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映画『時をかける少女』ネタバレ感想・解説・考察!夏と青春、タイムリープを描いた細田守の出世作

【解説】俳優やモデルが生み出した、アニメっぽくない演出にも注目

夏と聞いてSFを思い浮かべるとするならば、それは決して不思議なことではありません。『夏への扉』といった古典SFや『サマーウォーズ』のようなアニメ映画など、夏をモチーフに置くSF作品は数多くあります。

その理由は定かではありませんが、どの作品も一度鑑賞すれば、ノスタルジックや青春、夏とSFという妙な親和性をに気が付くでしょう。

今回は夏とSFのつながりを強く印象付ける作品のひとつである映画『時をかける少女』について感想や解説、考察を紹介します。一部ネタバレを含んでいるため、鑑賞前に読まれる場合はご注意ください。

目次

映画『時をかける少女』を観て学んだこと・感じたこと

・夏と青春には時間跳躍SFがよく似合う
・原作を知っていても、知らなくても楽しめる
・夏にピッタリの作品を探している人におすすめ

映画『時をかける少女』の作品情報

公開日2006年7月15日
監督細田守
脚本奥寺佐渡子
出演者紺野真琴(仲里依紗)
間宮千昭(石田卓也)
津田功介(板倉光隆)
芳山和子(原沙知絵)
藤谷果穂(谷村美月)
早川友梨(垣内彩未)

映画『時をかける少女』のあらすじ・内容

映画『時をかける少女』のあらすじ・内容

紺野真琴は、まだまだ恋愛よりも友情のほうが大切といった性格の高校2年生。同級生の間宮千昭や津田功介とつるんで遊ぶのが楽しい様子です。

ある日、真琴は理科実験室で不審な人物を見かけ、その後を追います。不審者を追いかけようとして真琴は転倒し、床に落ちていた妙なクルミに接触。その瞬間、真琴は不思議な空間に飛ばされる経験をしました。

千昭や功介にその話をしても、ただからかわれるばかりです。不思議に思いながらも、自転車に乗って商店街の坂を駆け下りる真琴。ところが、彼女の自転車のブレーキは知らない間に故障していたのです。必死で止まろうとする真琴の努力もむなしく、彼女はそのまま先にある踏切を飛び越えてしまいました。

死を覚悟した次の瞬間、真琴はついさっきまで駆け下りていたはずの坂で転倒します。そこは、彼女が轢かれる直前の時間だったのです。

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映画『時をかける少女』のネタバレ感想

【解説】監督・細田守の名前を一躍有名にした作品

【解説】監督・細田守の名前を一躍有名にした作品(C)「時をかける少女」製作委員会2006

映画『時をかける少女』の原作は、SF作家の大御所・筒井康隆によって1967年に発表された同名の小説です。時間跳躍SFの金字塔として半世紀以上もの間、多くの人々に親しまれています。また、1983年に原田知世の主演よる実写映画が大ヒットして以来、過去に幾度となく映像化されているのが特徴です。

本作もまた、2006年に映像化された作品であると同時に、『時をかける少女』初のアニメーション作品となっています。ただし、舞台設定は原作から20年後であることから、原作の忠実な映像化ではありません。

一方、原作の主人公である芳山和子が主人公・真琴の伯母として登場することから、本作を続編と捉えることもできるでしょう。なお、あくまで和子の登場は限定的であるため、原作を知らなくても十分に楽しめる作品となっています。

 

映画『時をかける少女』の監督は細田守です。『サマーウォーズ』や『おおかみこどもの雨と雪』などで有名なアニメ監督のひとりです。しかし、彼の知名度を一気に押し上げたのは本作『時をかける少女』といえるでしょう。物語の内容はまったく違えど、『サマーウォーズ』に感じられる夏とSFの素晴らしいミックスに青春というポイントが付け加わり、細田の出世作にして以降の作品に引けを取らない傑作となっています。

実際、本作の評判は公開当時の様子が如実に物語っています。当初、全国での上映が21館しかなかった本作は、インターネットによる口コミでその評判が一気に広まっていきました。最終的には100館以上で上映、しかも公開後9カ月の超ロングラン興行を成し遂げており、国内外でも多くの賞を受賞しています。

【解説】俳優やモデルが生み出した、アニメっぽくない演出にも注目

【解説】俳優やモデルが生み出した、アニメっぽくない演出にも注目(C)「時をかける少女」製作委員会2006

本作の特徴として、登場人物の声を有名なアニメ声優ではなく俳優やモデルが担当していることが挙げられます。映像に声を乗せるという部分を意図的に不完全なものとしたことで、アニメっぽくない、どことなく生々しさの残る雰囲気が生まれているのです。

主人公、 紺野真琴の声を担当するのは仲里依紗。『ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲』でヒロインのゼブラーレディを演じた他、2010年の実写版『時をかける少女』でも主人公、芳山あかりを演じています。仲の演じる真琴は目の前の楽しいことに全力でぶつかるという、等身大の女子高生といった雰囲気が良く表れているといえるでしょう。

 

また、真琴の友人であり、本作のキーパーソンでもある間宮千昭を演じるのは石田卓也です。小説家・恩田陸の作品を映画化した『夜のピクニック』をはじめ、『リアル鬼ごっこ』や『KING GAME』などでもメインキャストに起用されています。千昭が持つ少しチャラい雰囲気と、シリアスなシーンでの対比を印象付ける演技が魅力です。

もうひとりの友人である津田功介は板倉光隆が担当。舞台をメインに活動している俳優ですが、本作の公開後は朗読劇のように声をメインとした出演も多くあります。知的な体育会系で、真琴や千昭とバカ騒ぎするのが楽しいといった功介の性格をうまく表現しています。

【解説】微笑ましくも空回るタイムリープの使い方。タイムトラベルとの違い

【解説】微笑ましくも空回るタイムリープの使い方。タイムトラベルとの違い(C)「時をかける少女」製作委員会2006

映画『時をかける少女』が魅力的な理由のひとつに、タイムリープの使い方が挙げられます。タイムリープとは時間を跳躍する能力のことです。

タイムリープとよく似たものとして、タイムトラベルがあります。ただ、タイムトラベルでは自分自身が過去や未来の「世界へ行く」ため、自分が二人になる一方、タイムリープでは過去の「自分自身に戻る」ため、自分が二人になることはないという違いがあります。

主人公の真琴は、あるとき理科実験室に落ちていた不思議なクルミに触れたことがきっかけとなり、タイムリープの能力を手に入れます。

勉強は苦手、注意力が散漫、恋愛よりも男友達である千昭や功介とつるんで遊ぶのが好きな真琴。そんな彼女は、商店街を自転車で疾走している最中、ブレーキの故障がきっかけで踏切に衝突し、電車に轢かれそうになります。その瞬間、タイムリープが発動し、少し前の自分へ戻ることとなるのです。

 

タイムリープによって、未来の記憶を持ったまま過去の自分に戻れるとしたら。そんな夢の能力があれば、お金を手にすることも、場合によっては歴史を操作することもできるでしょう。しかし、タイムリープできることを知った真琴は、そのような悪事を思いつくこともなく、自分のささやかな幸せのために能力を利用します。

一度実施された抜き打ちテストで100点を取る、家庭科実習で自分が引き起こしたトラブルを他の男子学生に肩代わりしてもらう、カラオケを何時間も利用する、前日に食べた鉄板焼きをもう一度食べる――。ちょっとした幸せを得るために能力を利用する真琴の行動は、彼女のあっけらかんとした性格を良く表しています。

なお、タイムリープの発動に必要な行動は、原作と異なっています。原作ではラベンダーの香りがタイムリープ発動の鍵となっていました。他方、本作では真琴が文字通り「跳躍」する必要があります。その結果、いつも真琴はうまく着地できないまま、時間を跳躍することになり、タイムリープ後にごろごろと地面を転がってくる様子がコメディタッチに仕上がっているのが印象的です。

【解説】人の気持ちを操作した結果と青春の切なさ

【解説】人の気持ちを操作した結果と青春の切なさ(C)「時をかける少女」製作委員会2006

タイムリープの能力を伯母の和子だけに打ち明ける真琴。そこで和子は、過去に自分もタイムリープができたこと、そして、真琴のタイムリープによって誰かが割を食っているのかもしれないことをと告げます。和子の言葉は、物語に不穏な空気が流れ込んでいくのを予感させます。

ある日、功介は後輩の藤谷果穂から告白されるものの、勉強などを理由に功介は告白を断ってしまいました。それを知った千昭もまた、真琴に告白してしまいます。

自分の気持ちがわからず、功介と3人で一緒にいることを優先したい真琴は、千昭の気持ちをそらすためにタイムリープを利用してしまいます。結果、千昭の告白はなかったことに。それ以来、真琴には意図的に千昭を避けてしまうのでした。

 

一方、タイムリープによって家庭科実習のトラブルを押しつけられたクラスメイトの高瀬宋次郎は、トラブルが原因でいじめを受けていました。その仕返しに高瀬が投げた消火栓によって、真琴の友人である早川友梨が負傷することに。まさに、和子の言葉が現実の物となった瞬間です。

怪我の様子を心配する千昭。そのことがきっかけとなって、千昭と友梨は付き合うこととなります。もともと友梨の気持ちを知っていた真琴は、しかし二人の交際を上手く喜べないでいるのでした。

千昭に対する真琴の、友情以上恋愛未満のようなもどかしい感情がよく表れているシーンです。また、誰かの気持ちを操作しようとした結果、自分の感情にそれとなく気がついてしまうなど、ほろ苦さを感じさせる場面でもあります。

【解説・考察】芳山和子は原作のヒロインと同一人物

【解説・考察】芳山和子は原作のヒロインと同一人物(C)「時をかける少女」製作委員会2006

真琴の伯母である芳山和子。彼女は原作『時をかける少女』の主人公であることがそれとなく伺えます。

公式資料にはっきりと設定が出ているかどうかはともかく、名前が同じであること、真琴のタイムリープに一定の理解を示していることなどから、彼女が原作の和子と同一人物であることはほぼ間違いないでしょう。

 

また、作中では和子の高校時代の姿を映した写真が出てきます。そこに写る和子の姿は、新潮文庫での新装版に描かれた表紙の姿とほとんど同じであることがわかります。

和子は30代後半で未婚、博物館で絵画の修復を生業としており、作中ではある絵画の修復を行っています。彼女が未婚なままの理由は、原作を読んでいる人には想像がつくのではないでしょうか。

真琴と同様に、原作でタイムリープの能力を手に入れた和子。彼女は友人の深町一夫が未来からやって来たことを知ります。和子に好意を寄せていた深町は、いつか別の人間となって和子の前に現れると言い、自分が関わった人々の記憶を消して未来へ帰って行くことに。しかし、和子には誰かが自分のもとへやってくるという記憶が残っており、その誰かを待ち続けることとなります。

その後、本作の和子のもとへ、「誰か」が現れた様子はないようです。もしかすると、和子はもう自身の記憶にすらない深町のことを待ち続けて、未婚を貫いているのかもしれません。

【解説・考察】美術館の絵画と千昭の関係

和子が修復していた絵画は千昭との関係が深いものとして、本作でも印象に残るものとなっています。

真琴の友人として登場する千昭は、原作における深町一夫と同じ立場、つまり未来の人間です。あることがきっかけとなって、千昭は自分が未来人であることを真琴に明かします。

千昭が未来から来た理由。それは和子が修復している絵画を実際にその目で見るためでした。その絵画は、千昭がいた未来では消失しており、真琴のいた時代にだけ現存していたといいます。

作中では、この絵画について和子が説明を残しています。絵画は数百年前、大戦争と飢饉で世界が終わろうとしていた時代に描かれたものだといいます。清濁織り交ぜたかのような空間に浮かぶ女性の姿と、体内に浮かぶ四つの世界。その様子は決しておどろおどろしいものではなく、どこか涅槃のような、安らかな印象を与えます。

 

一方、千昭はこの絵画を目にしながら、真琴のいるこの世界で初めて川が流れているのを目にし、空が広いことを知り、多くの人間が歩いているのを見たと言います。彼のいた未来は、相当に鬱屈した世界であるようです。

絵画の成立時期がどのような時代であったのかは定かではなく、ましてや史実であるかどうかもわかりません。しかし、和子が語る絵画の制作時期と千昭がいた未来の様子は、どこか似ているように聞こえないでしょうか。

千昭が過去へやって来た理由がそれ以上明かされることはありません。けれども、絵画1枚のためにわざわざ時間を跳躍してきたことや、彼のいる未来の様子を思うに、千昭が絵画に相当な想いを持っていたことがわかります。

当初は絵画を見れば帰るつもりだったはずが、いつしか真琴や功介との時間を失いたくないと思うようになった千昭。彼が持つに至った友情や恋愛という感情は、それこそ絵画以上にかけがえのない想いとなったのでしょう。

【考察】「Time waits for no one」というメッセージの謎

【考察】「Time waits for no one」というメッセージの謎(C)「時をかける少女」製作委員会2006

真琴がタイムリープの能力を手に入れた場所である理科実験室。その黒板には「Time waits for no one」というメッセージが描かれており、作中でもたびたびズームアップされます。

「Time waits for no one」は、「歳月人を待たず」ということわざを表しています。その意味するところは、時間とはただ過ぎていき、戻ってこないものであるから、無駄にしないようにという戒めです。作中ではこの英文に対して、真下に「(゚Д゚)ハァ?」という顔文字が書かれています。

実は、作中では理科実験室以外にもこの英文が出てくるシーンがあります。それは、真琴と千昭と功介が三人でカラオケに行く場面です。「Time waits for no one」は千昭が選曲した歌の歌詞に含まれており、彼がくり返し歌っている様子が見られます。

この英文を書いた人物が、作中で明らかにされることはありません。しかし、もしかするとそれは、千昭だったのではないでしょうか。そう思われる理由を、「(゚Д゚)ハァ?」という顔文字との関係を接点として、少し考えてみましょう。

 

「Time waits for no one」の意味するところは、時間は過ぎていくから無駄にするなということです。けれども、時間を跳躍できる千昭にとって、そのような戒めはまったく意味を成しません。

一方、千昭は真琴の時代にやってきて、真琴の時代で流れている歌を歌っています。おそらくその歌は、彼が真琴の時代へやって来た後に覚えたのでしょう。

その歌を気に入った千昭は、「Time waits for no one」の意味を調べたのではないでしょうか。もちろん、歌詞の意味が気になったからというのもあるでしょう。しかし、それ以上に、千昭は真琴のいる時代の言葉があまりよく理解できないでいる可能性があります。

物語の冒頭で、千昭は漢字が読めないことがさらっと明かされます。彼が未来から来たことの伏線として考えるならば、それは国語が苦手という意味ではなく、文字通り、漢字が読めないのでしょう。もしかするとそれは漢字に限らず、真琴の時代の言葉を文字として理解できないのかもしれません。

もしそうだとするならば、千昭は「Time waits for no one」という言葉を、まったく未知の言葉として知ったのではないでしょうか。そして意味を調べた結果、時間跳躍できる自分には理解ができないものとして、「(゚Д゚)ハァ?」と書き殴ったのではないでしょうか。

もちろん、推測の域を出ることはありませんが、時間跳躍をテーマとして本作を印象づける言葉と、その戒めを軽々とこえる能力を持つ千昭には、何かしらの接点があるように感じられます。

【考察】「未来で待ってる」と告げた千昭の真意は?

【考察】「未来で待ってる」と告げた千昭の真意は?(C)「時をかける少女」製作委員会2006

物語のラスト、千昭は真琴へ「未来で待ってる」と告げ、タイムリープで未来へ帰って行きます。それに対して真琴は「うん、すぐ行く。走って行く」と応えます。

千昭が「未来で待ってる」と言った真意は何だったのでしょうか。この点についてはさまざまな考察があるようです。

ただ、作中で別れを惜しむふたりの様子から、実は千昭が未来で真琴に出会っていた、タイムリープのエネルギーをチャージして少し先の未来で待っていた、といったような説明はどうも当てはまらないように感じます。

 

ひとつ確かなように思えるのは、原作における深町一夫の台詞との対比ではないでしょうか。原作で深町は和子へ、いつか別の人間となって再び和子の前に現れると言いました。真琴へ少なからず好意を抱いていた千昭もまた、いつか未来で真琴の前に現れると言いたかったのかもしれません。

「未来で待ってる」という千昭の言葉は、決して確定的なものではなく、ひどく不確実な「願い」のように聞こえます。

この時代に留まって、真琴の側にいたい。真琴や功介とともに、いつまでも笑い合っていたい。けれども、未来人である彼は、もとの時代へ帰らなくてはならない。

そこに、もういちど再会できるかのような要素を見つけることはできません。仮に、砂粒を探し当てるような確率で再会したとしても、ふたりが今のままでいることは決してないでしょう。

だからこそ、奇蹟のような確率を超えてでも、今のままではいられなかったとしても、再び出会えることを祈らずにはいられない。それが「未来で待ってる」という言葉につながったのだろうと感じます。

時間跳躍SFの金字塔を新たな解釈で組み直した映画『時をかける少女』。もし『サマーウォーズ』しか細田守の作品を知らないのであれば、是非見て欲しい一作です。そこには夏と青春と時間跳躍SFの調和によって新たに生まれ変わった物語があります。

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