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映画『ジャンゴ 繋がれざる者』ネタバレ感想・解説・考察!ありえないから面白い黒人の英雄譚

日本人にはピンとこないかも?

映画『ジャンゴ 繋がれざる者』はクエンティン・タランティーノ監督による西部劇?作品です。ありえないからこそ面白い、差別をぶっとばす黒人の英雄譚です。

今回はそんな『ジャンゴ 繋がれざる者』の個人的な感想やネタバレ解説を書いていきます!

目次

映画「ジャンゴ 繋がれざる者」を観て学んだ事・感じた事

・暗い歴史を豪快に無視するところがかなり新鮮
・相変わらずのタランティーノ味が人を選ぶ
・もっとこの手の黒人ヒーローが増えてほしいところ

映画「ジャンゴ 繋がれざる者」の作品情報

公開日2012年12月25日(米国)
2013年3月1日(日本)
監督クエンティン・タランティーノ
脚本クエンティン・タランティーノ
出演者ジェイミー・フォックス(ジャンゴ・フリーマン)
クリストフ・ヴァルツ(ドクター・キング・シュルツ)
レオナルド・ディカプリオ(カルビン・J・キャンディ)
ケリー・ワシントン(ブルームヒルダ・ヴォン・シャフト)
サミュエル・L・ジャクソン(スティーヴン)

映画「ジャンゴ 繋がれざる者」のあらすじ・内容

映画「ジャンゴ 繋がれざる者」のあらすじ・内容

南北戦争直前のアメリカ。黒人奴隷ジャンゴは、ある賞金首の情報と引き換えに、ドイツ人賞金稼ぎの元歯科医ドクター・シュルツによって自由を得ます。

目標を殺害した後、「妻にも自由を与えたい」というジャンゴを気に入ったシュルツは、必要資金が貯まるまで行動を共にすることにします。

その中でジャンゴは早打ちの才能を開花させ、卓越したヒットマンに成長していきます。春になって妻が悪徳領主キャンディの所有物になっていることを知った二人は、危険を覚悟のうえでキャンディの元へ赴き……。

映画「ジャンゴ 繋がれざる者」のネタバレ感想

名監督クエンティン・タランティーノの代表作

名監督クエンティン・タランティーノの代表作

本作は、数々の人気作を生み出してきたクエンティン・タランティーノによる、はちゃめちゃな西部劇です。日本国内ではパルムドールに輝いた『パルプ・フィクション』や、布袋寅泰によるメインテーマが印象的な『キル・ビル』二部作の方が有名かもしれませんが、合衆国内では高い人気を獲得しています。同監督作品の中で最高の興行収入を叩きだしたのは、実は本作だったりします。

複数の映画からのオマージュを取り入れたり、品のない会話をやたら盛り込んだりといったタランティーノらしさも盛り込みつつ、人種問題をぶっ飛ばすような「黒人のヒーロー」によるありえない活劇としての面白さを追求した、非常に特徴的な一本です。

映画好きにとっても、合衆国の人種差別を捉える上でも、押さえておきたい一本と言えるでしょう。

血の出し方もタランティーノ

血の出し方もタランティーノ

「タランティーノらしさ」とはなんでしょうか?一言で表しにくいところではありますが、個人的には「スピルバーグらしさ」とか「スコセッシらしさ」なんてものよりかは特徴が強いのではないかと思います。他の人がやらない、もしくはマネしにくいような手法が、タランティーノの映画には多く含まれています。ある種育ちが悪いとでも言えてしまうところが少なくありません。

上でも触れたように、他の映画の構図・曲をそのまま流用したり、決して重要とは言えない会話を必ず挟むといったものも「らしさ」に含まれます。尺が二時間ほどしかない映画の中では、会話の無駄を省くことが一般的です。言葉ありきである小説や、背景や特殊効果のない舞台演劇ならともかく、映画なら映像で勝負しようとする方が自然です。

しかしタランティーノは、どうにも間の抜けた話を、かなり高い割合で入れてくるのです。これが退屈と感じるかどうかも意見の分かれるところでしょう。言い換えれば「無駄」と断ぜられる可能性が低くないだけに、他の監督がやりたがらないのだと思います。

細かいところだと、自らチョイ役で出演しがちという点もあります。『レザボア・ドッグス』から『ヘイトフル・エイト』まで、ほぼ全ての作品で誰がやってもよさそうな脇役を演じています。本作でもそれは変わりません。クリント・イーストウッドだと監督と主演を兼任さえしますが、そうした重要な配役というわけでまったくありません。「とりあえず出てみました(笑)」みたいな感じが非常に「らしい」です。

 

またアクションシーンにおいては、明らかにオーバーな流血描写をするのも特徴です。暴力シーンを絶対に入れようとすること自体も特徴と言えますが、そのときの血糊の量がハンパないんですね。切断面や銃創から、そんなに出ないでしょってレベルでドバドバ出してきます。初めてタランティーノ映画を観た人は、驚かれることでしょう。このあたりがどうにも育ちが悪いような印象を持たされます。

本作でも、それらの特徴がハッキリ表れています。これでも『キル・ビル Vol.1』に比べれば血の量が少ないくらいだと言うと、かえって驚かれるかもしれません。「こんなに血ばっかり見たくない! 無理!」と思うのも無理はないでしょう。一方で、そこに魅了されてしまう人もいるのが面白いところです。

日本人にはピンとこないかも?

日本人にはピンとこないかも?

非常に高い海外人気を誇る本作ですが、単純なアクション映画としては、「タランティーノらしさ」を抜きにしてもなお、やや気楽に観づらいところがあるかもしれません。なぜなら、本作は「ありえねー!でもすげー!」が両立していることが面白いのであり、「ありえねー!」と思うには実際はどうだったのかを(「ありえる」状態を)知っている必要があるからです。

非常に個人的な話なのですが、筆者は本作を大学生の時に鑑賞したことがありました。そのときは、題材となっている人種差別や奴隷制についてほとんど無知だったため、いまいち楽しめなかったのを覚えています。主人公が犯罪者をバタバタと倒していくところは見どころがあったものの、尺を稼ぐような会話シーンが退屈だな……くらいに思ったものでした。

しかし合衆国の歴史を学び、より多くの映画を観るようになってから改めて手を出すと、暗い歴史を吹き飛ばすようなパワーに圧倒されました。元奴隷の黒人があんな風にバッタバッタと白人を倒していく……ということに「ありえねー!」と言えてようやく、本作の面白さがわかるのだと思います。

 

そうは言っても、日本にいると、自主的に意識しない限り差別や奴隷について学ぶ機会なんてそうそう無いと思います。その分、本作の魅力の土台になっている「ありえねー!」の感覚が伝わりにくい部分はどうしてもあるでしょう。ですので、あらゆる人に手放しで勧めることは少し難しいかもしれません。

とはいえ、決して肩ひじ張って真面目に勉強しなければ楽しめない作品だとは思いません。昨今の洋画は黒人差別を取り上げたものが多いですから、それらをある程度観ていれば十分でしょう。時代もかぶっている『それでも夜は明ける』だけでも事前に押さえておけば、最低限の教養が身につくと思います。非常に苦々しい作品である分、続けて観ればカタルシスが倍増するかもしれません。

悪すぎるディカプリオは必見

悪すぎるディカプリオは必見

本作の主人公はその名の通り、黒人のジャンゴです。敵となるのは多数の白人賞金首であり、それゆえに人種差別を根底からひっくり返すような痛快さが出ています。奴隷というアメリカ社会の最底辺そのものである身分にいたジャンゴが、悪の白人に裁きを下していくところは、半分復讐劇的でもあります。

そして、ジャンゴにとってとってのラスボス的存在が、レオナルド・ディカプリオ演じるカルビン・J・キャンディです。キャンディは性根の腐った差別主義者ですが、当時の法に準じた犯罪は犯しておらず、賞金首と同じように殺して終わりということにはなりません。しかしジャンゴの妻・ブルームヒルダの所有者であるがゆえに、どうしても面と向かって交渉をする必要がありました。

この交渉の場で見せるディカプリオの顔が、もうどうしようもないくらい下衆です。『タイタニック』あたりの精悍な顔、『レヴェナント/蘇りし者』で見せた生きることに必死になる(本作とはある種真逆の)顔を知っていればいるほど、彼のワルっぷりが高く評価できるでしょう。

その悪さは、『それでも夜は明ける』や『デトロイト』に出てくるような、差別を悪と思っていないリアルな悪人のそれではなく、まるでマーベル映画のスーパー・ヴィランのような悪辣なそれです。素でヴィランになれるのですから、役者魂極まれりといったところですね。是非一度見てもらいたいところです。

以下からネタバレを含みます!

【ネタバレ】ドクターの握手が、すべてを分けた

【ネタバレ】ドクターの握手が、すべてを分けた

シュルツは奴隷制を忌み嫌う清廉な男でした。言葉のみならず、ジャンゴを対等に扱っていたこと、冒頭でジャンゴと共にいた黒人にも逃げる手助けをしていたことからも明白です。賞金稼ぎのスキルを使って表面上は取り繕っていましたが、本当はキャンディのような男とは相いれない存在でした。

キャンディの方は上でも触れたように、完全に振り切れた差別主義者です。黒人を働かせたり罰したりすることに躊躇しないのはもちろん、黒人同士による殺し合い(マンディンゴ)の観戦を心から楽しむような外道です。シュルツにとってはまさに触りたくもないような鬼畜ということになります。

キャンディとシュルツははじめ、「キャンディが所有するマンディンゴの選手を1万2000ドルで買う素振りを見せ、ついでとしてジャンゴの妻ブルームヒルダを買い、選手はあとで難癖をつけて返品する」というプランを立てていました。しかしこの目論見は、キャンディの従僕スティーブンによって露見してしまいます。結果キャンディは「ブルームヒルダ一人に1万2000ドルを出さないなら、彼女を殺す」と脅迫し、この取引を成立させてしまいます。

その上でキャンディは、シュルツに対して「南部では、取引が終わった際に握手する必要がある」と言って煽ります。これに対して本気で腹を立てたシュルツはキャンディを射殺します。心から、触りたくもないと思っていたのでしょう。直後シュルツはキャンディの側近に射殺されますが、それも覚悟の上だったのでしょう。

側近たちはジャンゴにも銃を向けますが、ジャンゴは早打ちの才を活かして抵抗を続けます。しかしブルームヒルダを人質に取られたことから降伏し、捕まります。鉱山に売り飛ばされて奴隷に逆戻りかと思いきや、鉱山の職員を口八丁で騙してキャンディのところへ戻り、差別主義者を次々に殺してブルームヒルダも救出します。最後にキャンディの屋敷も爆破して、映画は幕を閉じます。

シュルツとジャンゴがキャンディの元へ行き、最後にキャンディが握手を求めるまでの過程は非常にタランティーノらしい造りになっています。明らかに余計な会話も含まれていますからね。そこでだれさせた後、一気にジャンゴを暴れさせることで興奮度を上げるあたりもそうです。ここを気に入るかどうかが、本作の評価の分かれ目になるのではないでしょうか。

【考察】19世紀の黒人がジークフリートになるはずは

【考察】19世紀の黒人がジークフリートになるはずは

あえて危機に立ち向かって悪を滅ぼした結果からすると、ジャンゴはシュルツが触れたように、英雄・ジークフリートになったのだということがわかります。ジャンゴが個人的に恨みがあったのは序盤で成敗された三兄弟だけですから、本当は復讐劇でもありません。賞金首を殺すのはただの仕事にすぎませんし、キャンディと交渉するのも、本当は損にしかなりません。それでも立ち向かっていったのは、ブルームヒルダへの愛あってこそです。

そもそも、普通の人間がジャンゴと同じ境遇に立ったとしたら、彼と同じ行動は起こそうともしないはずです。せっかく自由になれたのですから、生きているかどうかもわからない妻のことは諦めて、新たな人生を歩もうとするものでしょう。深く妻を愛していたとしても、大金を差し出し、危険を冒してまで取り返そうとはなかなか思えないはずです。それでもあえて挑戦しにいく姿勢は、まさに英雄そのものです。

 

補足すると、ここで言うジークフリートはリヒャルト・ワーグナーの演劇『ニーベルングの指環』をモチーフにしています。ゲルマン・北欧の伝説におけるそれとベースは同じですが、別と考えていいでしょう。ブルームヒルダは『ニーベルングの指輪』の中でジークフリートと結ばれるブリュンヒルデの綴りをもじったものになっています(Brunhild と Broomhilda)。

とはいえ黒人の英雄というのは、現実はもちろん、映画の中でさえも、現れにくいものでした。2019年の今でこそ、黒人のヒーローといえば『ブラックパンサー』や『スターウォーズ エピソード7・8』のフィンなどが挙げられるようにもなってきています。ただ彼らは歴史上隠匿されてきたスーパーテクノロジーを保持していたり、遥か遠い宇宙の存在だったりします。現実の世界ではなかなかヒーローになれないことの裏返しとも言えるでしょう。絶対数としても、まだまだ少ないのが事実です。

ましてそれが過去、それも南北戦争の前ともなれば、絶対にありえない話となります。南北戦争中に世論を味方につける切り札として、リンカーンが奴隷解放令を出したことで初めて黒人奴隷が法的に禁止されたのであり、それまでは黒人の権利などあってないようなものでした。同じアメリカでも北部ならその限りではないのですが、それでも英雄が生まれるほどの力を持つことは不可能でした。

 

また、奴隷制がなくなっても黒人への抑圧は続いたがために、ブルースが生まれたり、キング牧師が活動して暗殺されたり、昨今の映画で差別が取り上げられたりしたとも言えます。そんな現実の中で、ジャンゴのような輝かしいヒーローが登場できるはずはありません。

しかし、ありえないからこそあのような英雄がいたら燃えるとも言えます。ジャンゴはある意味、アメコミヒーローや巨大ロボットよりも実現可能性が低い存在ですが、それでもあんな男がいたらいいな、とも思ってしまいます。

【評価】クセが強い分、人によっては病みつきに

【評価】クセが強い分、人によっては病みつきに

『ジャンゴ 繋がれざる者』は、日本人には馴染みのない時代設定と、個性的な監督の脚本・演出が合わさったことから、とてつもなくクセがある映画になっています。

パクチーやドクターペッパーといったクセの強い物に熱心なファンと毛嫌いする人が存在しているように、本作に関しても猛烈に気に入る人とまったく好きになれない人に分かれるでしょう。

とはいえ、脚本の骨子が英雄譚に近いものになっているだけに、他のタランティーノ作品に比べると痛快に楽しみやすいとも思います。過度の流血描写が嫌いでなければ、経験として一度観ておいて損はないでしょう。もしかしたら、病みつきになるかもしれません。

(Written by 石田ライガ)

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