映画『ガールズ&パンツァー 最終章 第1話』は、TVアニメで放送され瞬く間に人気を博した戦車アニメ「ガールズ&パンツァー」シリーズの完結編として制作された劇場版の第1話にあたる作品です。
最終章は全6話で構成されていますが、2019年の6月に第2話が公開予定となっているため、興味がある方は前作劇場版・TVアニメ版と合わせて今回取り上げる第1話の内容もしっかりと押さえておくことをオススメします。
こういった経緯もありますので、今回は『ガールズ&パンツァー 最終章 第1話』の個人的な感想や解説、考察を書いていきます!なお、ガルパンシリーズのネタバレには注意してください。
目次
映画『ガールズ&パンツァー 最終章 第1話』を観て学んだこと・感じたこと
・戦車×JKのアンバランスな魅力を再確認
・ガルパンからの「卒業」が迫っていることを実感
・劇場で見るガルパンの迫力は映画館で見ることに意味がある
映画『ガールズ&パンツァー 最終章 第1話』の基本情報
公開日 | 2017年12月9日 |
監督 | 水島努 |
脚本 | 吉田玲子 |
出演者 | 西住みほ(渕上舞) 五十鈴華(尾崎真実) 秋山優花里(中上育実) 角谷杏(福圓美里) 小山柚子(高橋美佳子) 河嶋桃(植田佳奈) |
映画『ガールズ&パンツァー 最終章 第1話』のあらすじ・内容
戦車道の全国大会に見事優勝し、廃校の危機を免れた大洗女子学園。そんな学園では、無事に来年度も学校が存続することが決まったため、来年度の生徒会選挙が実施されていました。
その選挙では、2年生の西住みほや五十鈴華ら劇中でも活躍していた戦車道選択の面々が生徒会役員として選出されることになります。
こうして生徒会が新たな歩みをスタートさせた矢先、前生徒会広報の河嶋桃に「留年騒動」が巻き起こってしまいます。
戦車道を共に専攻した仲間たちがその実態を尋ねると、実際のところ留年の危機を迎えているわけではありませんでしたが、桃は卒業こそできるものの進学できそうな大学が見当たらないという「進学危機」に瀕していました。
生徒会やカメさんチームの一員として学園を支えていた桃のピンチを、なんとかして解決したいと考えていた一同。そこで、大洗女子学園は20年ぶりに開催される戦車道の大会「冬季無軌道杯」に桃を隊長として参加し、結果を残すことで桃を戦車道によるAO入試で合格させるというわずかな可能性に賭けることになります。
映画『ガールズ&パンツァー 最終章 第1話』のネタバレ感想
アニメ版から一貫したスタッフ&キャストに新キャラもマッチ!
近年では間違いなく最大規模のアニメ作品となったガルパンの完結編という事もあり、スタッフには売れっ子も数多くクレジットされていましたが、そのほとんどは劇場版でも継続して制作を担当しています。監督の水島努も「監督に置きたくてもスケジューリングに余裕がなくて難しい」という噂がネットで囁かれるほどの人気監督で、脚本の吉田玲子も「ガルパン」や「けいおん!」など数々の人気作品で脚本を担当するヒットメーカーです。
また、声の出演も既存のキャラクターに関してはTVアニメ版と変更がなく、安定のキャストに支えられる構図になっています。キャストに関してもガルパンのTVアニメ放送時点ではまだ新人やモブ声の担当ばかりというキャストも少なくなかったですが、本シリーズへの出演をきっかけに人気声優へとステップアップしていったという事実があります。そういった点を考えても、本作にかねてからのキャストが勢ぞろいするのは道理といったところでしょう。
ただ、まだ詳細なキャラクター像や戦車道の腕前こそわかっていないものの、最終章から新登場するキャラクターも少なからず存在します。中盤で海底に沈んだ戦車をめぐって対決し、その結果新たに「サメさんチーム」として戦車道チームに加入した船舶科の2年生たちなどがそれに該当します。
大人気シリーズの新キャラクターという事で「作品になじむのか」という点は気がかりな点ですが、今のところはガルパンらしいキャラクターに仕上がっていると思います。また、声の出演も佐倉綾音や高森奈津美など目下売り出し中の人気声優が多く、安定感のある人選がなされています。
まだ全6話のうち第1話が公開されたのみなので、作品全体の出来に関して評価が下せるのは「これから」という印象が強い本作。しかしながら、TVアニメと前作劇場版で実績があるキャストとスタッフが万全の態勢で揃い、第1話でも安定したクオリティを発揮していることもあって、それほど出来を心配する必要はないのではないかと思います。むしろ、今後への期待が高まるばかりという気分です。
これまで脇役として物語を支えてきた「3年生」の物語
本作ならではの特徴としては、「今まで脇役として物語を支えてきた3年生にスポットライトが当てられている」という点が挙げられます。これまでのガルパンは、あくまでみほを中心とするあんこうチームを軸に据えた物語が展開されていました。もちろん戦車道はチームスポーツなので他のメンバーも見せ場はあるのですが、物語としては「強豪校から去ったみほが一から戦車道を再建する」というサクセスストーリーの側面が強く押し出されています。
しかしながら、こうしたみほの物語は、ある意味前作の劇場版で廃校を免れたことにより完結したという感覚になります。みほは「勝利至上主義」に嫌気がさして黒森峰を辞めて以降、戦車道そのものに愛想をつかしていました。それでも、半ば強引に3年生たちによって戦車道を選択させられたことで再び戦車道に向き合い、最終的には戦車道の楽しみに気づくことになります。つまり、作品の軸に据えられていた部分は、既にある程度解決されていると考えるのが自然です。
そのため、本作は異なる物語を軸にしているように感じました。それは冒頭でも触れているように「3年生の物語」という側面です。これまで、生徒会役員として学園や戦車道そのものを支えていた3年生は、あくまで「裏方」といった印象がありました。実際に、全国大会の準決勝で「大会に優勝しなければ廃校になる」という事実をカミングアウトするまでは「みほを半ば強引に戦車道に勧誘した嫌味な先輩」という印象さえ抱かせるような物語の設計になっていました。
ただ、今回はそもそもの出発点が「桃先輩のために生徒が努力する」という図式に変更になっています。そのため、必然的に桃をはじめとする前生徒会の面々にスポットライトが当たることになります。実際、名義上とはいえ隊長がみほではなく桃になっているのは、物語の軸がスライドしていることを象徴しているように感じました。
この図式はガルパンのような「スポ根」系統の作品でいえば、不良野球漫画の「ルーキーズ」などが例として浮かびます。「ルーキーズ」も、川藤監督や御子柴のために実力のある下級生が協力していくという構図を採用しており、これを連想させるような関係性が根底にあるようにも感じられました。
本作の実質的な主役は「3年生」であり、これまで作品の中心として活躍してきた2年生はあくまでサブ的な位置づけとして描かれているというのは間違いなさそうです。
戦車の迫力が違うので家ではなく劇場で観るべき
映画を観るスタイルというのは人それぞれという印象があります。もちろん劇場で観るという方が多数派な印象もありますが、一方で「家で観てもいいだろう」という方も少なくないように感じます。その背景には、VOD(映像配信サービス)の普及やそれに対して劇場の入場料が高いことなどが挙げられ、そうした層は年々増加しているような印象を受けます。
もちろん、映画鑑賞のスタイルに正解はありません。実際、過去の名作は劇場で鑑賞する機会も決して多くはなく、どうしても自宅での鑑賞が中心になってきます。また、予算的に劇場で多く映画を観るという事が難しいという方もいるでしょう。そのため、映画鑑賞のスタイルは人それぞれであっても、同様に「映画好き」を名乗る権利はあると思います。
ただ、「劇場で観るべき映画」と「自宅でも特に問題なく鑑賞できる映画」が存在するのは事実です。特に、ガルパンのようなアニメ映画は時間もあまり長くなく、さらに劇場に行って確認してみれば「総集編もの」だったというパターンも少なくないため、アニメファンほど劇場へ足を運ぶのを敬遠しがちです。
しかし、本作に関して言えば「間違いなく劇場で鑑賞するべき」と断言できます。その理由は「音響」で、ガルパンならではの特徴が大きく影響しています。そもそも、ガルパンというアニメ作品は「戦車同士の迫力ある戦い」が魅力の一つです。女子高生たちとミリタリーという異色の組み合わせにもかかわらず、萌えアニメとしてもミリタリーものとしても素晴らしい完成度を誇ることが人気を博す最大の要因になっています。
作りこまれた大迫力の戦車戦は、やはり劇場で観ると臨場感が格段に異なります。特に、戦車が稼働する音や砲撃の音、軍歌をモチーフにしたマーチング音楽などの部分は、ぜひとも映画館の優れた音響でその魅力を最大限味わってほしいものです。
ただ、本作は2017年末に公開された映画であり、既に劇場公開期間そのものは終了しています。せっかく劇場で観ようと思っても、観られないと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、2019年6月に第2話の公開が決定しているので、これから振り返り上映会などの名目で再放送を行なう劇場もあるかもしれません。関心のある方は、公式のアナウンスに注目してください。
また、今回の映画は家で済ませてしまったという方も、ぜひ次回の第2話以降は劇場で鑑賞されることを強くお勧めします。さらに、できることなら「4DMX」や「爆音上映」などの放送スタイルを選択することで、大迫力の映画を最大限に楽しむことができるかもしれませんね。
【考察】第2話以降にあたる今後の最終章の展開予想
ここまで今作の魅力を存分にお伝えしてきましたが、シナリオそのものに関してはまだ「導入部分」といった印象が否めず、評価を下すには続編を見る必要があるということはすでに触れました。そこで、一応ガルパンシリーズを全て通しで観ている筆者なりに、今後どのような展開が予想されるか、またどのような展開になるといい物語になりそうかを考えていきます。
まず、作品の根本に3年生が据えられていることは事実なので、当然ながら彼女たちの「卒業」という部分にクローズアップされる形になるのは間違いないでしょう。そして、今まで陰ながら自分たちを支えてくれた3年生の存在感を後輩たちが自覚することになるのではないかと思います。その過程で、やはり乗り越えなければならない何らかの障害にぶつかることも十分に想定できます。
このガルパンという作品に関して言えば、後味の悪い終わり方になることはないと読んでいます。その理由は、ガルパンという作品は女子高生とミリタリーを題材としていながら、作品のカラーは紛れもなく「王道のスポ根もの」であるためです。これまでのアニメや劇場版でもそうですが、まず彼女たちを襲うのは危機です。アニメでは廃校の危機、前作劇場版でもそこは同様でした。そして、次に困難な状況へと立ち向かう準備をし、実際の戦場でも数々の困難を友情と根性で乗り越え、最後には成功を手にします。
つまり、ガルパン人気の根底にあるものは、少年ジャンプなどで日本人には非常になじみがある「友情・努力・勝利」に裏打ちされた基本に忠実なシナリオの存在なのです。この構図は当然ながらスタッフも意識して作っている節があります。
おそらくですが「女子高生×ミリタリー」という時点で異色の作品に、これ以上特異な要素を上乗せしてもしつこくなってしまうだけという意識が根本にあるのではないでしょうか。したがって、最終章になってわざわざこれまで成功してきたシナリオを逆転の方向で描くとは考えにくく、それゆえに最後は桃の進路も何かしらの形でしっかりと決まるように描いてくるのではないかと予想します。
【解説】全6章という長さとそれだけのスケジュールで公開ができる理由
ガルパンの最終章は、劇場版全6話構成という異例の長さで公開が予定されています。これがTVアニメやOVAであればむしろ妥当か少し短いくらいの長さですが、これが全国公開の劇場版という事になるとかなり珍しい例になります。これだけ長く劇場で公開される映画で思いつくものは「エヴァンゲリオン新劇場版」の全4作や、「空の境界」の全7作あたりのみになるでしょう。前例こそあるものの、異例の公開スタイルであることは間違いありません。
では、どうしてこれほど長い公開期間を必要とするのか、あるいはどうしてこれほど長い公開期間を用意できるのか、という点を考えていきたいと思います。この点に関して、結論から言えば前向きな理由と後ろ向きな理由の両方が存在することが考えられます。
マイナスの理由は「ガルパンスタッフのアニメ制作ペースがかなり遅い」というものです。そもそも、TVアニメの放送時点でガルパンは最終話を「落とし」ています。この「落とす」というのは、本来毎週放送される予定のアニメが放送までに仕上がらないことを指し、ガルパンは番組表に穴をあけてしまった前科があるのです。
そのため、結局11話と12話は数か月遅れで放送されることになってしまいました。もっとも、そのラスト2話の出来には神がかり的なものがあり、アニメファンも納得の出来だったことは事実なため、ガルパンスタッフは良いものを作る一方で製作期間を要しがちであるというのが、このスケジューリングに現れているでしょう。
次に、プラスの理由は「これだけ長期の公開予定を組んでも人気が衰えない」と関係者に考えられている点です。いくら人気の作品といえども、通常これだけの話数と期間を要する劇場版を公開しようという発想には至りません。しかし、それが実際に現実のものとなっているという事を考えれば、製作スタッフだけでなくテレビ局や映画業界までもが「ガルパンの人気は衰えない」と見込んでいることがわかるでしょう。
ここからは個人的な予想ですが、関係者がそう考える理由は「ガルパンが普通の人気アニメとは一線を画す存在である」と認識しているという点を挙げておきます。その根拠は、ガルパンが「大洗市」という舞台設定となった街を現実でも町おこしすることに成功しているためです。
実際、アニメで町おこしをしようという発想自体はありふれたものですが、ガルパンと大洗市ほど密接に結びついているプロジェクトは他に類を見ません。そのため、町全体に支えられているアニメという観点でガルパンの人気が保証されている、という見方がなされたのではないでしょうか。