『チャッピー』は2015年公開のアメリカ映画です。監督・脚本を手掛けたのは「第9地区」「エリジウム」などのSF映画を製作したニール・ブロムカンプで、ファンには待望のSF映画第3作目にあたります。
今回おはバイオレンス、アクション、コメディなどさまざまな面を持った映画「チャッピー」の感想や解説・考察を書いていきたいと思います。最後のネタバレまでしっかり記載しますので、未見の方はご注意ください。
目次
映画「チャッピー」を観て学んだこと・感じたこと
・AI搭載ロボット開発はどこまでが是か非かってテーマは斬新さなし
・キャストは豪華なのに登場人物の魅力が乏しいのが残念
・感動よりも切実「やっぱり教育って大事!」
映画「チャッピー」の作品情報
公開日 | 2015年 |
監督 | ニール・ブロムカンプ |
脚本 | ニール・ブロムカンプ テリー・タッチェル |
出演者 | ディオン・ウィルソン(デヴ・パテル) ヴィンセント・ムーア(ヒュー・ジャックマン) ニンジャ(ワトキン・チューダー・ジョーンズ) ヨーランディ(ヨ=ランディ・ヴィッサー) アメリカ(ホセ・パブロ・カンティージョ) ミシェル・ブラッドリー(シガニー・ウィーバー) |
映画「チャッピー」のあらすじ・内容

舞台は南アフリカ・ヨハネスブルグ。政府は大手兵器メーカーから半人工知能を搭載した攻撃ロボット・スカウトを購入し、治安維持にあたらせていました。
スカウトを開発したエンジニア・ディオンは、新たに思考力や感情を持ち成長する新型人工知能ロボット「チャッピー」を開発した途端、ロボット悪用を計画するギャング団にさらわれてしまいます。
無垢な「チャッピー」の寿命はたったの5日。一方、同僚ヴィンセントは、自身の開発ロボットが政府に採用されないことをねたみディオンの抹殺を画策します。はたしてチャッピーの運命は・・・?
映画「チャッピー」のネタバレ感想

ウサギのように耳が長く突き出たチャッピーの容姿から、かわいくて切ないロボットのお話と思っていましたが、実際は人間が近い未来に抱えていくであろうAIの問題や、南アフリカの現状や社会への問題提起を含んだ深いテーマが盛り込まれた作品です。
SF映画としての評価が芳しくなかった作品とはいえ、最終的な結末を楽しむ映画でもありますので、映画未見の方にはおすすめできませんが、より一層映画を深く掘り下げたい人に参考となる解説や考察をネタバレを交えて書いていきます。
監督は「第9地区」「エリジウム」のニール・ブロムカンプ

「チャッピー」の監督は「第9地区」「エリジウム」といったSF映画を世に送り出したニール・ブロムカンプです。実は「チャッピー」は2004年にニールが監督した「テトラ・バール」というSF短編映画を長編映画化したもので、チャッピーのデザインは2004年に作った架空のロボット会社のCMから盗んだものなんだとか。チャッピーというロボットには監督の思い入れが詰まっているようです。
「チャッピー」の舞台となるのは南アフリカのヨハネスブルグですが、ニール監督自身も南アフリカ生まれです。「第9地区」や「エリジウム」でも、南アフリカの社会に巣くう貧困や犯罪率の高い地区の事情をリアルに描いていましたが、「チャッピー」も例外ではなく、世界有数の犯罪率の高さで有名なヨハネスブルグの暴力的な面を軽快なテンポで描いています。
監督自身、南アフリカが抱える問題点を知り尽くしていて、故郷を愛するがゆえにこのような作風が多くなるのでしょう。ギャング団たちの教養のなさをコメディタッチで描きながら、同時に多くの人がそのように生きるしかなくなっている南アフリカの現状をSF映画に交えて訴える、ニール・ブロムカンプ監督らしさを感じる作品だと思います。
主題はロボットが感情を持つことの是非、結果は非・・・なのでは?

映画の主題はロボットが感情を持つことの是非だと思います。そもそも作中では「感情を持つロボットの開発」を進めるディオンと、「ロボットに感情を持たせることには信仰レベルで反対」のムーアと、両者の相反した価値観が対立している前提があります。作中ムーアは悪役として描かれていますが、結局感情を持ち成長するチャッピーは育てる人間(ギャング団)の影響下で育ち、悪事に手を染めてしまいます。
それだけならまだしも、自分の存在がやがて死を迎えることを知ったチャッピーは、創造者(ディオン)に不信感を抱き葛藤を抱えてしまいます。このことはAIの生育状況によって、善や悪さまざまな価値観を持ってしまう危険性を意味してしまうでしょう。パワーがあるだけに悪に染まったら最悪ですよね。
AIをロボットに搭載する映画は今までにもありましたが、私は知る限り人間を害獣として駆除し始めたり、自分の存在に疑問を持ってしまったり、あまり良い結末の映画を知りません。「チャッピー」は自分はおろか、人間の意識をも取り出してロボットに移行し、めでたしめでたし的な終わり方ですが、この結末はどこかうすら寒い、あまり良い未来が見えないようにも思えました。
結局、私がこの映画を観て感じたのは「思考を持つAIを人間が制御するのはムリ」ということ。ムーアと同じ考え方ですね。原子力と同じで人間がAIを完璧に制御できるレベルには達していないように思えるのです。
【考察】最大のモヤモヤポイント!ディオンは感情を持つAIを一体何のために開発したかった?

半人工知能ロボット「スカウト」を開発したエンジニアのディオン・ウィルソンは、スカウトの開発では満足できずに日夜「感情や思考力を持つ成長するAI(完全体の人工知能)」の開発を進めています。寝る間も惜しんで研究を重ねるその姿は鬼気迫るものがあり、よほど開発に執念を燃やしていることがうかがえますよね。
ただ、ディオンがそこまで一心不乱にAIを開発したい理由は全く見えてきません。感情を持つロボットを一体どんなことに使いたいのが、最後までわからないのが最大のモヤモヤポイントです。
この映画を観る限り、感情を持つAIの開発は全くのエゴ。ディオンの自己満足としか感じられないのです。後先のことを考えず、自分の欲望を満たすためにチャッピーを作ったとしたら、「なんで死ぬのをわかってて僕を作ったの?」というチャッピーの言葉も当然です。私だってそう言ってやりたいですもん。
そこをもう一歩踏み込んで、ディオンに感情を持ち成長するAIを開発する理由があるとしたら何だろうかと考えました。例えば、警官として活躍する「スカウト」は、法を守らない犯罪者の検挙や抹殺をプログラムされています。そこに感情や思考力が加わると、ボランティア、ベビーシッターなどの分野で「いつくしむ心」や「共感する心」を活用することができるからでしょうか?
それでも、どんな素晴らしい環境下で育てた人間も「魔が差す」ことがあります。感情をもつAIなら「魔」を排除して「善」だけを持つことができる?それで感情、思考力を持っているといえるのか?などなど・・・。考えれば考えるほど、「感情+ロボット」の問題は複雑化してくるのです。それだけ難しく、普遍的なテーマだということですよね。
やっぱりディオンについては、もう一歩上の高みを目指すための開発者の性みたいなものが開発に突き動かしたのだと納得した方がしっくりきます。そんな開発者ディオンもそうですが、やはり行きつくところは「どのキャラクターにも今一つ共感できない」という感情なのでした。
ディオンがどんなことを成し遂げたくて開発に執念を燃やすのかだけでも描かれていれば、せめてディオンには共感できたかなと思います。
個性が出すぎたり曖昧過ぎたりすることで消える人物像・キャスティングセンスはいいが…。

「チャッピー」のキャスティングセンスは一定の評価はできると思います。まず、半人工知能を搭載した「スカウト」の開発者ディオン・ウィルソン役にはデヴ・パテル。スラムドッグミリオネアでは澄んだ瞳が印象的な少年、ライオンでは自分探しをするひたむきな青年を好演しました。
ただ、本作での彼については、演技を評価する以前の問題として「ディオン・ウィルソン」がどんな人物なのか考察する余地がありません。エリート技術者で開発オタク、普段から社用車で行動するほどプライベートには無頓着。どんな人物か推察するにはこのあたりが限界でしょう。AIを開発する情熱がどこから来るのかもわかりませんし。
ディオンは感情を持つAIを完成させると、ボスのミシェルに「廃棄処分される予定のスカウトに感情を持つAIをインストールさせてくれ」と頼みますが、あっさり「そういうのは面倒だしダメ」と断られます。ならばと会社の倉庫から廃棄処分予定のスカウトを盗み出し、スカウトの重要な部分が治まっている「ガードキー」を盗み出して感情を持つAIを秘密裏にインストールしてしまいます。
こんな穴だらけな計画、あっと言う間にばれちゃいますよね。その前に、社員として超えてはいけない一線をあっさり超えちゃってます。結局チャッピーはガードキーをつけたまま誘拐されてしまったのでガードキーを会社に返しておくこともできません。すべて短絡的思考のせいで身から出たサビですよね。
イケメンでもなく恋人おらず、AIの開発に情熱を傾けるオタクエンジニア、という役どころがデヴ・パテルにぴったりなだけに、人物の浅はかさ、共感のしづらさがなおさら致命的です。せっかくのキャストがもったいなく思えました。
さらに、ライバルである開発者ヴィンセント・ムーア役にはヒュー・ジャックマンが起用されています。こいつが悪役なんですが、そもそも人工知能には反対という立場をとっていて、共感できる人が多い信念なだけに、この時点では悪役として半端者になります。
また、ムーアがオフィス内で「悪ふざけ」と称して、ディオンをねじ伏せて銃を突きつけるシーンがあります。いくら悪ふざけとはいえ、たくさんの人がいるオフィスでこんな事したら処分ですよ処分。問題になるでしょう。こういうシーンでは、観ている側がふと冷静になって「ありえないでしょこれは」という気持ちになってしまうんですよね。映画というのは途中で現実に引き戻される瞬間が多いほど興ざめするものなんです。
そして、ただの武器デザイナーであるにもかかわらず、ディオン憎しの気持ちは強烈で、殺人する気マンマン。殺し屋ですか?ってほどの執念です。一応普通の人としてロボット開発に携わっていた人が突如オフィスで異常行動をとったり、会社の人間の目のある場所(いつ社内の人間が来るかもわからない場所)でディオンを殺そうと執拗にロボット操作することに違和感を感じます。ヒューの悪役のイメージや残忍さは似合うのでキャストは良いのですが、人物をもっと現実的に描いてほしかったです。
ついでに言えば、ボスのミシェルはシガニー・ウィーバーが起用されています。この上司、コスト削減を気にする上司で、多少無神経ではありますが普通の人。会社の利益しか考えていない人ですが、こんな上司なら普通にいますし、登場シーンもそこまで多くはありません。で、なぜシガニー・ウィーバー?人物像が曖昧すぎて、このキャスティングだけは彼女を起用した意味が分かりません。作り込むような役柄でもないですし。
結局、キャストが豪華なことに目は奪われますが、「なぜ」その人を起用したのか理由が見当たりません。強烈に違和感のあるキャラや、何を考えているかわからない曖昧なキャラのおかげで人物像も消えていきます。ここにベテラン俳優陣を起用する理由が果たしてあったのか大いに疑問です。
【解説】「テンション」の謎のモンペが話題のダイ・アントワードが曲も担当

人工知能搭載ロボット「チャッピー」は3人組のギャング団にさらわれ、まっさらな赤ちゃんのような状態からギャング団のしきたりや言葉遣いを教えられて育ちます。このギャング団のうちの2人、ニンジャとヨーランディは実際に南アフリカケープタウン出身のミュージシャンで「ダイ・アントワード」というバンド名で活躍しています。バンドでもニンジャとヨ=ランディと呼ばれているんだそうです。
南アフリカでは近年、白人の貧困層=プアホワイトの問題が深刻化していて、労働者階級の南アフリカ白人はZEFと呼ばれるんだとか。ダイ・アントワードはそのZEFを題材にしたパンクを音楽の題材として活躍しているミュージシャンで、作中でもこのバンドの楽曲が使われています。エンディング曲でもヨ=ランディの可愛いボーカルが特長的です。
とにかくこの二人がユニークなキャラで、マシンガンがPOPなイエローで塗ってあったり、アジトはカラフルなイラストでいっぱいだったり、ゲームのスプラトゥーンのキャラクターのように個性的ですよね。
実はカラフルなマシンガンや銃弾の色は彼らの提案で、ギャング団が乗り回しているマットな黒塗りインプレッサはニンジャの私物だとか。彼は作中でもド派手なオレンジに「テンション」と縦書きされた謎なモンペを履いているので、注目してみてください。まあ、とにかく日本好きなことだけは伝わりますね。
ちなみに、このギャング団の紅一点ヨーランディはチャッピーに愛情を注ぎますが、ニンジャは最初からチャッピーを道具扱いして結構ひどい仕打ちをしています。そしてチャッピーをだまして現金輸送車を襲いますが、それもバッテリーがなくなると死んでしまうチャッピーに「大金を稼いで新しいボディを買ってやる」と甘言でそそのかして悪事を働かせるんですよね。
襲撃が成功し大金が手に入ると、ニンジャは大喜びするチャッピーに「ごめんよ、新しいボディはないんだ」と白状します。もともと最初からチャッピーを利用するつもりだったはずですが、この段になって急に罪悪感が芽生えたらしく、しおらしくチャッピーに謝るニンジャ。
次の展開でギャングのアジトが、敵対するギャング団とムーアが操縦する兵器ロボットムースに同時襲撃されます。頭の悪い小悪人のニンジャですが、なぜかここではいきなり身を挺してディオンやチャッピーを守る正義の人になります。ニンジャ突然のキャラ変更。いったいどんな心境の変化があったのでしょうか。しまいには俺がムースの気を引くからヨーランディを連れてディオンを助けろ!とイケメンなセリフまで飛び出します。
最後まで徹底的に悪人ではないことで、ラストの感動には花を添えますが、今までの所業を見せられてきた視聴者には、これまたニンジャの人物像について混乱が残ります。
【考察】結局この映画で学ぶこと。それは感動ではなく「教育って大切!」

廃棄処分予定のスカウト22型を盗み、開発したAIを搭載しようとしたディオン。それをロボごと誘拐して「チャッピー」と命名し、育てたギャング団という流れのこの映画ですが、際立つのはギャング団の「おバカ」加減です。
まあ、どの登場人物も大概なのですが、ギャング団が上の組織らしきギャング団に失敗の穴埋めとしてお金を要求されます。思案しているとヨーランディが「現金輸送車を襲おう」「警察ロボにつかまっちまう」「警察ロボットはロボットなんだからマシンでしょ?TVみたいなリモコンがあるはずだよ!」「リモコンを盗もう!」ととんでもない発想に至ります。
実際にディオンを誘拐して「リモコンをあるよね?渡して!」と迫りますがディオンにしてみれば「リモコンって言われても…」という感じですよね。とにかく常識が通用しないおバカキャラで見ているだけで疲れます。まあ、問題をより誇張するためにそういう風に作っているのでしょうけど。
また、チャッピーは赤ちゃんのように無垢な状態から、ギャング団に育てられることで仕草や言葉遣いまでギャング式になっていきます。人間の知能を凌駕するほどの知性を持ちうるのに、結局は短絡的な思考回路と激情型の性格しか手に入れられてません。
日本でも教育の格差が問題になって久しいですが、ギャング団といい、チャッピーといい、教育のなさ(または教養のなさ)が身の破滅を招いているようにしか思えません。
この映画ではチャッピーの存在意義やけなげさで感動させようとしているならば間違いなく失敗。ただし、南アフリカの経済・教育格差の実態や怖さ、「やっぱり教育って大切だよね~」という問題提起をしたいとすれば大成功の映画ですね。
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※2019年6月現在の情報です。