アメリカで大ヒットを記録した原作の小説「ささやかな頼み」。小説の映画化としては異例ともいえる、出版前に映画化が決定されたことでも話題になりました。これまでにない捻りに捻りを加えたサスペンスは圧巻ですし、最後まで目が離せない映画となっています。
主演を務めたアナ・ケンドリック、ブレイク・ライヴリーという2人の人気女優の共演にも注目です。
今回は「シンプル・フェイバー」の個人的な感想やネタバレ解説を書いていきます。
目次
映画「シンプル・フェイバー」観て学んだ事・感じた事
・最後までどうなるかわからないスリリングな展開が見もの
・2人の主演女優の活躍が素晴らしい
・女の友情や裏切りなどをスタイリッシュかつコミカルに描く
映画「シンプル・フェイバー」の作品情報
公開日 | 2019年3月8日 |
監督 | ポール・フェイグ |
脚本 | ジェシカ・シャーザー |
原作 | ダーシー・ベル「ささやかな頼み」 |
出演者 | ステファニー(アナ・ケンドリック) エミリー(ブレイク・ライヴリー) ショーン(ヘンリー・ゴールディング) |
映画「シンプル・フェイバー」のあらすじ・内容
ステファニーは事故で夫を亡くしたシングルマザーで一人息子を育てる傍、家事や育児などをテーマにしたビデオブログを運営しています。
一方、エミリーはアパレル会社の広報部長を務めるキャリアウーマンで、小説家兼英語教師の夫・ショーンと共に一人息子を育てていました。
ステファニーとエミリーの息子は同じ小学校に通っており、子供同士が遊んでいたことをきっかけに出会います。エミリーの家に遊びにいったステファニーは酒を酌み交わしながら、互いの秘密を打ち明けるほどの関係にもなっていました。
仲が深まる中で、仕事で忙しいエミリーはしばしばステファニーに息子の面倒を依頼するのですが、ある日、息子を預けたままエミリーは忽然と姿を消していきます。
ステファニーはエミリーの捜索が続く中、ビデオブログで情報提供を募るのですが、有力な情報は手に入らず、しばらくして湖で死体となったエミリーが発見されます。
親友を失い悲しみに暮れるステファニーでしたが、同様に妻を失ったショーンとの距離が急接近していきます。次第に関係を深めていく2人は同棲することになり、ステファニーはエミリーが住んでいた豪邸に引っ越すことになります。
裕福な暮らしを手に入れ浮かれていたステファニーでしたが、その後、ステファニーの周辺でエミリーの影を感じるような出来事が度々起こっていきます。
映画「シンプル・フェイバー」のネタバレ感想
小説が原作となっている映画ということもあって、物語の練り具合は凄まじいものが感じられる映画となっています。単純にストーリーが面白く、最後までどうなるかわからないハラハラとした感じが魅力的です。
さらに、主演のアナ・ケンドリック、ブレイク・ライヴリーの演技は素晴らしく、サスペンスながらコミカルな要素を盛り込みつつ、緩急織り交ぜながら観客を物語に引き込んでいきます。
一見するとスリラーでもありサスペンスでもある、でも、要所要所にコメディが散りばめられており、ジャンルを跨いだ味わい深い作品となっています。
ここでは、映画「シンプル・フェイバー」の感想をいくつかのテーマに分けて解説していきます。
【解説】息をつかせない展開と衝撃の結末!
この作品はストーリーが進むにつれて謎が深まり、最終的にどこに着地させるのかがまったく予想できないハラハラ感が魅力です。
失踪を遂げたエミリー、そして湖で死体となって発見されてから、ステファニーとショーンが付き合うようになり、ステファニーの周囲にエミリーの存在があらゆる部分で感じさせるような出来事が起きていくのですが、結局のところ何をしようとしているのかが全然わかりません。
こういったサスペンス系の作品を観ているときは大体、物語の展開を予想してしまいますよね。キャラクターたちの行動の目的や物語の結末など、ストーリーから得られる情報を元に頭をフル回転させると思います。
しかし、「シンプル・フェイバー」の場合、そうやって考えれば考えるほど、予想を裏切られる展開となり、その裏切りが気持ちよくもあります。
例えば、エミリーの死体が発見された時に、犯人として夫のショーンやステファニーに疑いがかかり、その中でも、観ている側に「もしかしたらこの人が犯人なのでは?」と思わせるような会話が繰り広げられます。
こういったくだりが観客のミスリードを誘い、ストーリーが進んでいくごとに、それが裏切られています。結局はエミリーは生きているのですが、であれば、あの湖で発見されたエミリーと瓜二つの死体はなんだったのか。
これもミスリードを誘う仕掛けとなっています。エミリーは何故いきていたのか、また、いきていたのであれば、なぜ存在を隠していたのか、何が目的だったのか、作品に集中すればするほど、こういったことを考えさせられる構成になっており、そのほとんどが裏切られてしまいます。
こういった構成の妙による裏切りはシンプルに面白いですし、快感でもありますよね。そして、そうやって裏切られ続けて迎える結末を見ると驚きを感じてしまうでしょう。
この作品は原作小説「ささやかな頼み」の映画化でもありますが、いってみれば小説らしいプロット(物語の筋)とも言えます。とにかく最後まで観客を騙し続け、物語に振り回され続ける体験は見事だと思いました。
【解説】主演のアナ・ケンドリック、ブレイク・ライヴリーの名演
この映画を面白くしているのは、何も優れたプロットがあったからだけではありません。主演のアナ・ケンドリック、ブレイク・ライヴリーの演技はこの作品をただのサスペンスでは終わらせず、さまざまな深みを持たせた作品に持ち上げています。
まず、ステファニー役を演じたアナ・ケンドリック。彼女は2009年の「マイレージ・マイライフ」に出演し、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされた実力を持ちます。さらに、2012年「ピッチ・パーフェクト」の大ヒットをきっかけに一気にスターダムを駆け上がり、今やハリウッドを代表する人気女優の1人です。
演技が抜群に優れているのは言うまでもなく、歌って踊れるなど多才な一面を持ち合わせています。ミュージカル作品やコメディ作品を得意としており、そう言う意味では、「シンプル・フェイバー」は彼女の色とは遠い作品にも見えました。
しかし、アナ・ケンドリック演じるステファニーはこの作品の色を決める上で非常に重要な役割を担っていました。「シンプル・フェイバー」は単純なスリラーサスペンスというわけではなく、ところどころにコメディの要素が散りばめられており、ときに笑いを誘うようなシーンもあります。
そんなシーンでは彼女の演技がものすごく光ります。もちろんその他のシーンでも抜群の演技を披露してくれましたが、この作品のコメディ要素を支えていたのは、間違いなく彼女の演技力の賜物と言っていいでしょう。
表情や言葉運び、間など、しっかりとコメディができる女優さんは稀有だと思います。映画だとコメディとは言いつつも、若干薄ら寒い部分が目立つことが多いですが、「シンプル・フェイバー」では、アナ・ケンドリックの演技力によって、単純なサスペンスに終わらない、さまざまな要素が織り混ざった作品に仕上がっています。
そして、エミリー役のブレイク・ライヴリーです。彼女のキャラクターはクールなキャリアウーマンで、どこか謎めいて冷たい印象を抱かせる人物です。これもステファニーとは対照的なキャラクターとなっており、そのコントラストが非常に魅力的に写っています。
ときに狂気的で、残虐性も感じさせるスリリングな女性というイメージが浮かび上がってきます。「シンプル・フェイバー」では、練りに練ったストーリーが展開されるのですが、おそらく役者の演技力がないと、かなり無理のあるストーリーだと感じさせています危うい部分も持ち合わせています。
しかし、ブレイク・ライヴリーが演じるミステリアスな女性というキャラクターがある意味ストーリーを自然に成立させていると感じました。
対照的なキャラクターを演じた2人の人気と実力を兼ね備えた女優たちの力によって、ストーリーが際立ち、最後まで飽きさせない作品となったといえるでしょう。
【解説】色調豊かなノワール作品
サスペンスとスリラーを織り交ぜながら進んでいく複雑なストーリー、そして女優たちの優れた演技によって、「シンプル・フェイバー」は非常に魅力的な作品となっています。
さらに、この映画を引き立てている要素としては、スタイリッシュで色調豊かな演出にもあります。オープニングではフレンチポップが流れる中で色調豊かな演出が行われていました。
この映画の品評に「優れたノワール作品である」というものがありました。私は「ノワール作品」というジャンルを知らなかったのですが、調べてみてなるほどなと思わせられました。
「ノワール作品(フィルム・ノワール)」というのはフランス語で「暗い映画」を意味するのですが、1940年代にフランスで制作された映画が元に作られた言葉でもあります。
フィルム・ノワールの特徴としては、主に犯罪が題材になっていたり、行き場のない閉塞感が漂っていたりなどが挙げられます。さらには、登場人物の中にも「男を堕落させるファム・ファタール(運命の女・危険な女)」や私立探偵、警官などが登場すると言われています。
「男を堕落させる女」と言う意味では、ステファニーもエミリーもそれに当てはまると言えるでしょう。どちらにせよショーンを虜にしていました。
さらには登場人物が職業倫理、人格などで堕落、破綻しており、一筋縄ではいかないといった特徴があり、裏切りや無慈悲な仕打ち支配欲などが描かれるそうです。
これらの特徴から「シンプル・フェイバー」を紐解いていくと、数多くの要素でこれに当てはまる事柄が挙げられていきます。
例えば、ステファニーは気立てのいいシングルマザーではありますが、過去に腹違いの兄と寝たこともあります。エミリーからは「ブラザーファッカー」と呼ばれるのですが、その義理の兄との関係を夫に疑われるなど、元気なお母さんというだけではない、闇の部分が垣間見えます。
また、エミリーは、夫とその助手とで3Pをした過去をステファニーに打ち明けています。物語で彼女がとる行動の1つ1つはまさにフィルム・ノワールにふさわしいと言えるでしょう。
その中で、対照的な二人の女性が見せる、友情や欲望、嫉妬などが見事に表現されています。最初は仲のいいママ友という印象を垣間見せていたステファニーとエミリーでしたが、次第に二人の立場の違いなどから、どこか奥深い部分で信用ができないといった関係性を見せるようになります。
さらには、ステファニーは死別した夫の保険金で生活をしており、それもそこをつくという状況でした。その中で舞い込んだエミリーの死のニュース、そして、ショーンとの距離が近づいていく中で、エミリーたちが住んでいた豪邸を自分のものにしようと動きます。
サスペンス映画として事件が起き続けるわけですが、おおよそ正義と悪というわかりやすい構図の映画ではなく、おおむね登場人物はだいたい汚い人間でもあります。そういった本質的な部分も含めて、「シンプル・フェイバー」は緻密なストーリーで観客を引き込み、その中で人間性をあぶり出すような作品に仕上がっています。
【考察】2人の女性の駆け引きとマウントの取り合い
この物語は非常に現代的であると言う点でも特徴を持っています。アメリカの郊外に住む2つの家庭を軸にストーリーが展開されていくのですが、同じコミュニティに属しているとはいっても、登場する2人の女性は対照的です。
ただ、ステファニーもエミリーもある意味自立しているという意味では共通しているのですが、互いの性格や立場などは正反対です。その中で、知り合いになっていくのですが、どこかアンバランスな関係性が浮き彫りになっていきます。
エミリーはとにかくステファニーをナチュラルに下に見ているといった感じてでもあり、ステファニーも薄々感じている部分でもありました。働く女性のエミリーに対して、シングルマザーのステファニー、どこか嫉妬のようなものも垣間見えます。
そういった部分はファッションにも現れており、エミリーはバッチリと決めたスーツを着こなしているのに対して、ステファニーは非常に子供っぽい服装で、ソックスも10足10ドルで購入できる特売品です。
エミリーの住む豪邸や、夫との熱々のシーンを見せつけられ、自分にないものを持っている存在にステファニーは戸惑いを見せながらも、ママ友として仲良くやっていこうと努めていました。
一方で、エミリーの家庭は子育てがあまりうまくいっていないという印象で、こういった部分ではステファニーに部があります。
子供が同級生であるということをきっかけに知り合った二人ではありましたが、どこか腹の探り合い、駆け引き、マウントの取り合いといった女性特有の意地の悪さのようなものが散見されます。
その中で引き起こるエミリー失踪事件、物語が進む中でも、どこかステファニーはエミリーの手のひらの上で踊らされているような感じが見られます。
しかし、ステファニーはかなりしたたかな女性でもありました。インターネットを駆使しながら情報を集め、次第に真実へと近づいていきます。
そして、最後には、エミリーとの立場を逆転します。象徴的なのは、その結末のシーンで、2人のファッションがまるっきり入れ替わっていたという場面で、女同士のマウントの取り合いに決着がついたような感じでもありました。
「シンプル・フェイバー」はこのように女性の内面や人間関係を複雑に描いた作品でもあります。現代において変化している女性像ではありますが、そういった要素を持ち合わせながらも、根っこの部分では変化していないような感じも見受けられます。
「シンプル・フェイバー」は緻密な映画
「シンプル・フェイバー」は物語の緻密さや最後まで展開を考えさせるようなハラハラ感を持っていながらも、女同士の静かなバトルを楽しむ映画でもあります。現代的でスタイリッシュ、そして登場人物が魅力的とバランスのとれた娯楽作品でもあります。
究極的には女同士の殴り合いを他人事として楽しむ作品と言えるかもしれません。
アナ・ケンドリックやブレイク・ライヴリーといった人気女優も出演しているので、それを目当てに見るのでも十分楽しめる作品です!