映画『カメラを止めるな!』は、2017年に製作された「B級」日本映画です。低予算で小規模な映画ながら、「B級」であることを最大限に生かした脚本や表現技法が高く評価され、日本国内外で多数の映画賞を受賞するほどに成功した映画でもあります。
また、芸能人や映画関係者がこぞって高い評価を与えていることも特徴ながら、それでいて娯楽映画としての完成度も高く、さまざまな見方で楽しめる映画という特徴もあります。
今回はそんな『カメラを止めるな!』の個人的な感想や解説を書いていきます!
ただし、『カメラを止めるな!』という映画は、公式に「ネタバレ厳禁」という注意が発されるほど、その部分の仕掛けが映画に大きく影響します。そのため、まだ映画を観ていないという方は、先に映画を観てから記事をお読みいただくことを強く推奨します。
目次
映画『カメラを止めるな!』を観て学んだこと・感じたこと
・ハリウッドだけじゃない!映画は予算や規模で面白さが決まるとは限らない
・アイデアが見事!低予算を逆に生かした素晴らしい作り
・見事なまでに回収される伏線回収の手際の良さに感嘆
映画『カメラを止めるな!』の基本情報
公開日 | 2017年11月4日(先行公開) |
監督 | 上田慎一郎 |
脚本 | 上田慎一郎 |
出演者 | 日暮隆之(濱津隆之) 日暮真央(真魚) 日暮晴美(しゅはまはるみ) 神谷和明(長屋和彰) 細田学(細井学) 山ノ内洋(市原洋) |
映画『カメラを止めるな!』のあらすじ・内容

とある山奥の廃屋で、自主制作のゾンビ映画を撮影していた一行。監督のこだわりが非常に強く、時間は経てどもテイク数が積み重なっていくばかり。
そんな中、ゾンビ映画の撮影中になんと本物のゾンビが出現した!突然の「リアル」なゾンビに、監督は大喜び。当然のように撮影は続行され、撮影陣が次々とゾンビ化されてしまった。
この後、撮影隊は果たしてどうなってしまうのか。ゾンビ映画の「撮影者」に焦点を当てたB級ゾンビサバイバルがここに繰り広げられる!
映画『カメラを止めるな!』のネタバレ感想
超低予算&無名の俳優陣で構成された撮影スタッフたち

今作は、もともと監督&俳優養成スクール・ENBUゼミナールの映画製作プロジェクトシリーズの一作として制作されました。そうした背景もあって、当然予算は非常に限られたものであり、小規模で上映される予定の映画として制作されました。
その予算は約300万円程度ともされており、当然ながら大物俳優を起用する、豪華なCGを駆使して撮影するといったお金のかけ方はできませんでした。
そこで、監督の上田はオーディションを実施し、無名俳優を選び抜きました。そこから、選び抜いた俳優に当て書きで脚本を製作し、そのリハーサルには数か月を要するなど、低予算ながらそれを補う努力と情熱を傾けて作られた映画であることがわかります。
こうした予算規模で製作されたこともあり、当然公開される劇場もごく限られたものでした。しかし、そのクオリティの高さに観客が殺到し、6日間限定の先行上映は連日チケットがソールドアウトになるなど、熱狂的な支持を受けました。そのため、先行上映終了後も公開を待ち望む声が殺到し、口コミで映画の評判が広まっていきました。
このようにして、今日では我々のような標準的な映画ファンなら誰もがその名前を知っている映画として広く認知されるようになったのです。
【解説】 冒頭37分のワンカットの劇中ホラー映画には伏線だらけ!

さて、この映画はまず冒頭に37分間もの時間を使って「ワンカットの劇中ホラー」を流します。この映画の構成は、映画ファンならこの時点で既に何かしらの意図を感じられるかもしれません。さらに、このワンカット映画の出来にも、何か不思議な点が多数紛れていたことに気づいた方も少なくないと思います。
例えば、劇中映画内でいきなり趣味の話を始めるシーンや、お互いに「怪我はないか」と何度も確認するシーンなどがそれにあたります。これらは、普通に考えれば、低品質な映画でよくみられる「やっちまった」といえるシーンです。しかし、それが単純なミスなのか、それとも「パニック状態の時ならありえるのか…」と思わせるための演出なのか、はたまた映画後半に向けた伏線なのか、と視聴者を混乱させます。
そして、こうした違和感が積み重なってきて「これは前フリなのか!」と視聴者が気づき始めるころに映画のエンドロールが流れ、これが劇中劇であったことが明かされます。
この部分の演出は、非常に「上手いな」と素直に感心させられました。この映画を観た感想などをチェックしてみると、この冒頭のシーンが退屈でたまらなかった、という意見が少なくないこともわかります。しかし、そう感じさせられている時点で、もう監督の手のひらで踊らされていることを意味します。
つまり、劇中でばらまかれている伏線を見つけられず、「つまらない」B級映画の様子にごまかされてしまっていることを意味するからです。そして、一気にバラされるからくりに、我々は大層驚かされることになります。
この部分の驚きを大切にするために、多くの視聴者は「ネタバレ厳禁」という言葉を使うわけです。もちろん、私もその意図はよくわかります。
【解説】第二部にあたるパートが中だるみしないところに力量を実感

こうして壮大なネタバラシを食らった我々は、次に一か月後の時系列へとジャンプさせられます。そこでは、今作のキャラクターや舞台を説明するような物語が展開されていきます。このパートでは、第一部の映画がどうして作られるようになったのかという、ヒューマンドラマ的な部分に焦点が当てられています。
ここではさまざまな問題が浮き彫りになってくるのですが、説明的になりすぎて中だるみすることなく、しっかりとした構成でストーリーが展開されていきます。もちろん、この映画最大の見所は大胆な伏線回収と抱腹絶倒のコメディにあるわけですが、そこに至るために映画として必要な要素を、テンポよく消化しているという点もこの映画の評価を高めています。
世の中には「アイデアが素晴らしい」という映画は、決して多くはないですが一定数存在します。しかし、その映画が「アイデアの一発屋」で終わってしまっているという例もないわけではありません。特にSFやサスペンスで顕著にみられる例として、世界観の設定や殺人のトリックそのものは大変すばらしい一方で、そこに至るまでの過程やヒューマンドラマが力不足、というようなものがあります。
もちろん、斬新なアイデアは「良い映画」にとってとても重要な要素です。ありきたりなアイデアを用いても、すでに数多くの映画に親しんでいる人々からすれば、容易に展開を想像できてしまうからです。特に、『カメラを止めるな!』の場合、この部分が大きく評価されたのは言うまでもないでしょう。
しかし、そうした斬新なアイデアを生かすために、テンポよく、かつ過不足なく説明的な第二部を消化しているという点に、『カメラを止めるな!』の人気の秘訣があるようにも感じます。アイデア一点勝負になりがちなB級映画で、こうした細やかな点にも配慮がなされているというところに監督の力量を実感させられます。
【解説】抱腹絶倒の第三部!映画はこうした努力に裏打ちされていたのか…

そして、いよいよこの映画の肝である第三部に突入します。ここでは、実際に冒頭の映画が撮影される様子が描かれています。降りかかってくるいくつものトラブル、そこに必死で対応していく撮影陣。
もちろん、我々は完成後の映画の姿を既に知っています。なぜなら、冒頭で既に完成後の映画が流されているからです。そして、それが決して「満点の」映画でないことも分かっています。その理由は単純で、先ほども触れたように、映画として観ていくと看過できないいくつもの違和感が存在したからです。実際、私も伏線であることは理解しつつも、B級映画ということで納得する部分もありました。
しかし、こうして実際に展開されていくトラブルを目の当たりにすると、そうした先ほどの感想とは大きく異なる感情をもつことになりました。そう、それは「応援」の感情です。映画を撮るまでのストーリーと、降りかかる数々の笑ってしまうようなトラブルを目前にすると、全力で撮影に取り組んでいる撮影陣がたまらなく愛おしく感じられるようになるのです。
このオチ部分は、正直芸術的ともいえる完成度の高さを誇っています。第一部・第二部の伏線を最大限に生かしつつ、笑いあり涙ありの展開を盛り込んでいるという構成は、97分の映画後半程度の時間を文字通り最大限まで有効活用しなければ到底成立しません。
文字にすると「欲張り」にも思えるような盛り沢山の内容を、忙しさを感じさせずに映像化する構成のセンスには素晴らしいものを感じます。国内外で映画賞を数多く受賞したのも頷ける内容に仕上がっています。
エンタメ映画に必要な要素が全てそろっている

さて、ここまでの解説でもたびたび触れてきましたが、この映画には非常に多くの要素が盛り込まれています。
ホラー・サスペンス・笑い・涙・人間関係・どんでん返し…etc
これらを違和感なく97分という尺でまとめあげているという事実は、「エンタメ映画の傑作」と呼ばれるにふさわしいものがあります。
確かに、この映画には「強烈なメッセージ性」のようなものはないかもしれません。それゆえに、恐らく政治的主張や既存の価値観への問題提起を必要とする視聴者には、物足りないものに映ってしまう可能性もあります。
しかし、予算が限られているという制約上、徹底的に観客を楽しませようとしている、という観客本位な作風は、「エンターテインメント」という娯楽としての映画の根本的な役割を我々に思い出させてくれます。つまり、こと「楽しむ」という観点での評価では、間違いなく近年の邦画で最高級の作品であると断言できます。
【解説】映画内の仕掛けを上回る仕掛けが「実際の撮影」に存在した

映画全体をみていくと、冒頭のホラー映画でみてとれた違和感は、作中の撮影陣にとっては必死の努力をもってしても隠し切れなかった部分である一方、現実の撮影者にとっては意図的に作り出していた「違和感」であることがわかります。
我々はホラー映画を現実と思い、その映画は創作であったことを知り、その後に映画内の演出は撮影現場のトラブルが原因であったことを知ったのです。そして、こうしたトリックを生み出した現実の撮影陣を称賛するという心情の変化をしていくことになったのです。
しかし、ここにはもう一つさらなる仕掛けが隠されており、それは「実際の撮影」を知ることで答えを見出すことができます。
それは「劇中で発生したホラー映画の違和感を覚えるミスには、意図的に盛り込んだミスと実際の撮影で意図せず発生してしまったミスの両方が盛り込まれている」というものです。
つまり、もちろん劇中映画に「ミス」を残すことが脚本の肝であったため、意図的に起こしていたミス(という演出)があった一方、実際に『カメラを止めるな!』の撮影中に発生してしまった撮影上のミスも、意図的な演出という体で劇中映画に盛り込まれているのです。
これは監督のインタビューで語られていた仕掛けですが、その構成の緻密さに再び驚かされることになりました。我々が意図的だと思っていたミスは、全てが意図して引き起こされたものではなかったのです。
撮影中のミスさえも演出として生かしてしまう発想力に驚かされたのはもちろんですが、この仕掛けが結果的に映画の「リアリティ」を増すことにもつながっています。つまり、この映画には一部「ノンフィクション」の箇所があることを意味するのです。
低予算映画では『カメラを止めるな!』のように、ドキュメンタリー風の架空な世界観を形成する手法「モキュメンタリー」がしばしば用いられます。したがって、劇中劇を撮影する劇中の撮影者という二重の構造までは、全く例がないという訳ではないのです。
しかし「劇中劇を撮影する劇中の撮影者を撮影する現実の撮影者」までをも演出の対象として用いているという映画は、かなり珍しいものであるといえるでしょう。映画の撮影を題材にしている映画ならではの仕掛けであり、その題材を最大限に生かす配慮がなされているといえます。
【考察】映画関係者がこの映画を絶賛するもう一つの理由

冒頭のリード文で、この映画が特に映画関係者に評判がいいということに触れました。これは、もちろん『カメラを止めるな!』という映画が素晴らしいものであるということを裏付けているという意味もありますが、もう一つ「映画関係者」ならではの理由というものも存在するように思えます。
それは、この映画は「撮影あるある」を面白おかしく再現している映画であるという点に由来します。つまり、俳優や監督などの映画関係者は、当然主体的に映画の撮影に関与する側の撮影者でもあります。そういった人々が『カメラを止めるな!』の鑑賞者になるわけですが、彼らにとっては自分たちの「仕事現場」が映画化されていることになります。
したがって、劇中で巻き起こされる撮影上のトラブルは、当事者として自分たちに重ねて鑑賞することになります。すると、その部分がしっかりと練られているために「職場あるある」として受け取られることになるのです。先ほども触れましたが、この映画は実際に起こった撮影上のミスまで演出に取り入れているので、その部分には強烈な「リアル」があります。それは、つまり『カメラを止めるな!』の撮影現場のみにとどまらず、撮影現場では起こり得るトラブルなのです。
もちろん、今をときめく売れっ子俳優の出演する映画では、起こらないトラブルも少なくないかもしれません。しかし、そうした俳優の大半には下積みの時代があり、『カメラを止めるな!』に代表される低予算映画や、自主制作映画に出演していた経歴があります。彼らにとっては、そのころを思い起こさせるような意味もあるのです。
我々の立場に置き換えて考えてみましょう。例えば営業中の「あるある」が面白おかしく加工されて、それを営業職から本社勤務に昇進した部長クラスが観ているという構図が成立しているのがお分かりいただけるでしょうか。そうなれば、当事者にとって、若いころの「あるある」がどれほど面白く感じられるかが、理解できるのではないでしょうか。
つまり、映画だけにとどまらずドラマや宣伝などで「カメラ」が存在する現場にいる当事者にとっては、我々のような撮影に無縁な視聴者よりも抜群に面白く感じられるのではないかと思います。そうした観点から考えると、万人が楽しめる映画である一方、撮影に関わっている人にとっては必見の映画であるともいえます。
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