「ケース39」は2009年にアメリカで公開された映画です。日本では劇場公開されず、DVDでのみ鑑賞できる作品で、子どもの無垢なイメージを逆手にとったホラーサスペンスです。
今回は「ケース39」の感想を解説・考察をネタバレ満載でお届けします!
目次
映画「ケース39」を観て学んだこと・感じたこと
・ストーリーの展開が予想通りすぎる!?
・豪華俳優陣!しかし残念ながら登場人物が魅力薄
・頭を使いたくないときの娯楽としてはおすすめ!
映画「ケース39」の作品情報
公開日 | 2009年 |
監督 | クリスチャン・アルバート |
脚本 | レイ・ライト |
出演者 | エミリー・ジェンキンス(レネー・ゼルウィガー) リリス・サリヴァン(ジョデル・フェルランド) マイク・バーノン刑事(イアン・マクシェーン) ダグラス・J・エームズ(ブラッドリー・クーパー) マーガレット・サリヴァン(ケリー・オマリー) エドワード・サリヴァン(カラム・キース・レニー) |
映画「ケース39」のあらすじ・内容
社会福祉士のエミリーはたくさんのケースを抱えて多忙な毎日を送っています。
ある日、39番目のケースとなるリリーの家を家庭訪問します。家庭内の様子から虐待を疑うエミリーは、ある晩オーブンで焼き殺されそうになったリリーを間一髪で救い出し、里親が見つかるまでの間、リリーの保護者となることを決めます。
しかし、身辺に次々と異常が起き始め、エミリーはついに精神病院に入れられているリリーの実の両親に面会し、驚愕の事実が明らかになったのでした。
映画「ケース39」のネタバレ感想
日本では公開に至らなかった「ケース39」は子どもがらみのホラーサスペンスということで、公開年を同じくする「エスター」としばしば比較されます。
この映画が「エスター」と同時期に公開されたことはある意味悲運だったかもしれません。話の展開がどこか似通っているため、比較対象になってしまい既視感が否めなくなってしまったためです。
これから「ケース39」の解説・考察を書いていきますが、完全なるネタバレ記事となりますので未見の方はご注意ください。
「ケース39」の評判はイマイチ…その理由は予想を超えないストーリー展開にあり!?
「ケース39」は児童虐待のケースを扱う社会福祉士エミリーが、虐待の疑いのあるリリーの家を訪れることから始まります。
両親は陰気で風貌もこの上なく怪しく、家の中はきちんと片づけられてはいるものの、古びていて荒んだ雰囲気が漂っています。面談中のリリーはすっかりおびえ切った様子を見せていますし、父親は直接エミリーと話をせず、妻に耳打ちして妻を通して話をしたり、妻を脚で小突いたりしてパワハラの雰囲気も満載です。いかにも何か陰気な秘密がありそうな家庭なんですね。ここは怪しい感を楽しむ場面です。
ここで「映画慣れ」をしている人は大抵気付いてしまうのです。この親が本当にリリーを虐待している線はないな・・・と。この怪しすぎる親がエミリーを虐待しているとすれば、それ以上ストーリーが展開する余地がなくなってしまいます。逆にそのくらいストレートな展開なら、一周回った意外性がありさらに楽しめたかもしれません。
しかし、やはりそこは予想を裏切らず、無垢に見えるリリーにはとんでもない本性が隠されています。リリーの両親の態度が怪しいと感じたエミリーは、ある晩リリーからのSOSを受け取り、友人で刑事のマイクと一緒にリリーの家に急行します。すると家の中から聞こえる少女の悲鳴。ちょうど両親がオーブンでリリーを焼き殺そうとしていた所に危機一髪間に合います。
ここは両親から少女への虐待がないと予想していても、思わずぎょっとしてしまうほど残酷なシーンです。いくらなんでもリリーがかわいそう!早く助けてあげて!と思ってしまうシーンですね。
エミリーとマイクが家の中に踏み込み、オーブンからリリーを助け出して両親を叩きのめします。父親のエドワードにいたっては冷蔵庫に顔面をたたきつけられ、あごがすっかりずれてしまっていてコメディタッチ。あごが外れるとこんな顔になっちゃうんですね。気を付けましょう。
その後、リリーを引き取ることになるエミリーですが、ちょっと公私混同が過ぎてます。プロに徹するならばリリーを社会福祉士としてサポートしていくのが最善のはずですが、このあたりの思慮の浅さや短絡的なところにややイラっとしますね。この様子じゃ社会福祉士としての腕も知れてる・・・と思わせる展開です。
そして予想を裏切らず、リリーは当初のかわいらしい様子から徐々に本性を現していくわけです。こうなるとかわいらしい顔立ちが一層不気味。失礼ながらエスターは小面憎い顔をストレートに嫌悪できましたが、リリーの場合、顔がかわいいだけに底知れぬ不気味さがあるのです。そこだけはキャスト選びが功を奏した点ですね。
ただ、やっぱりどうしても先の展開が読めてしまうのが難点です。最後、エミリーがリリーと対決して命からがら勝利を収める展開にも全くひねりがなく、映画の見始めからだいたいの展開が予想できてしまう。これは映画として大きなマイナスポイントのように思えました。レビューなどを確認してみても、展開が予想通り過ぎるという感想が非常に多いのもうなずけます。
【解説】女優、俳優が豪華なだけに残念!人物像が曖昧過ぎる
主人公の社会福祉士エミリー役はレネー・ゼルウィガーです。レネーといえば役柄に合わせた増量・減量のイメージがあり、作品ごとに役になりきるプロ魂を見せてくれる女優さんなので個人的に好きなのですが・・・。正直、この役柄のレネーには中途半端さがぬぐえません。映画の最後まで見てもエミリーがどんな人物なのかつかみきれないのです。
どうやらエミリー自身、母親との間に問題を抱えていたようです。ネグレクト気味だった母親はエミリーをかわいがれないまま他界し、エミリーは母親のようになるのが恐ろしくて子どもが持てないのだとリリーに指摘されていました。
この母子関係についてはもちろん、なぜ社会福祉士になったのか、そのあたりも予想の域を出ず事実は判然としないままなので、エミリーという人物について今一つ感情移入できません。
また、エミリーのボーイフレンド、ダグ役をブラッドリー・クーパーが演じていますが、彼の人物像もよくわかりません。ダグは映画中盤でリリーに呪い殺されるのですが、エミリーと付き合っている風ではあるものの絆が全く感じられず、エミリーはダグが亡くなっても悲しいのか恐ろしいのか、その感情さえはっきりしません。もっともリリーに「軽薄で高慢な性格」などと称されるあたり、もともと大した男じゃなかったのかもしれませんが。
エミリーの友人で刑事でもあるマイク役はイアン・マクシェーン。映画やドラマで長いキャリアを持つ彼ですが、なぜこのベテラン俳優を起用したのでしょう。エミリーとの友情も特に感じませんので、知人程度の刑事であるかと思いきや、セリフの中でお互いが「友人として言っている」など友情を強調する部分もあります。なのに、なのにですよ?大した活躍もしないまま呪い殺されます。全体的に人間関係が希薄で、関係性が把握できないまま話が進んでいくので感情移入ができず置いてきぼりな気分なんです。
このような豪華キャストを組んでおきながら一人一人を全く生かせておらず、高いギャラを無駄に使ったな~という気がしてしまいました。大きなお世話でしょうけど。
レビューではレネーの目じりのしわが気になる、容姿の劣化が目につく、などが散見されますが、この方、若いころから目じりの優し気なしわがチャームポイントだったので、私は特に気になりませんでした。
それよりも、美人枠なのか普通のおばちゃん枠なのか、中途半端な役どころが気になりましたね。もう少しメイクを濃くして「シカゴ」で魅せたような色気たっぷりの美人社会福祉士にするか、仕事一本やりのまま冴えないオールドミスになってしまった社会福祉士か、どちらかに寄せた方がレネーの魅力がもっと引き出せたような気がします。
【解説】この映画で一番ホラーなのは間違いなくリリーの笑顔!
この映画のリリー役はジョデル・フェルランド。ゲームをもとにしたホラー映画「サイレントヒル」のシャロン役といえばピンとくるかもしれません。小さな顔にアンバランスなくらいの大きな瞳が印象的な少女で、この子がうつむいて何かにおびえたような表情をするとそれだけで正義。誰が何と言おうとかわいいは正義なのです。
このリリーが時々ぞっとするような冷たい表情を見せます。だんだんリリーへの恐怖心から距離を置くエミリーにじれて「愛してくれなきゃあんたの周りの人間を呪い殺すわよ!」という脅しでエミリーの骨までしゃぶる勢いのリリー。そんなリリーへの恐怖心からエミリーは、部屋に鍵をかけてリリーを寄せ付けないように部屋にこもります。
作中ではリリーの正体さえ何なのか出てきませんが、おそらく悪魔的な人知を超えた存在だと思われます。なので、部屋にかけたカギなんて何のその。ドアは破られ、重しにした家具はひっくり返され、難なくリリーは部屋に入ってきてベッドの下で震えているエミリーににっこり笑いかけます。・・・にっこり♪
美形の少女の渾身の笑顔って、なんでこんなに怖いんでしょうか。もう美しすぎてまがまがしいんですよ。あと、リリーはほとんどかわいい顔のリリーのままなんですが、ほんの一瞬だけ、見間違いのように顔が変化する時があります。
エミリーがリリーに出て行けと怒鳴るシーンや最後退治されるシーンなどです。一瞬だけリリーの顔が化け物チックになりますが、すっかり変身してしまうよりもドキッとします。美しい顔からの一瞬の変化が怖くて、この演出はすごくよかったですね。正体がバレたリリーが開き直って醜い悪魔のようなものに変身していたらB級感が増していたことでしょう。
この作品で唯一意味のあるキャスティングは、この美しすぎて怖いジョデル・フェルナンドでまちがいないです。
まき散らしっぱなしの伏線やエピソードはもはや突っ込みどころしかない
この映画では、もはや突っ込みどころの多さを楽しんでほしいんですが、まず、リリーの正体については「邪悪な何か」というざっくりさです。リリーは狙った相手に幻覚を起こすことができるのですが、ターゲットが「これは幻覚だ」と意識することであっさり形勢が逆転するという中途半端な力なのもなんだかな~という感じがします。
さらに父親のセリフに「あいつは千里眼だ」みたいなのがありますが、実際は恐ろしく勘がいいという域を超えません。現にエミリーが包丁を隠し損ねてクッションの隙間から刃の部分が相当飛び出ていたのに全然気が付かないし、家に火をつけて眠っている間に焼き殺そうと睡眠薬入りのカモミールティーを飲ませてもあっさり飲んじゃってます。まあ、眠ってなかったようなので「邪悪な何か」に睡眠薬は効かないみたいです。
また、リリーへの虐待が疑われた両親は、地下室に大きな穴を掘っていて、エミリーが最初の面談の際にサリヴァン家を訪れた時も父親が掘削の最中だったようです。でもこの穴、結局何のために掘っていたのかはとうとう最後までわからずじまいでした。
さらに、父親はエミリーとの面会で「焼き殺せば退治できるかもしれない」とアドバイスします。実際この夫婦もオーブンによるリリーの殺害を計画していたのですが、結局リリーは車ごと海にダイブしたことによる水責めであっさり退治されちゃいます。あれ?火はどこいった?睡眠中に殺せとも言っていたような…。
最後もリリーを車に乗せて爆走中のエミリーに幻覚を見せますが、エミリーが「これは幻覚よ!」と強く念じたとたん幻覚は消え、ふと見るとリリーの態度は一転して「ひええ~~~」と泣きそうになってます。え?よっわ・・・。しかもさんざん人を呪い殺しておいて、唯一の望みが「愛してほしい」って、とんだツンデレさんではないですか!
しかもリリーは「邪悪な何か」なわけですから、アメリカ的な一般常識として焼き殺す前に悪魔祓いじゃないですか?あの夫婦は一度も悪魔祓いなどのオカルト的解決法を思いつかななかったんでしょうか。
エミリーにしても、友人を呪い殺されて「やっぱリリーはおかしい」と思ったら即座に殺す一択なのも不自然。やっぱりそこは「悪魔憑き」として考えるのが第一段階なんですが、誰一人提案する人さえいないんですよね。ここで「悪魔払い」では解決できない理由やエピソードを入れてくれたら、映画全体の納得度や満足度が大きく上がったと思います。
他にも、リリーの父親がエミリーに「あいつの気が済むまでしばらく居つくぞ。あんたは選ばれたんだ」的なことを言いますが、父親はリリーが生まれてこのかた10年間ずっと一緒に暮らしてきたのに、まるでリリーが次々にターゲットを変えて来たようなことを言っています。
でも、リリーは間違いなく夫妻の子として生まれ、ずっと1つの家庭で一緒に暮らしてきたんですよね?ということは、これからのリリーの行動は未知数なはず。リリーがどの段階で次のターゲットに移るのかはわからないと思うんですけど、このあたりもちょっと詰めの甘い設定ですよね。
さらに、リリーが眠っている間に自宅に火をつけて燃やそうとする場面も「あれ?一緒に死ぬの?」と思うくらい燃え盛るリビングでエミリーは落ち着き払ってますし、リリーを乗せて車ごと海中にダイブしたあと水中でもみ合いますが、意外とリリーの力は”並”でして、普通に取っ組み合いしても勝てたかもしれないなあ…なんて思いました。
やっぱり、素人でも思わず突っ込みたくなるほど設定が甘いのが残念です。
【考察】リリーの正体は何か?フルネームはリリス…ってことはやっぱり
リリーと呼ばれる少女の正体ですが、はっきりとは出てきません。父親はエミリーとの面会で「あいつの魂は古くて破壊的、悪魔の魂を持っている」と言いますが、悪魔にしては力が弱い。両親に抑え込まれてあっけなくオーブンに入れられてしまうし、海に沈む車の中でエミリーに抑え込まれてしまいます。特殊能力も幻覚だけですから、今まで見た悪魔の中では最弱の部類に入ります。
ですが、リリーの本名は「リリス」。リリスといえば旧約聖書で最初にアダムとともに作られ、その後アダムのもとを去って次々に悪霊を生み出した「夜の魔女」と同じ名前です。だからリリーはその古くて破壊的なリリスの魂を持っているのかもしれません。
リリスについてはさまざまな伝説や俗説があり、はっきりしたことはわかりませんが「創世記」によると、最初に土からアダムとリリスが作られ、同じ土から生まれたのだからとリリスはアダムと平等の権利を要求しました。そしてアダムと口論になり、家を飛び出し紅海に住み着いたのです。そこへ神が3人の天使を使わし「戻らなければリリスの子どもを100人殺す」と脅したため、リリスはそれを恨んで人間の子ども(アダムとイブの子ども)を殺す魔女になったのだとか。
ちなみに、今やリリスは「女性解放運動」の象徴とされているようです。リリスの家出後、神はアダムの肋骨からイブを作ったとされますが、イブは常にアダムに付き従って従順な妻であり、また蛇に騙される愚かな妻でもありました。それに比べるとリリスは自分の意見をしっかり持った自立した女性だったのです。
リリスが「もともとは人間であった夜の魔女」とするなら、あの中途半端な弱さも納得できるのではないでしょうか。
【評価】深く考えない娯楽映画としては丁度いい!エスターを観る前に!
いろいろ書いてきましたが、この映画の楽しみ方がないわけではありません。疲れがたまった時など、難しいストーリーに深く入り込むより、単純なストーリーの映画を軽く楽しみたいって時がありますよね!そんな時にはこの「ケース39」が最適です。
展開が読めるとはいえサスペンス的なドキドキは十分ありますし、あの可愛い顔が一変してぞっとする化け物顔になるのも必見です。
また、何かと比較対象となる「エスター」を未見の人も結構楽しめそうです。どちらもまだ見ていないなら、ぜひ「ケース39」を観てから「エスター」を観ることをおすすめします。