映画『君の名前で僕を呼んで』は、アメリカ・イタリア・フランス・ブラジルの合作映画です。アンドレ・アシマンという作家の「Call Me by Your Name」を原作としています。
本作、『君の名前で僕を呼んで』は2018年のアカデミー賞「脚色賞」を受賞しました。男性同士の恋愛を描いた作品ですが、風景や音楽が美しく、暖かな青春映画となっています。
今回は映画『君の名前で僕を呼んで』のネタバレを含む個人的な感想と解説を書いていきます!ネタバレを含みますので未視聴の方はご注意ください。
目次
映画「君の名前で僕を呼んで」を見て学んだこと・感じたこと
・少年時代の初恋の繊細さを思い出す
・自分の心に素直に向き合うということ
・言葉で語らずに、解釈を観客に委ねる映画
映画「君の名前で僕を呼んで」の作品情報
公開日 | 2018年4月 |
監督 | ルカ・グァダニーノ |
脚本 | ジェームズ・アイヴォリー |
原作 | Call Me by Your Name |
出演者 | ティモシー・シャラメ(エリオ・パールマン/入野自由) アーミー・ハマー(オリヴァー/津田健次郎) マイケル・スタールバーグ(パールマン/星野充昭) |
映画「君の名前で僕を呼んで」のあらすじ・内容
1983年、17歳になるエリオは両親と共に、北イタリアの別荘で夏期休暇を楽しんでいました。エリオの父は考古学の教授であり、母は語学に富んだ母の一人息子です。そんな両親の元で育ったエリオは、古典や音楽を嗜む感性豊かな少年に育っていました。
エリオの父であるパールマンは、毎年博士課程の学生を別荘に招待します。今年招待したのは、オリヴァーという知的な青年でした。
エリオは初めて会うオリヴァーに嫌悪感を示しますが、次第にオリヴァーと打ち解けていきます。
しかし、エリオはオリヴァーに対してただならぬ感情を抱き始めるのです。そしてエリオとオリヴァーは友人以上の特別な関係になっていきます。
映画「君の名前で僕を呼んで」のネタバレ感想
エリオの甘酸っぱく忘れられない葛藤
映画『君の名前で僕を呼んで』は、エリオとオリヴァーの青春を描いた映画です。2人が過ごした6週間の夏休みは、エリオにとって喜びも葛藤も、全て忘れられない大切な思い出になりました。
エリオがリヴァーと出会った頃、エリオはオリヴァーに対してあまり良い感情を抱いておりませんでした。それどころか、エリオにとってオリヴァーはまるで自分の居場所を脅かす侵略者のように感じていました。
しかし、オリヴァーと触れ合うにつれ、エリオはオリヴァーに対してただならぬ感情を持ちはじめます。その感情とは、オリヴァーに対す好意でした。
一方、エリオはオリヴァーの他にも同じ場所で出会った少女とも関係を持っていました。しかし、エリオは少女よりも男性であるオリヴァーの方に強く惹かれていきます。
この時、エリオはまだ自分の気持ちを受け入れていません。エリオは溢れんばかりの欲求をどこに向けていいのか分からず、自分の感情に戸惑っていました。実際に交際していた女性とも肉体関係は持つことになりますが、オリヴァーに対する欲求が忘れずに、やがてオリヴァーに好意を向けるのです。
そのようなエリオは戸惑いと葛藤の中、エリオはオリヴァーと関係を深めていき、ついに肉体関係まで持ちます。
しかし、エリオはオリヴァーとの関係を両親に知られたくありませんでした。エリオにはまだオリヴァーとの関係に両親にはバレたくないという、後ろめたい気持ちが少なからずあったはずです。それでも、エリオの溢れんばかりの感情はとまることはありませんでした。
エリオにとってオリヴァーとの6週間は、幸せな日々と同時にオリヴァーとの関係について葛藤する日々でもあったのだと思います。
美しい風景と古典のメタファー
『君の名前で僕を呼んで』は、ほとんどすべてのシーンに美しい風景や音楽、古典の要素が散りばめられています。
特に北イタリアの緑豊かな風景に関しては、映像を眺めているだけで癒されるほどです。この風景の美しさは、甘酸っぱく切ない本作の雰囲気を彩る上で欠かせないものになっています。
また、本作の音楽はとても静かで大自然にいるかのような安らぎを感じますね。
シーンに合わせたピアノのBGMの音が美しく耳に届きます。どこか悲しげですが、優しさに包まれるような音楽です。この音楽も評価が高く、本作を語る上で欠かせない要素になっています。
本作では古代ギリシャやハイデガーといった古典が多く登場しています。本作において、古典は物語を紐解いていく上で重要なアイテムです。
例えば、映画の冒頭で古代ギリシャの彫刻が多く映っていました。古代ギリシャでは、同性愛は珍しいものではなく、青年男性と少年の組み合わせが多いのです。
青年男性と少年の組み合わせというのは、もちろんオリヴァーとエリオのことですよね。そして、同性愛は古代ギリシャでは珍しいものではない。それらのことからか、本作の登場人物はエリオとオリヴァーの関係に関して、大きく問題にはしてません。
エリオの父は2人の関係を知っていましたが、特にエリオやオリヴァーと衝突することはありませんでした。
以上のことから『君の名前で僕を呼んで』は、古代ギリシャの同性愛観が強く影響していると思います。 このように本作では、古典が様々な意味を持って活用されているのです。
『君の名前で僕を呼んで』は、古典が重要なメタファーとなっている部分が多いです。他にも古典の要素はバッハやハイデガーなど、いくらでも出てくるかと思います。
古典的な要素に関しては、観客の受け取り方に依るところが多く、明確な答えがあるわけではありません。あくまで個人的な解釈となっています。
『君の名前で僕を呼んで』はゲイ・ロマンス映画に留まらない青春映画
『君の名前で僕を呼んで』は男性であるエリオとオリヴァーが交際していく話であり、ゲイの方の恋を描いた映画かと思われますが、本作はゲイのラブストーリー・ロマンスというわけではありません。
本作の監督であるグァダニーノ監督も「本作はゲイ・ロマンスの話ではない」と発言しています。
『君の名前で僕を呼んで』は、ゲイのラブロマンスではなくエリオという少年の物語。そして、エリオの甘酸っぱい青春の物語です。17歳のエリオが自身の欲求に自覚をもち、溢れ出る欲求とどのように向き合えばいいのか。そのような葛藤と甘酸っぱさを味わえる青春映画です。
そのため、本作の甘酸っぱいような青春ドラマは誰にでも覚えがあるような、共感できる内容となっています。ゲイやバイセクシュアルはそこまで意識するような要素ではなく、あくまでもエリオの青春の話なのです。
そういった意味でもゲイのラブロマンスではなく、男性同士の恋愛を描く本作はある意味特殊な映画とも言えます。誰もエリオたちを批判しないというのも、個人的にはちょっとファンタジーっぽいところがあるとも感じなくありません。
そのような不思議でファンタジーっぽい世界観も、エリオの思い出として捉えると、個人的には納得ができます。
以上のことから『君の名前で僕を呼んで』は、エリオの青春の映画であるのですが、エリオがオリヴァーと過ごした日々を思い出している映画なのではないかと思います。
エリオの葛藤やオリヴァーとの関係を象徴するシーンの数々
『君の名前で僕を呼んで』は、他の映画に比べると登場人物のセリフが少なく感じられますが、映像の演出と情報量は他の映画に比べて飛び抜けています。
映画で描かれているのはエリオの感情の生々しい感情と欲求の描写。自身の性癖に戸惑いながらもオリヴァーに惹かれていく感情の移ろいは、初々しいながらも刺激的に描かれていました。
最初エリオはオリヴァーのことを疎ましく思っていましたが、除々にオリヴァーに対し好意を抱き始めます。エリオはオリヴァーの気を引くために、バッハの曲をアレンジしたり、わざと回り道をしてオリヴァーに会いに行ったりしました。
そんなエリオの初々しい描写もあれば、エリオの欲求が爆発しているかのようなシーンもあります。例えばエリオがオリヴァーの下着を被ったりするシーンや桃のシーンです。
非常に刺激的で観客を驚かせるシーンですが、これらの描写は10代であるエリオの精神的な不安定さと溢れんばかりの欲求がよく描かれていると思います。
他にもエリオとオリヴァーの部屋の構図が印象的でした。エリオとオリヴァーの部屋は繋がっているのですが、2人の部屋を行き来する扉があります。最初は閉じられていたのですが、エリオとオリヴァーが打ち解けていく中、その扉はずっと開放された状態になっているのです。
このことから、エリオとオリヴァーの部屋の構図は2人の心の距離を表していたのではないかと思います。実際に2人が出会った頃は閉じられていた扉が、交際が始まるにつれ、開放されていくのです。
このようにエリオの心情や2人の心の距離や関係を結びつけられるような描写が、本作には多くあります。セリフが多い映画ではありませんが、そういったところを改めて意識してみると、また新しい発見があるかもしれません。
エリオ役のティモシー・シャラメの演技力がすごい
本作はエリオを視点に進行していくのですが、このエリオ役であるティモシ−・シャラメの演技力がすごいのです。情緒不安定とも言える繊細な17歳の少年エリオの、心のゆらぎや葛藤、欲情が見事に演出されています。
例えば、エリオがサングラスをかけながらオリヴァーを眺めていたり、オリヴァーに触れられた時の少年らしい初々しさの仕草が細かいのです。
視線の投げ方やオリヴァーとの微妙な距離感も、現実でありそうなほど自然的でした。
さらには、エリオがオリヴァーに対して欲情するシーン。本作は静かに自然的に静かに時間が流れていくような映画なのですが、エリオのオリヴァーに対する欲求が爆発するようなシーンがあります。
特に印象に残るのがエリオの桃のシーンですよね。一見、変態的なシーンに見えるのですが、10代の少年の欲求があんなにも情緒的に描かれているのは圧巻。カメラワークも洗練されていてすごいです。そして、なによりもそれを自然に演じるティモシ−・シャラメの演技力に脱帽です。
ティモシ−・シャラメの素晴らしい演技がなければ、『君の名前で僕を呼んで』という映画は、ここまで話題にならなかったはずです。
全てを肯定してくれる人々の優しさ
エリオとオリヴァーが別れた後に、エリオと父のパールマンと会話するシーンがあります。この父と子の会話シーンはとても温かくて、多くの観客の心を打ったシーンではないでしょうか。
父のパールマンは息子のエリオの行動と想いを全てわかっていました。パールマンはエリオとオリヴァーの関係を知っていたのです。その上でパールマンは息子の全てを受け入れて、息子を問い責めずに息子を肯定します。その時のセリフがまた心に沁みますよね。本作の答えを表すセリフだと感じます。
「自分の気持に正直になって向き合って、決してその痛みを忘れるな。でないと君の心を見失ってしまう」
父は息子の秘密を全て受け入れた上で、息子を無条件で全面的に肯定してくれているのです。このシーンでは、エリオが父にこれまでの全てが許され、受け入れられました。エリオは間違っておらず、おかしいものではないという安堵感があります。
まさに全てを包み込んでくれるかのような優しさです。エリオもこのパールマンという父がいたからこそ、自分の心情と向き合うことができ、素直になれたのではないかと思います。
エリオを受け入れてくれているのは、父だけではありません。エリオの母も同じです。
エリオの母は、エリオとオリヴァーと別れた後に車で迎えに来てくれます。涙を流すエリオをそっと迎え入れてくれます。母は何も言わずに息子を迎え入れ、見守ってくれるのは父と同じような優しさを感じます。おそらく、母もエリオとオリヴァーの関係を知っていたのです。そうでなければ、エリオを迎えるシーンは必要ではありません。
さらに付け加えるなら、エリオと交際していた女性も優しくエリオを受け入れてくれます。彼女もラストでエリオに「ずっと、友達でいましょう」とエリオと抱き合います。
彼女がエリオとオリヴァーの関係を知っていたかは分かりませんが、彼女に興味を無くしたエリオを受け入れているのは確か。以上のことから、誰もエリオの行ったことや想いを否定せず、肯定しているのです。
このように『君の名前で僕を呼んで』の登場人物には悪人が存在せず、エリオとオリヴァーの関係を批判したりしません。基本的には登場人物の全ての人が、エリオを肯定してくれます。このような暖かな人間関係もあって、この映画はとても優しく感じられるのです。
だからこそ、エリオが思い出している青春はこんなにも美しく描かれているのではないでしょうか。
エリオの青春の終わりを告げるラストシーン
映画のラストシーンに、オリヴァーがエリオに電話をするシーンがあります。その最後の電話でオリヴァーは自身が女性と婚約したとエリオに告げるのです。エリオはオリヴァーを祝福するものの、静かに涙を流し映画は幕を閉じます。
この時、エリオの青春は静かに終わったのだと感じました。日常が続いていく家庭を背にしながら、エリオはオリヴァーと夏休みのような関係なることはなく、自分の恋が終わったのだということを、悟ったのだと思います。
この暖炉のシーンなのですが、静かに泣いているエリオの後ろでいつもと変わらない日常が描かれているのが、また切ないんですよね。
しかし、エリオにとってオリヴァーと過ごした日々はかけがえのない大切な日々でした。自分の性と向き合って苦しい時もありましたが、楽しい日々でもあったのです。忘れられるはずがありません。
エリオはこれからも、オリヴァーと過ごした日々、そしてエリオが感じた苦しみと喜びを忘れないでしょう。父と話した最後の言葉通り、エリオは自分が抱えた胸の痛みを忘れることはないはずです。
そのようなことも含め、映画『君の名前で僕を呼んで』はエリオの青春の思い出であり、エリオがオリヴァーと過ごした青春の日々を思い出している映画だったのではないかと思います。
エリオとオリヴァーのその後、続編について
本作の監督であるルカ・グァダニーノ監督は、『君の名前で僕を呼んで』の続編の制作を考えているとのことです。現に映画では原作の途中でエンドロールとなりました。
少年から大人になったエリオはどうなるのでしょうか。別の男性を好きになっているかもしれないですし、女性と交際して一般的な人生を歩んでいるのかもしれません。エリオの今後がどうなるのかが全く予想できないところも、エリオの思春期の不安定さが感じられます。
オリヴァーに関しては女性と結婚してしまいましたが、こちらもエリオと同じで全く予想できません。個人的には、オリヴァーは落ち着いて暮らしているのではないかと思います。
なぜならオリヴァーは、本作でも節度を守っていますし、エリオと駆け落ちするような素振りも見せていないからです。要するにオリヴァーはすごく大人なんですよね。そんな大人のオリヴァーが簡単に自分の人生をだめにしてしまうような行動を取るとは、個人的には思いません。しかし、そうならないのも人生って感じがします。
果たして二人は再会するのでしょうか。もし再会したら、2人は何を語り合うのでしょうか。
続編を待ちながら、二人がどんな生活をしているのかを想像するのも映画の楽しみ方の一つですね。
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