映画『ラストサムライ』はエドワード・ズウィック監督による時代劇?です。カッコいいを追求した、まず日本人には作ることのできない映画でした。
今回はそんな『ラストサムライ』の個人的な感想やネタバレ解説を書いていきます!
目次
映画「ラストサムライ」を観て学んだ事・感じた事
・カッコいいサムライを描くことに全力を注いでいる
・各人物の動機・思惑は最後までよくわからない
・細かいことは気にせず雰囲気を楽しむのが吉
映画「ラストサムライ」の作品情報
公開日 | 2003年12月6日 |
監督 | エドワード・ズウィック |
脚本 | ジョン・ローガン等 |
出演者 | ネイサン・オールグレン大尉(トム・クルーズ) 勝元盛次(渡辺謙) 氏尾(真田広之) たか(小雪) 信忠(小山田真) |
映画「ラストサムライ」のあらすじ・内容
主人公オールグレンは、合衆国で酒浸りの日々を送っていました。かつて白人の士官として、南部の兵やインディアンを多数殺したことがトラウマになっていたからです。
ただ実績はあったため、ある日日本の実業家・大村から、近代化に取り組む日本軍の教官の仕事を頼まれます。高額な報酬を条件に来日したオールグレンは、技術も熱意もない訓練兵たちに対して嫌気を覚えていきます。
そんなある日、新政府に不満をもつサムライの生き残りの勝元盛次の一派が、鉄道の破壊工作を行ったとの報せと共に、出撃命令が下ります。
勝元たちは時代錯誤の刀と鎧で抵抗しますが、アールグレンの予想通り、日本兵は歯が立ちません。敗走する中、アールグレンは勝元たちに捕まってしまい……。
映画「ラストサムライ」のネタバレ感想
サムライはこうあって欲しいという願いを感じる映画
本作は全面的に、「サムライってこんなところがカッコいいよね」というイメージを具現化したような作品です。言い換えれば、歴史的に正確なサムライを描いたものではなく、まるでサムライ界のアイドルを示すかのようなものになっています。大河ドラマに出てくるようなサムライとはまったく別と言っていいでしょう。
あるいは、舞台が過去の日本であるだけで、ヒーロー映画に近いと言ってもいいかもしれません。超常的なスーパーパワーが使われるわけではないという意味では、マイルドな『ジャンゴ 繋がれざる者』や『バットマン ビギンズ』のような感覚でしょうか。
もしくは時代をかなり無視した時代劇でもあるでしょう。実在した人物を(明治天皇を除いて)登場させない、外国人を脚本にかなり絡ませているという大きな違いもありますが、既存の時代劇らしさも強く感じられます。なんにせよサムライ映画と言うにはハリウッド流のアレンジが大きくなされており、それを「カッコいい!」と思うか「欧米っぽすぎ!」と思うかで評価が分かれる作風になっています。
トムクルーズ、真田広之のイケメンぶりが楽しめる
「カッコいいサムライ」を前面に押し出した映画であるため、主要男性俳優陣のイケメンぶりを味わうにはこれ以上ない作品になっていると思います。トム・クルーズ、渡辺謙、真田広之らの顔が好きという方にはもってこいでしょう。
残念ながら(?)筆者は男ですし、特にイケメンには興味がなく、たくさん見せ場があって嬉しいと思うことはありませんでした。それでも、美男子が武士道に生きる姿を味わいたいのであれば、本作ほど適した作品は無いことはまず間違いないと思います。
歴史的にはおかしい!違和感を覚えても仕方ない
「カッコいいサムライ」を描こうとした結果なのかどうか、本作は史実と食い違う部分が多数あります。正確性を重んじる方には目に余るかもしれません。
例えば馬の種類です。本作ではまだ自動車が普及する時代ではないこともあって馬が多用されていますが、それらが押しなべてサラブレッドになっています。しかし、日本の在来種の馬は、標高差が激しい日本の地形に合わせて、短足でずんぐりむっくりななものばかりです。
鎖国が終わったころであることを考えると、そういった種も少数なら輸入されていたかもしれません。そうは言っても、不平士族である勝本の一味がサラブレッドを大量に保持しているはずはありません。古来の日本らしさを主張するなら、仮にサラブレッドを入手できても在来種を使って欲しかったとさえ思います。それでも足の長いサラブレッドを採用したあたりは、非常にハリウッドらしいですね。
中盤には忍者が出てきて殺陣を見せたりしますが、忍者は明治期にはいません。風魔の者が活躍したのは後北条が滅ぶまでですし、伊賀・甲賀の者も江戸時代になってから徳川家のお抱えになったとはいえ、幕府滅亡にともなって職を失っています。それが明治に集団で戦うのは、まずありえないと言っていいでしょう。人気で画面映えするから出してみた感が強いです。
身もフタもないことを言ってしまえば、そもそも勝元盛次なんて人物は存在しません。サムライが朝廷(明治天皇)に挑んだ大きな戦といえば戊辰戦争ですが、その際のトップは徳川慶喜です。幕府が倒れた後には西郷隆盛が九州で反乱を起こしており(西南戦争)、西郷は勝元のモデルにもされたようですが、相違点も少なくありません。本作の戦争は戊辰戦争とも西南戦争とも発端が異なりますし、全面的にサムライをカッコよく見せるためのフィクションだと捉える他ないでしょう。
言ってみれば、本作は雰囲気を楽しむ映画です。史実がどうだというツッコミは無粋でしょう。「よくわかんないけどカッコイイ」と思えればそれがベストだと思います。
日本が舞台だけど日本がロケ地じゃない?
サムライが天皇に反旗を翻すという話からもわかるように、本作の舞台は当然日本です。しかし、本作のロケ地は必ずしも日本国内ではなかったりします。一部の寺社仏閣は実在のものを使用していますが、それ以外の大部分は国外で行われました。
ではどこで撮影が行われたのかというと、市街地はハリウッドのセット、屋外はニュージーランドの北島西海岸にあるタラナキ地方でした。タラナキ地方は人の手が加わっていない原野や森が多いうえ、タラナキ山(エグモント山)という活火山があったことが決め手でした。この山は円錐形の独立峰(山脈に連なっていない)であり、角度を調整すると同じ円錐形・独立峰の富士山に見えることがポイントだったそうです。
本作はおそらく1870年代という設定になっていますから、背景も相応の文化レベルになっていなければなりません。勝元が鉄道建設の妨害をしたりしたように、この頃は都市部で文明開化が急速に進んでいった時期です。逆に言えば地方で近代化が進んでいたらオカシイですよね。
当然、電柱や舗装された道路が一本映りこんでしまうだけで、設定が破綻してしまいます。高度なCG技術を使えばそれらを画面上から消すことも可能だとは思いますが、そんなことをするくらいなら、まったく開発されていない外国の土地で撮影をした方が安上がりだったのでしょう。国内だとたとえどんな田舎であっても、電柱や道路くらいはありますからね。
同様のパターンは他にもあります。例えば江戸中期のキリシタンの受難を描いた『沈黙 -サイレンス-』も、撮影は台湾で行われています。こちらだとはっきりと、「日本で撮影するより安かったから」と説明されていて、製作事情を考えると致し方ないところなのでしょう。もっとも、映像を観るとこれらのロケーション選びには十分納得させられます。「日本ぽくない!」とはまったく感じさせないのではないでしょうか。
以下からネタバレを含みます!
【ネタバレ】最後まで剣に生きた勝元は……
捕虜となったアールグレンは、勝元が拠点とする村に連行されます。美しい未亡人・たかの介護もあって傷を治したアールグレンは、冬の間をその村で過ごします。はじめは言葉も文化もわからなかったものの、勝元の寛大な措置もあって、次第に彼らに惹かれていきます。
剣を学び、日本語を少しずつ身につけ、さらに夫がアールグレンら日本兵の攻撃で殺されたにもかかわらず、たかが世話をしてくれた事実を知り、どんどん勝元たちを尊重するようになります。村人たちもよく学ぶアールグレンを受け入れ、謝罪を受けたたかも心を許していきます。
冬も終わったある夜、忍者軍団が村に現れて勝元の暗殺を試みます。アールグレンは混乱に乗じて村から逃げるようなことはせず、犠牲を出しつつも勝元の身を守ります。後日勝元は「かつておまえは敵だった(いまは違う)」と言いつつ、天皇の命により上京することを打ち明けます。オールグレンはなお逃げず、勝元に同行することを決めます。
東京に着いたオールグレンは軍に迎えられ、数か月で一気に組織化された兵隊に驚きます。さらにその兵を指揮し、勝元の一派を早期に潰す仕事を押しつけられます。しかし彼はこれを受け入れず、合衆国に帰ろうとします。その途中で勝元の命が政府に狙われていることを知り、妨害をはねつけて勝元に会いに行きます。
一方勝元は、天皇に対し旧態然とした忠誠を見せるものの、天皇の知見が狭く優柔不断であること、元老院がかつての日本のものを捨て去ることに躍起になっていることから、都内で謹慎処分を受けます。そこにアールグレンたちが現れ、勝元の脱走を助けます。村まで逃げられはしたものの、元々政府から目の敵にされていたこと、謹慎処分を破ったことから、戦争は避けられなくなってしまいました。
ちなみに明治初期の上層部にも、似たような構図があります。明治天皇が践祚した(天皇の地位を継いだ)のはわずか14歳のときでしたし、江戸時代の間は政治的なことはすべて徳川幕府が行っていたので、いきなり指示を仰がれたら困るのは当然です。
また西郷隆盛も、薩摩の幼馴染だった大久保利通の推薦で明治新政府に参加したものの、ずっと日本でサムライとして生きてきたために古い考えを捨てられませんでした。特に岩倉使節団によって外国を見てきた大久保とは政治(征韓論など)の見方が決定的に違っていたため、最終的に西郷は政府を去って薩摩に帰っています。その後西南戦争を起こすところも酷似していますね。
勝元もその後政府と戦争を始めます。戦の経験や兵一人一人の質では勝っていても、兵力差は大きく、トドメにガトリング砲を使われたことで、サムライはオールグレンを残して全滅します。ただ、勝元の死にざまに日本兵はひざを折り、天皇もまた彼が遺した刀を丁重に掲げるのでした。
【考察】命を賭してまで武士道を伝える意味はあったのか
終盤での描き方からすると、勝元の目的は「死んでも天皇に武士道を伝える」ことにあったと考えられます。そして天皇は遺された刀に対し、その心意気を買ったかのように見受けられます。一見すると、勝元の覚悟が報われたように思えなくもありません。
けれど、武士道ってなんなんでしょうか?作中ではあたかも背中で語るかのような雰囲気が出ていますが、具体的なところはかなりふんわりしています。勝元に政治的理想があったようにも、新政府になにか落ち度があったようにも見えないだけに、いっそうよくわかりません。
そもそも武士道という言葉は、新渡戸稲造によって1900年から広まった経緯があり、それ以前に広まっていたのかは非常に怪しかったりします。では「言葉がないだけでサムライにはなにか信条があったのでは?」というと、サムライの姿・立場も時代によって変化しているため、一貫性が無く、これと定められるものも特にありません。
たとえば「戦いかた」を指して武士道と言うときもありますが、武具・防具・馬具・教育水準などによって変わるため、これと定められるものはありません。勝元が天皇に戦術指南をしたかったとか考えにくいですしね。
「倫理観」もほぼ同様です。江戸時代より前だと、各家ごとに家訓や法のかたちで倫理が定められていたはずですので、裏を返せば全国のサムライに共通の道徳なんてあったはずはありません。江戸時代に入ると幕府が朱子学を奨励したり、水戸黄門(徳川光圀)や斉昭が水戸学を後押ししたりしてサムライの教化を図っています。ただこれも、勝元が教えたがったことだとは思えません。
もっともイメージしやすいのは「肩書き」ではあります。「士農工商」と言われるように、江戸時代においてサムライ=武士は農民や商人などより立場が上でした。金銭的・実利的に得をしていたかどうかはさておき、武士は自分が武士であることにかなりの誇りを持っていたと思われます。
明治に入って四民平等の政策が採られ、武士の特権だった帯刀も禁止されたのに前後して、不平を持った武士による反乱が起きたり、武士だったのに平民籍に入れられた伊達家の子孫によって士族復籍の儀請願が出されたりしていることからも、「カタチだけでも武士でいたい……」という気持ちが伝わってきます。勝元のモデルは西郷隆盛とされており、西郷は不平士族の反乱における大将になっていたと考えると、「戦いかた」や「倫理」よりは説得力があるでしょう。
とはいえ、「勝元らは自分の肩書きにしがみつきたかったから戦った!」というのは、とてもロマンに欠けています。できればそうは思いたくないのが正直なところでしょう。「じゃあ他にはないの?」というと……。あとは、「サムライの雰囲気」のような非常に曖昧なものだけになってしまうような気がします。元の話とほぼ戻ってきちゃいますね。そんな曖昧なもののために命をかけた、というのは一般的な感覚からするととても奇妙ですが、色々考えこんでいる地点で武士道からは遠ざかってしまっているのかもしれません。
ついでの話をすると、日本はその後太平洋戦争で敗戦するまで日本主義・国粋主義を経由しつつ右傾化を進めて(欧米に対し排他的になり、日本らしさを追求して)いきます。現実には勝元盛次なんていなかったにも関わらずです。
その際サムライのような刀と鎧がもてはやされたか?というと肯定しにくくはありますが、それでもやはり日本は日本らしさを完全には捨て去れなかったと考えられます。その辺まで考えるとなおさら「勝元の行動にはなんの意味があったんだろう……」と思わされるのですが、これ以上はもう、考えたら負けなのでしょう……。
【評価】欧米的感覚でカッコいい侍が観たければアリ
『ラストサムライ』は外国人監督による作品であり、日本人からするといくらでもツッコめる要素があるほど脇が甘いです。各人物の思想もほとんど不明瞭で、思わせぶりな時代設定から人間ドラマとしての魅力を期待すると、最終的に消化不良になるとも思います。
一方で、だからこそ表現できたカッコよさもあります。政治的な会話がないからこそ無常に死にゆくサムライの姿がよく出ているとも解釈できます。なんにせよ、マニア向けの映画と言うよりバリバリの大衆向け、とりわけ「とりあえずイケメンのサムライが見たい」という人向けの映画でしょう。
(Written by 石田ライガ)
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