映画『フォルトゥナの瞳』は神木隆之介×有村架純のダブル主演で「運命が見える男」と「運命に導かれる女」が織りなすSFヒューマンラブストーリーです。
原作は『永遠の0』や『海賊とよばれた男』などのヒットメーカーである百田尚樹さん、監督は数々の実写映画を手掛け、青春恋愛映画の名手である三木孝浩監督です。
今回は『フォルトゥナの瞳』を実際に観た感想や見どころ、伏線のネタバレ解説を書いていきます!
目次
映画「フォルトゥナの瞳」を観て学んだ事・感じた事
・運命や愛という普遍的なテーマについて考えさせられる
・初恋を思い起こすような切なくて清純なラブストーリー
・主題歌に起用されたONE OK ROCK含め、演出やキャストたちの魅力を再発見
映画「フォルトゥナの瞳」の作品情報
公開日 | 2019年 |
監督 | 三木孝浩 |
脚本 | 坂口理子 三木孝之 |
原作 | 百田尚樹 |
出演者 | 木山慎一郎(神木隆之介) 桐生葵(有村架純) 金田大輝(志尊淳) 遠藤哲也(時任三郎) 遠藤美津子(斉藤由貴) 宇津井和幸(DAIGO) |
映画「フォルトゥナの瞳」のあらすじ・内容

幼い頃、飛行機事故で両親を亡くし天涯孤独となってしまった木山慎一郎(神木隆之介)は、仕事一筋で自動車塗装工として黙々と働くだけの日々を送っています。
しかし、「死が近い人間が透けて見える」という”フォルトゥナの瞳”という能力が自分にあることに気付き、生活が一変します。
ある日、慎一郎は明るく率直な一人の女性 桐生葵(有村架純)と出会い、フォルトゥナの瞳の能力を使って彼女の命を救ったことがきっかけで二人は付き合い始め、幸せな日々を送っていました。
不思議な能力に悩まされつつも人生の生きる希望を見つけた慎一郎でしたが、再び葵の体が透けているのに気付き、ある大きな決断をします。
映画「フォルトゥナの瞳」のネタバレ感想
ただの恋愛映画では終わらせない百田尚樹のメッセージ性

『ローマ神話に出てくる運命の女神「フォルトゥナ」。生死をさまよって「フォルトゥナの瞳」の能力を手に入れた人は、死に直面している人の運命や未来を変えることができる』
一見するとファンタジー要素が入り混じった恋愛モノの感動ラブストーリーですが、そこで終わらせないのが原作の著者である百田尚樹さんですね。
もちろん慎一郎と葵の恋愛模様は見ているこちらも胸がときめいてしまうくらい純粋で真っすぐですが、ラブストーリーに「運命と選択」というヒューマン要素を加えることで誰もが観やすく、それでいて人生の選択や運命、犠牲について考えさせられる内容の映画でした。
もし自分にも『フォルトゥナの瞳』の能力があり、大切な人が死の危機に面していたらどのような選択をするのか?自らを犠牲にして愛する人や他人の命を救うという選択をとるのか?といったような表面的なテーマとしての投げかけや、ラストシーンで分かる慎一郎の本当の意味の選択は観る人によって感じ方や考え方が違うのではないでしょうか。
そういった意味でも、百田尚樹さんの得意とする「ラストのどんでん返し」やストーリーに隠される「メッセージ性」が鑑賞する側の映画の楽しみ方の幅を広げてくれます。また、それぞれのテーマに焦点を当てることで回数を重ねて観れば観るほど作品の面白さや奥深さを感じる映画とも言えそうですね。
映画を観終わると分かるのですが、『フォルトゥナの瞳』はただの恋愛映画と一言では表現しづらく、ラブストーリー・ファンタジー・ヒューマンドラマ性、どこをとっても楽しめる作品でした。
原作に脚本がされることで、原作を読んだ人やそうでない人も新しい発見ができる映画なのではないでしょうか。映画では多少原作との違いや省略があるものの、大事な要素は抑えつつ見事に実写化されているといった印象を受けました。
人間味のあるキャラクターとキーワードの数々

『フォルトゥナの瞳』ではメインとなる登場人物は割と少なく、それぞれがいい意味で”どこにでもいそう”なキャラクターが多いです。主人公のように仕事に打ち込み受け身で真面目な性格、葵のように社交性があり率直な性格、金田のように感情がストレートで憎まれがちな性格な反面根は良い人間、社長夫婦のように思いやりがあって世話好きな人たち…。
この作品の登場人物たちはそれぞれが自分の身近にもいそうなキャラクターが多いため、展開を追って観ているとSFフィクションという設定を時には忘れてしまうように感情移入しやすく、シリアスな一面や人間味のある一面に妙なリアリティがあります。恋愛要素とSF要素をキャラクターの存在が上手に融合させることで、観る側の映画の好みを上手くカバーしているなぁと感心させられました。
各キャラクターにも考えさせるようなセリフや名言が多く、印象に強く残りました。例えば、運命を信じないという社長夫人の美津子のセリフに『人って朝起きてから夜寝るまでに9000回、何かを選択してるんだって』という言葉があります。この『選択』というのがこの作品のテーマのひとつですが、見ている側の私たちにもメッセージとして伝えている印象を受けます。
また、自分の命を犠牲にしてまで人の運命を変えて命を救う慎一郎に対して医者の黒田が『お前は運命を変えた人間のその後の人生すべてを背負うことができるのか?』と問いかけますが、この質問に対する慎一郎の答えをラストシーンで目の当たりにします。
キーワードとなるセリフは後から思い返しても心に残る名言が多いため、一度映画館で観たあとにもう一度見たくなってしまいました。
役者陣の今までにない魅力を再発見!

若干25歳にして芸歴が20年以上ある実力派俳優の神木隆之介さんと、今を時めく若手人気女優の有村架純さんは『SPEC』や『3月のライオン』など、今回で4度目となる共演だそうですね。今までの映画やドラマでは兄弟役のイメージが強かったため、今回の二人の恋人役はかなり新鮮でした。
神木隆之介さんは過去の出演作が多いにも関わらず、今作が自身初の本格ラブストーリーだそうで、今までとは違った一面を見ることができた気がします。塗装工の役とのことで役作りのためにジムに通い体を少し大きくしたそうですが、男らしさや一途に恋をする一人の青年としての魅力を劇中で観ることができます。
また、有村架純さんの役どころが男性にとってまさに“理想的な彼女像“ということもあって、二人の馴れ初めから恋人になるまでのシーンはまるで初恋を思い出すような、ついつい恋の行方を応援したくなる甘酸っぱい気持ちになります。さらに、SF映画としての内容や慎一郎の暗い過去やシリアスな一面も劇中にきちんとちりばめられているため「コテコテのラブストーリーが苦手」という人にとっても楽しめる内容のお話でした。
そして、珍しく憎まれ役を演じた志尊淳さんやDAIGOさんは他の作品とはひと味違ったキャラクターを観ることができるため、これもまた新鮮な気持ちです。個人的には斉藤由貴さんの演技が「こんなオバちゃんの役もできる女優になったのかぁ」と感心させられましたね。
劇中のキャラクターたちも魅力的ですが、なによりキャストの演技の幅や進化、新たなキャラクター性を再発見できる作品だった気がします。
三木監督ならではの丁寧なカメラワーク、挿入歌の演出がポイント

三木孝浩監督の持ち味は何と言っても、青春や純愛を得意とした爽やかな演出とカメラワークです。予告編でも観ることができる神木隆之介さんと有村架純さんのキスシーンやベッドシーンを、清涼感ある純愛のイメージとして映すことができたのも三木監督ならではの演出といった感じですね。
また、二人のデートシーンも甘酸っぱくも大人の恋愛という爽やかで幸せな恋愛模様の印象を与え、ラストでの葵の回想シーンに映し出される木漏れ日の美しさは見ている側の目に鮮明に焼き付きます。
テンポのいい展開とキレイな映像の余韻に浸っているとエンドロールになり、主題歌であるONE OK ROCKの「In the Stars(feat.Kiiara)」が流れることで、より一層作品の印象が底上げされます。
この曲は慎一郎と葵の幸せな日々のデートシーンの挿入歌として使われていたのですが、ラストのエンドロール時にもう一度聞くことで、慎一郎と葵の純愛のイメージを思い起こさせる起爆剤となります。三木監督の巧みなカメラワークで切り取られた慎一郎と葵の思い出が、ONE OK ROCKのハーモニーが美しいムード溢れるバラードソングによって鮮明に蘇るため、涙腺が弱い人にとっては涙を流さざるを得ないエンドロールになるのではないでしょうか。
劇場にはカップルや夫婦で観ている人も多く、大切な人を思う気持ちを描いた作品なだけあって、エンドロールでは音楽と共にすすり泣きも聞こえてきました。
風景や街並みを活かしたデートシーンは見どころ!

『フォルトゥナの瞳』のロケ地になった神戸の街並みは都会過ぎず田舎過ぎず、この映画にとってはまさに”ちょうどいいロケーション”といった印象です。若い男女の恋が始まるオシャレで都会的な景色、初々しいカップルにピッタリな海辺や公園、主人公に素朴さや生活感を出すための下町の風景や自然豊かな景色など、シーンによってロケ地を活かした撮影の工夫が垣間見えました。
交際を申し込まれた葵がその返事をする並木道(神戸市民広場からの道)、恋人同士になった慎一郎と葵の幸せそうな砂浜でのバックハグのシーン(アジュール舞子)、ピクニックで葵の手作りのお弁当を食べながら二人の将来を語り合う芝生の公園(舞子公園)、何気ないデート風景を映した異国情緒あふれる街並み(ハーバーウォーク)などなど…。
神戸の街並みはまさにカップルの理想のデートスポットといった感じで、それぞれの景色が慎一郎と葵の恋愛シーンにマッチすることで、より「綺麗で幸せな二人の思い出」としてイメージを強めていた気がします。
また、慎一郎の住む町をあえて都会的な街並みではなく、海と電車が見えるのどかな町にすることで、SF映画やファンタジーのような設定を忘れさせるような景色は映画の演出としても良かったです。ロケ地を東京のような殺伐とした大都会ではなく、少しのどかな田舎風の街並み風景にすることで映画自体にリアリティを出し、より慎一郎に自分を置き換え感情移入しやすくするためのロケーションという面でも、地方でのロケ地は正解だったように思います。
【ネタバレ】伏線の解説、衝撃の真実

ここからは作品の伏線の解説や詳細などのネタバレ要素を含んでいきます。
まず、”フォルトゥナの瞳”の能力ですが、「生死をさまよった人間のみ持つことができる能力」ということで、葵も慎一郎と同じく20年前の飛行機事故で生死をさまよい生き残ったこと、その結果に慎一郎だけではなく葵もフォルトゥナの瞳の能力者だという結末で終わります。
これは少し勘のいい人であれば、映画の冒頭シーンをはじめ作中に出てくる飛行機事故の回想シーンから作品の序盤ですでに展開が分かってしまうのではないでしょうか?分かったうえで見ていても、ラストでの葵からの視点の回想はスピード感もありテンポよく観ることができるので、ダラダラしないところは高評価ではあります。ただ、映画の伏線としては丁寧に張られすぎていて少し匂わせすぎたかな?という印象ですね。
電車の事故に気付いた慎一郎は葵と沖縄旅行を計画することで葵の命を救い、自ら犠牲となって事故の犠牲者になるであろう「透明な人たち」をも救うために、葵への想いを綴った手紙と渡すことができなかった結婚指輪を残して電車に乗る選択をします。
しかし葵の目線からの伏線では、慎一郎が透けてきているのを悟った葵もまた、死に直面しているのであろう自分を慎一郎が救おうとしていることに気付き、大切な人を失いたくないという気持ちから自らが犠牲となり、事故に遭う運命の電車に乗ることを選びます。
お互いがお互いを助けようとする想いが、結果的には二人で歩むはずの未来を絶つことになりましたが、このフォルトゥナの瞳があったからこそ出会えたという事は紛れもない事実です。
作品の中では数々の「選択」を迫られ、自らが選んだ運命を歩んだ二人ですが、二人の出会いだけが運命のいたずらだったのかもしれません。どちらにせよ、二人の育んだ愛に未来がなかったという点では切ない愛の物語ですよね。
ラスト15分の解説と作品が伝えたかったこと

結局、この作品でフォルトゥナの瞳の能力を持っていたのは木山慎一郎、桐生葵、黒田武雄の3人だったわけですが、それぞれ「運命を変える選択をした人」「運命を変えない選択をした人」「運命に導かれる人」という役割を持っています。
同じ能力を持っていてもそれぞれが各々の「選択」することによって運命が複雑になり、未来が変わっていくというストーリーが醍醐味でもありました。
一見すると「慎一郎は他人も助けるただのお人よし」に見えるかもしれません。ですが個人的には「その運命を選択する」という大きな決断ができたところこそ、この映画の一番伝えたかった最大のポイントだと思います。
「昔から何かを選ぶのが苦手なんです」という慎一郎に対し「お手伝いしましょうか?」と答えた葵。二人の出会いのシーンでのセリフですが、この言葉を覚えていたら気付かされるのではないでしょうか。
飛行機事故で生き残って以来、色のない人生を送ってきた慎一郎に色を与えてくれた葵。その葵に出会えたからこそ、慎一郎は生まれて初めて人生を自分で「選択」することができました。
飛行機事故では少女の命を救うという選択ができなかったこと、真理子に思いを伝えることができなかったことや引き留めることができなかったこと、救えたはずの憎き宇津井を見殺しにしたことで結局は後悔したことなど、”選択をせずに後悔をしてきた自分と決別をする”という「選択」が慎一郎の中にはあったのだと思います。
ただのヒーローになるための死ではなかったということ、つまりは葵との未来に未練の残る死だったことが最後の手紙の文章でがうかがえます。
ラブストーリーに隠された本来の見どころは「運命の選択」。それぞれの運命を背負った二人の恋愛シーンも素敵でしたが、この主人公の最後の選択に本来のテーマである意味を感じる考え深い映画でした。