さん主演の「コーヒーが冷めないうちに」などがありますね。

「準」という文字を付けたのは、「サムライマラソン」でいえば唐沢甚内、「コーヒーが冷めないうちに」でいえば時田数の掘り下げが、他の人物よりもはっきりと差別化されて多いためです。

 

1人の視点で固定された作品にも、多視点作品にもそれぞれの良さがあります。多視点作品の良さは、その名称の通り物語の世界を様々な側面から捉えることが出来るところです。

また、「物語の世界を捉える」ということは「物語を掘り下げる」という表現に言い換えることができます。1人の視点で固定された作品の掘り下げは小さい穴を、多視点作品での掘り下げは大きな穴を掘っていくイメージです。

当然、小さい穴のほうが大きな穴と比べ、より簡単に深く掘っていくことができます。サムライマラソンの様な多視点作品は深さでかなわない分、より多くの視点を織り交ぜることで物語に厚みを持たせることができます。

【考察】ペリー来航、高まる不安

【考察】ペリー来航、高まる不安(C)“SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

突如として浦賀に来航したペリー。豊川悦司さんが演じる五百鬼祐虎が彼を出迎えます。

ペリーと五百鬼祐虎は対照的に描かれています。朗らかに友好的に振舞うペリーに対して、五百鬼祐虎は鉄仮面を突き通しニコリともしません。

ペリーが自国から持ち込んだウイスキーを振舞うシーンでは、樽の上にショットグラスを置いてウイスキーを注ぎますが、注ぎ方が非常に雑で樽の上にボタボタとこぼしてしまいます。それに対して、五百鬼祐虎が自室で茶を点てるシーンはゆったりとしていて、非常に丁寧です。ペリーと比較することによって、より際立ったものとなっています。

 

決して海外の方の行動が日本人のそれに比べて粗雑だということではありません。

自分が気を遣わないことで相手にも気を遣わせないようにするペリーと、そんなペリーの意図に反して、受け取ったウイスキーを無言で一気に飲み干し能面のような顔で静止している五百鬼祐虎との間に形成された、すぐに埋めることの出来ない国際間の目には、見えない深い溝を感じ取ることができるのです。

 

また、江戸から離れた今回の舞台、安中でも似たような様子を見て取ることができます。

安中藩主・板倉勝明の娘である雪姫は映画の冒頭で黒船の絵を描いており、そしてそれを他の絵と共に父に見せます。勝明は絵を褒めてくれますが、黒船の絵を見た途端これまでの穏やかだった表情が一変し、その絵を火鉢にかざして焼き捨ててしまいます。

雪姫はそんな父の行動に露骨に顔をしかめますが、そんな娘に彼は江戸に行くことすら禁じてしまうのです。

これらのシーンから、当時の日本人たちにとってペリーが、そして異国という存在がどれだけ異質なものだったかということが分かります。

緋村剣心の面影が…!佐藤健の殺陣がカッコいい

緋村剣心の面影が...!佐藤健の殺陣がカッコいい(C)“SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

週刊少年ジャンプで連載されていた少年漫画「るろうに剣心」の実写版で、主人公の緋村剣心を佐藤健さんが演じていたことは多くの方がご存知かと思います。劇中で彼が披露した躍動的な剣技に心を奪われた方もいるのではないでしょうか。

そして今回取り上げている「サムライマラソン」においても、緋村剣心を彷彿とさせるようなシーンが用意されています。

植木義邦と唐沢甚内が森の中で出会う場面。腰痛を患っているふりをしていた植木が実は刺客の仲間だと知り唐沢は止めようとするも、最終的には殺し合いに発展してしまいます。

地面にへばりつくような独特な構えや植木の鋭い攻撃をかわす身のこなしは、彼が忍びとして生きるために、父親からの要求に対応してきたひた向きな姿勢が垣間見えるようでした。

 

すさまじい戦いの末、唐沢は植木にクナイを投げ、それによって出来た隙に乗じてとどめを刺します。

緋村剣心は人を殺さないことを信条としていた人物ですが、「やらなければやられる」という厳しい忍びの一族に生まれた唐沢は、ひとたび戦いとなれば容赦しない人物だということを分かりやすく示してくれています。

小松菜奈さんの新たな側面

小松菜奈さんの新たな側面(C)“SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

今作において板倉勝明の娘である雪姫を演じた小松菜奈さん。彼女もまた、多視点作品である今作の視点の一角を担う存在です。

優しくも厳しくもある父によって、安中藩に縛り付けられている雪姫。その反動もあってか、彼女は外の世界、とりわけ西洋の世界に関心を持っています。西洋の書物を自分から積極的に読み、そこから西洋式の画法を学んで絵を描いてみたり西洋式の走り方を学んで遠足で実践してみたりと、その前向きな行動力が明確に描写されています。

 

そんな快活な雪姫を演じた小松菜奈さんですが、彼女は若手女優でありながら多くの作品に出演し、それぞれの作品においてまったく違う表情がみられます。

役所広司さん主演の「渇き。」では、秘密を隠す謎めいた少女を演じ、同じく多視点作品に分類されるでしょう「来る」では霊媒師とキャバ嬢を兼業する女性を演じていました。

彼女の湿った曇天のような目と鬼気迫る演技には、いつも引き込まれるような魅力が内包されているように感じます。今後も多くの作品に出演されていくと思いますが、もっと色んな小松菜奈さんを見ていきたいと思える作品でした。

いつの時代でも何か起こる…スポーツとお金

いつの時代でも何か起こる...スポーツとお金(C)“SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

染谷将太さんが演じる上杉広之進は侍ではありませんが、安中藩で最も足が速い者と噂される一目置かれている人物です。

遠足の開催が決定しそれを楽しみに待つ彼に一人の男が声をかけ、屋敷へと招待します。そこで広之進は豪華な料理を振舞われ上機嫌になっていましたが、そこで「一着にならないで欲しい」と八百長を持ちかけられるのです。

それを聞いて戸惑う広之進に、男はお金を握らせます。複雑な表情で帰宅し、彼は自分の妻に「俺が遠足で一着になるのと、お金がいっぱい入るのならどっちがいい?」と問いかけます。妻はしばしの沈黙ののち、「一着になるほうがいいです。一着になればお願いを何でも聞いてもらえます…お侍さんになれます。」と答えました。

 

劇中では、彼がこの後侍になることが出来たのかどうかは明確にされていませんが、幕府の刺客の一人を仕留めるなど、藩士たちに劣らない気概を私達に見せてくれました。

現代でもスポーツとお金が絡めば、スポーツ賭博や八百長などの誠実さに欠ける問題が起こっていることは確かです。「侍」という身分がこの時代においてかなり重要である事実と共に、現代社会でも実際に起こっていることを再確認させるような強いメッセージ性を感じさられました。

【考察】少し注意が必要?想定外のグロ描写

【考察】少し注意が必要?想定外のグロ描写(C)“SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

今作は対象年齢12歳以上を想定した作品であり、私もそれは心得ていたつもりでしたが、予想よりもグロ描写がはっきりとありました。

特に激しかったのは、森山未來さんが演じる「辻村平九郎」絡みの2つのシーン。1つ目のシーンでは雪姫と関わった賊の首を一太刀で切り落とし、2つ目のシーンでは自分を裏切って殺そうとした部下の顔面を横断しています。

血しぶきが飛んで切り落とされた部分も生々しく、隠すことなく画面に映し出されます。あまりにも唐突に一人の人間の命が凄惨な形で消え去る様子に、正直驚かされてしまいました。

 

このような描写があったきっかけの最たるものとしては、やはり「日本人ではない監督だから」という要因が挙げられるでしょう。洋画と邦画を比較したとき、性描写やグロ・ゴア描写などが色濃く示されている作品は洋画のほうが圧倒的に多いです。

ホラー映画を例に挙げると、邦画は精神的な恐怖を与える作品が多いですが、洋画には肉体的な恐怖を誘う作品も数多くあったりします。

また、アンドリュー・ガーフィールドさん主演の「沈黙-サイレンス-」のように、日本人と海外の方々が絡み合う映画が徐々に増えつつあります。他にも「水俣病」をテーマにした映画がジョニー・デップ主演で公開予定されているといった動きもあります。

こういった作品が増えていくことが、様々な文化圏の映画が混ざり合ってより素晴らしい映画が作り出されるきっかけになりそうですね。

【解説】刺客たちは少し味気ない?

【解説】刺客たちは少し味気ない?(C)“SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

今作において安中藩士たちが対峙することになる刺客たち。全体的には大変楽しく鑑賞できた今作ですが、彼らにだけは少し物足りなさを感じてしまいました。

刺客には特に4名、他とは差別化されて取り上げられている者がいました。

1人目は、先に挙げた植木義邦です。普段は腰痛を抱えた唐沢たちの親しみやすい上司といった立場ですが、それはあくまで表の顔。実際は刺客の一人であり、安中藩を守ろうとする唐沢と戦うことになります。

刺客たちの中で最も見せ場が多かったのは間違いなく植木でしょう。しかし、彼は唐沢の前に最初に現れた単なる障壁の1つといった存在であり、最大の脅威ではありませんでした。

 

2人目は刺客の中にいた小心者です。彼の劇中での行動を簡単に振り返ってみましょう。

五百鬼祐虎の命により江戸へ向かう刺客たち。彼はそんな彼らに同行させてもらえるよう嘆願します。彼らと日頃からどのような関係があるのかは察しかねますが、さしずめ刺客の新米といったところではないでしょうか。

結局「勝手にしろ」と言われついていくことになりますが、安中での戦いが始まったのも束の間、彼は上杉広之進の攻撃によって命を落としてしまいます。

「どういった人物か」ということが特段明示されていたわけでもなく、正直この存在が必要だったのかどうか疑問が残るところです。あまり印象に残るキャラクターではありませんでしたね。

 

3人目は刺客のリーダーです。彼は安中出身である五百鬼祐虎から渡された銃を扱う、板倉勝明とも顔見知り、などといった特筆すべき情報をいくつも抱えています。

彼の最大の見せ場は関所を襲撃するシーンでした。自らの正体が見破られ投獄された雪姫は、関所にいた藩士たちが何者かによって次々に殺害されていくことに異変を覚えながらも隙を見て脱出を図ります。

リーダーはそれを見つけて雪姫に向けて発砲します。しかし、特段銃の扱いに長けているわけではなく、唯一当たった玉も急所を外れてしまいました。

また、劇中終盤で単身板倉邸に乗り込み板倉勝明に向けて啖呵を切り、遠足から戻ってきた藩士たちを待ち伏せするも、唐沢の投げた手裏剣によって攻撃を阻まれ、屋敷に仕える女性たちによって弓で射られて死んでしまいます。

それなりに人物像が掘り下げられてはいましたが、ここまであっけない最期を遂げるとは思いませんでしたね。

 

4人目は板倉勝明の従者です。冒頭からたびたび登場していましたが、終盤での刺客のリーダーの死後、突然立ち上がり板倉勝明を後方から殺害しようと試みます。しかしそれは失敗に終わり、主によってとどめを刺されました。

この人物は私達を驚かせるために用意された存在だと思われますが、取ってつけたような設定として私は受け取ってしまいました。植木義邦と同様に、幕府がいつでも諸藩の問題に対応できるよう幕府のため、手足となって働いてくれるものを各地に潜ませていたのだと感じさせてくれる場面でもありました。

個人的には、この従者の代わりに植木義邦をゲームの隠しボスのような形で最後に登場させた方が、意外性や脅威の大きさとして適していたように感じます。

 

彼ら以外にもたくさんの刺客たちがいましたが、それほど難敵としては君臨していませんでした。

総じて今作においては、「強い敵を倒す!」ということよりも「団結すれば、苦難も乗り越えられる!」というところに重きを置いているのでしょう。

今までにない新しいタイプの映画

今までにない新しいタイプの映画(C)“SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

全体的に見て、今作は少し風変わりな作品だと思いました。

多視点から物語を見ることで重厚感が増幅させられていたり、飛び散る鮮血や肉片に洋画の匂いを感じたり、全く関係ない作品とのシンパシーを感じたり…。

時代劇というよくある作風、物語の流れも王道を行くものでしたが、それでいて鑑賞する側を飽きさせない工夫が随所に散りばめられていました。

 

また、本編の最終シーンが終わった後、これまでの日本マラソン界における輝かしい功績を残した方々の画像が次々に映し出されました。

今日の日本では、正月の風物詩となっている箱根駅伝をはじめとしてたくさんのマラソン大会が毎年開催され、もはや日本の文化と呼んでしまっても過言ではない状況にあります。

そして、これから控えている東京オリンピックが脳裏に浮かんだ方もいるでしょう。我々が現に暮らしている今の社会にも関わってくる要素も持っているのです。

 

この映画は一邦画としてただ惰性で観てしまうのはもったいないと思います。

様々な要素を組み合わせることで、これまでにないまったく新しいタイプの映画に仕上がった「サムライマラソン」。

日本映画界に新たな風を吹かせ刺激を与える、そんな作品なのではないでしょうか。

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