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映画『ロブスター』ネタバレ感想・解説・考察!結末に注目!ヒトの本質を炙りだす芸術作品

ギリシャ発の不条理映画

『ロブスター』はヨルゴス・ランティモス監督による不条理映画です。淡泊なのに考察しがいのある、非常に芸術的な映画でした。

今回はそんな『ロブスター』の個人的な感想やネタバレ解説、考察を書いていきます!

映画「ロブスター」を観て学んだ事・感じた事

・愛と孤独の原理を考えさせられる
・やっていることはメチャクチャだが、なぜか惹かれる
・一定以上芸術を好む人向け

映画「ロブスター」の作品情報

公開日2015年10月16日(イギリス等)
2016年3月5日(日本)
監督ヨルゴス・ランティモス
脚本ヨルゴス・ランティモス
エフティミス・フィリップ
出演者デヴィッド(コリン・ファレル)
近視の女(レイチェル・ワイズ)
独身者たちのリーダー(レア・セドゥ)
薄情な女(アンゲリキ・パプリア)

映画「ロブスター」のあらすじ・内容

映画「ロブスター」のあらすじ・内容

人間を動物に変身させる技術が実用化された近未来、大人になっても独身でいることが取り締まられるようになっていました。

独身の大人はとあるホテルに連行され、そこで一定期間内にカップルにならなければ動物に変えられて人間社会から追放されてしまいます。

主人公デヴィッドは結婚していたものの妻から捨てられ、このホテルにやって来ました。当初はかなり無気力で、動物として第二の人生を歩むことも厭わずにいましたが、機嫌が迫って周囲が焦りだすと、デヴィッドの心境も変わっていきました。

なんらかの共通点がなければ恋愛が成立しないことに気づいた彼は、独身から脱却するために自分を偽りはじめて……。

映画「ロブスター」のネタバレ感想

ギリシャ発の不条理映画

ギリシャ発の不条理映画(C)2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film,

本作で監督を務めたヨルゴス・ランティモスは、アテネ生まれのギリシャ人です。ギリシャと映画……と言っても、イメージできる人は数少ないでしょう。公用語が英語ではなくギリシャ語なので、日本の映画館でギリシャ作品を観ることはまずないと思います。英米と比べるまでもなく、有名な作品もほとんど無いと言って差し支えないと思います。

その中でもランティモスはずば抜けた才能を見せています。『籠の中の乙女』や『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』はカンヌ国際映画祭での評価を受けているほか、『女王陛下のお気に入り』は昨年のアカデミー賞でも数多くのノミネートを受けました。その数は9部門と『ROMA/ローマ』に並んで最多だったこともあり、今後の活躍に期待ができます。

 

『ロブスター』はそんな彼が初めて手掛けた英語作品です。ジャンル不詳の、彼にしか作れない独特な作品世界を提示したことで、こちらもカンヌ国際映画祭で審査員賞を受けるといった批評家からの高い評価を得ています。話が難しいわけではないけれど、あまりに現実離れしていて色々と考えさせられてしまう……という不思議なバランスを打ち出しています。大衆向けとは決して言えませんが、芸術を求めるならチェックしておいて損はない一本と言えるでしょう。

なお、本作を不条理映画と評しましたが、この表現が最適なのかはなんとも言えないところです。人間を動物に換えるという技術はSFチックでもありますし、物語のテーマは人間の愛でもあります。かといってロマンチックかというとそうではなく、悲恋でもありません。無機質なのに生々しく、人間の本質を浮き上がらせていくという本当に不思議な映画です。

ロバの射殺シーンなど、冒頭から不可解なシーンの連続

開幕してすぐに映されるのは、女が雨の中車を運転して寂れた牧場まで行くと、その中にいた一頭のロバを拳銃で射殺するシーンです。セリフもなく、その後すぐに主人公が誰かと話すシーンに変わり本編が始まります。改めて文字にすると意味不明ですね!

この女性はこのシーンにしか登場していません(少なくとも、セリフのある役としては)。スタッフロールを見ると、「ロバを撃った女: ジャクリーン・エイブラハム(演)」と書かれており、エイブラハムは主要人物に入っていないことから明らかです。結果的に、射殺した理由は最後まで明かされることはなく、視聴者がそれぞれ推察するしかありません。冒頭からこの有様ですから、まさに「そういう映画」なのだということがおわかりになるかと思います。

 

なお、射殺した理由を考えるには、作中の設定を踏まえる必要があります。この作品の中では一定期間独身だった人間は動物にさせられるため、老いても人間でいられる人はさほど多くないと見受けられます。中年以後も人間でいられるのはパートナーと結ばれた者か、身を隠して生きる者だけです。それ以外の人間はホテルに入れられ、出ることはできません。

これらの設定を踏まえると、ロバはかつて人間で、射殺した女はその男となんらかの関係があったのだと予測できますね。ただ女が人間のままということは、他の男と結ばれたか、身を隠して暮らしているかのどちらかです。本当はロバになった男と結ばれたかったのか?殺してたいほど憎くなることをされたのか?それもわかりません。女の表情や身振りから感じ取るしかありません。

主人公が出てからも、常軌を逸した出来事が頻発します。いきなり彼が妻に捨てられるシーンから始まり、妙なホテルに行ったと思ったら他の男たちとまったく同じ服装に着替え、社交ダンスなどしだしたと思ったら急に森に住む人間たちの狩りを始める……と、ついていけなくなるほどの急展開が続きます。とはいえ、常にどこか無機質さと孤独さ、暗さのある映像が続くため、ブツ切り感はありません。この辺がランティモスの手腕ゆえの表れですね。

物語のテーマはあくまでも愛

物語のテーマはあくまでも愛(C)2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film,

ここまで紹介したようなハチャメチャさからすると、普通には理解できないようなナンセンス作品と思われてしまうかもしれません。しかし、人々の言動が象徴的で極端なだけで、本作のテーマは誰にでも共通な「人間の本質」だったりします。それを踏まえると、どこか共感してしまうような部分が出てくるはずです。

たとえばデヴィッドははじめ妻に対し未練タラタラで、動物(彼の希望はロブスターでした)になってもまったく構わないかのようなそぶりを見せていました。しかし「動物になんてなりたくない!」と言わんばかりの周囲に感化されるうち、彼も恋人探しを始めるようになりました。流される格好で恋愛を始める、というのは現実にもよくある話です。

また後半に彼は恋愛を禁止されてしまうのですが、そうなってから激しい愛に目覚めてしまうのも、なんとも人間らしいです。やるなと言われるとやりたくなる!という気持ちは、みなさんおわかりかと思います。

『ロブスター』は、そういった人間としてありがちな感情を端的に表現した映画です。表面的な過激さに惑わされなければ、その表現力に舌を巻くでしょう。以下からネタバレを含みます。

【ネタバレ】愛に翻弄される人たちの姿がある

【ネタバレ】愛に翻弄される人たちの姿がある(C)2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film,

ホテルで十日ほどを過ごすうち、デヴィッドの周囲は少しずつ変わっていきました。滑舌の悪い男は禁止されている自慰を続けていたために罰せられたり、ビスケットの女は動物になる日が近くなって自殺を匂わせたり。その中で、足の悪い男が自分を偽ってでもパートナーと結ばれようと決めます。そして、自ら頭をぶつけて鼻血を出し、鼻血を出す女との共通点を作り出してカップルとなります。

これに影響されたのかどうか、デヴィッドもパートナーを作ることに躍起になりはじめます。そして心が冷徹なフリをして、薄情な女とカップルになります。数日は隠し通すことができたのですが、薄情な女がデヴィッドの兄だった犬をなぶり殺しにしたことを知った際に涙を抑えることができず、ウソがバレます。女は「ウソの上に恋愛関係は成り立たない」としてデヴィッドを支配人のところへ連行しようとしますが、メイドの助力もあって薄情な女を始末することと、ホテルから逃走することに成功します。

彼が逃げた先は、何度か狩りに出向いた森でした。そこには身を隠しながら暮らしている独身者が何人もおり、「人を愛さない」ことを軸にした厳しいルールを敷きながらまとまっていました。しかしデヴィッドは、独身者の中にいた近視の女と恋に落ちてしまいます。他の独身者にバレないよう細心の注意を払いながら、ひっそりと愛し合う日々が始まっていきます。

 

そんなある日、独身者たちがホテルの住人に対し、ある攻撃をしかけます。それは直接的に傷を負わせるものではなく、人の愛の偽りを暴くというものでした。デヴィッドは脚の悪い男と鼻血を出す女の元へ行き、女と違って男は自然に鼻血が出ないことを指摘します。独身者たちは、カップルも引き裂いて一人にしてやろうとしていたようです。

攻撃が成功して数日間は何事もなく過ごしていましたが、ある日独身者のリーダーがデヴィッドと近視の女が愛しあっていることに気づいてしまいます。そして近視の女を騙し、視力を奪うことで、デヴィッドとの共通点をなくしてしまいました。すれ違いを起こしながらも、二人で生きるためにデヴィッドはリーダーを始末し、一緒に森から脱走していくのでした。

【考察】このラストの結末はいったい……何?

【考察】このラストの結末はいったい……何?(C)2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film,

無事に脱走を遂げた(元)近視のカップルは、ファミレスらしき飲食店で一息つきます。そこでいくつかやりとりをした後、男はナイフを持ってトイレに行き、鏡の前でナイフを取り出します。その間、女はじっと待っている……というところで映画は終了します。

よくある恋愛映画なら、「愛し合う二人が逃避行に成功したからハッピーエンド」と言えそうなものです。だからといって、本作でも同じことが言えるとはなかなか考えにくいところでもあります。ここまでさんざん上手くいかない男女や、仲を引き裂く出来事を描いてきた作品ですからね。なにより、二人が最後に笑って終わるようなこともありませんので……。

 

前提として、二人の人間が惹かれあうには何が必要なのでしょうか。本作の中では「何か共通点を持っていること」とされていますし、現実的にも同様と言って差し支えないと思います。趣味だろうと仕事だろうとなんでも構わないのですが、なんらかの共通点がなければ、話題にも困るものです。それはカップルでももちろん、家族や友人との付き合いにおいても同様だと言っていいでしょう。共通点をベースにしてコミュニケーションを広げていく、というのはよくあることですよね。

世の中、共通点なしに良好な人間関係を気付けることもゼロではありません。が、やはり珍しいと言わざるを得ないでしょう。『ロミオとジュリエット』のような一目惚れによる交際はその極致ではないでしょうか。数百年の時を経てもなお、人々はああしたロマンチックな一目惚れに憧れますが、憧れるのは「自分には起こりそうもないことだから」です。日常的に起きていることなら、わざわざ戯曲や演劇に求めるはずはありません。

現実的には、性欲や見栄から交際が始まることもあります。ただ、そこから愛が始まることはあっても、性欲や見栄そのものは愛ではありません。そして愛を深めるために、共通点はできれば欲しいものです。必要だと言っても問題ないかもしれません。

 

話を戻しましょう。デヴィッドと近視の女は、近視であることを共通点として愛しあいました。しかしリーダーの策略によって女は盲目となり、二人は共通点を失いました。それで愛が冷めるということはなかったようですが、別の共通点を探そうとする節は何度も何度もありました。しかし一つも見つからず、デヴィッドは自ら盲目となることで共通点を作ろうとしたと判断できます。

これも、構図そのものは現実的です。パートナーとの共通点を増やそう・作ろうとすることに、何も不思議はありませんよね。恋人と同じゲームやスポーツを始めるといった程度なら、まったく珍しくないと思います。ただデヴィッドの場合、「自らの意思で自分自身の目を潰す」というあまりに痛々しい選択を迫られました。躊躇するのは当然です。

ここまで踏まえてラストシーンを捉え直すと、多種多様な解釈ができることに気づきます。一つは「目を潰すことに耐えきれず、デヴィッドが逃げた」説。デヴィッドが逃げたことに女が気づかず、待ちぼうけを食らっているのかもしれません。

女一人では歩けないことを考慮すると、「逃げられたことに気づいているけど、追うこともできないため途方に暮れている」可能性もゼロではないですね。あるいは、デヴィッドに目を潰させるのが忍びなくなったため、彼を想って騒がずにいるかもわかりません。

 

個人的には、「カメラがデヴィッドの視点である」と考えています。『ロブスター』は全編を通して第三者の視点で撮影してはいましたが、あるシーンだけは別でした。序盤、デヴィッドが妻に捨てられるシーンにおいては、カメラの視点が妻の視点と同一と考えられることが、最大の理由です。最初と最後で手法を統一する方が、形としてキレイですしね。

それに、デヴィッドの動機も十分です。もし本当に目を潰す気でいるなら、もう二度と女の姿を見ることはできなくなるわけですから、覚悟が決まるまで横から女を見ていたくなる気持ちもわかります。実際、女から視点が逸れることはまったくありません。

ただ、その後トイレに戻って潰すのか、逃げるのか、はたまた女を騙して潰さずにしれーっと一緒に過ごすのか……そこまではわかりません。デヴィッドが共通点にこだわる男なら潰すでしょう。程度の差こそあれ、足の悪い男も自傷行為に走っていましたしね(もっとも、そうしてできた関係をデヴィッドが破壊しましたが)。我が身可愛さに逃げてもおかしくないですし、騙しても納得できます。元妻と同じようにパートナーを捨てれば最初と最後で構造の相似ができるとはいえ、絶対と言い切れるほどの材料はありません。

騙して一緒に過ごす可能性も逃げるのと同じくらいあると思います。彼はすでに一度、自分が動物になるのを避けるために薄情な女を騙していますからね。再犯(?)したって不思議はありません。むしろその方が、伏線を拾っている拾っていることにもなるとさえ考えられます。いずれにせよ、真実を一つに導くほどの証拠はないと言えます。

 

余談ですが、「恋は盲目」という慣用句がありますよね。これはシェイクスピアが言い出したこと(Love is blind.)なので、当然英語圏でもよく知られた言い回しです。結ばれた二人が盲目的に愛しあってしまい、関係が危うくなる様はまさに「恋は盲目」といったところです。

ラストシーンはこれをひっくり返し、「人は恋のために盲目になれるか?」と問うているような気もします。なんだかダジャレのようですけどね。

【評価】「ロブスター」は人間の真実を浮き彫りにするような芸術品

映画『ロブスター』に大衆向けの娯楽要素は一切ありません。わかりやすく楽しむものではなく、表現に感じ入るべき映画です。

エキセントリックでナンセンスなシーンが続くため人を選ぶのは確かですが、どんな人にも共通するような人間性を炙りだしてもいます。アートしての映画を求めている人にぜひオススメしたい一本です。

(Written by 石田ライガ)

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※2019年8月現在の情報です。

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