映画「コレット」は、当時のフランスで社会現象にまで発展した小説を残した女流作家ガブリエル・コレットの人生の足跡を辿っていく映画です。コレットの役には実力派女優キーラ・ナイトレイが務めており、力強く洗練された美しさが魅力的です。
現代にも通ずるような自分らしく生きるということに対する重要な示唆をもたらしてくれる作品でもあり、コレットという人物が今もなお影響を与え続けていることの意味を教えてくれます。
コレットという人物を知っている人も知らない人にもおすすめの映画です。今回は映画「コレット」のネタバレ感想・解説・考察を書いていきます。
目次
映画「コレット」を観て学んだ事・感じた事
・この時代にここまで自由かつ自分らしく生きた人物としての凄み
・女性として同性愛者として自分のアイデンティティを貫く姿勢に共感を覚える
・偉大なる才能、そして数々の名作を生んだ波乱万丈な人生は映画としても面白い
映画「コレット」の作品情報
公開日 | 2019年5月17日 |
監督 | ウォッシュ・ウェストモアランド |
脚本 | リチャード・グラツァー |
出演者 | ガブリエル・コレット(キーラ・ナイトレイ) アンリ・ゴーディエ=ヴィラール(ドミニク・ウェスト) ジョージ・ラオール=デュヴァル(エレノア・トムリンソン) ポレール(アイーシャ・ハート) |
映画「コレット」のあらすじ・内容
フランスの田舎町で生まれ育ったコレットは、自然豊かな地で穏やかに暮らしていました。そんな中、年上の人気作家ウィリーと恋に落ち、結婚を経てパリに移り住みます。
芸術家たちのサロンに通いようになったコレットは、最初は鼻につく芸術家たちの態度に馴染めませでしたが徐々に慣れていきます。しかし、ウィリーの浪費グセで家計は火の車、さらにウィリーはゴーストライターを雇って自分の作品を書かせている人物でもありました。
そんな中、ウィリーはコレットに小説を執筆させます。「クロディーヌ」シリーズは社会現象になるほどの話題を呼び、商才豊かなウェリーは本の出版だけではなく、舞台化やブランドを立ち上げるなどの展開をしてお金を稼いていきますが、コレットには次第に自分の名前で作品を世に送り出したいという思いが募っていきます。
映画「コレット」のネタバレ感想
映画「コレット」は、1900年代前半から半ばまで活躍したフランスの女流作家ガブリエル・コレットの波乱万丈な人生を描いた映画です。彼女の生涯は1900年代前半とは思えないほど革新的かつ奔放なものでもあり、現代における私たちに対しても重要な示唆を与えてくれます。
数々の名作を世に残した女流作家としてだけではなく、パントマイムやバレエなどの舞台でも活躍したコレット。時代のアイコンとして、女性の憧れとしてフランス全土を彩っていきました。
さらには3度の結婚、バイセクシャルであったことも知られており、この時代とは思えないほど自由に力強くいきた人物でもあります。
そんな個性的な人物を実力派女優のキーラ・ナイトレイが演じます。コレットの持つ美貌と意志の強い表情を見事に演じきっています。
ココ・シャネルに愛され、オードリー・ヘップバーンを見出したことでも有名なコレットは一体どのような人生を歩み、どのような影響を社会に与え続けたのでしょうか。ここでは、映画「コレット」の感想を1つ1つの項目にわけて書いていきます。
【解説】ガブリエル・コレットという人物について
まずは、ガブリエル・コレットという人物について、劇中で触れられない部分も含めて紹介していきます。どのような人生を歩み、何をもって時代を築き上げたのか、そこに焦点を当てていきましょう。
ガブリエル・コレットは、1873年ブルゴーニュ地方ヨンヌ県サン=ソーヴル=アン=ピュイゼイーに生まれ育ちます。いわゆる都会からは離れた田舎町でもあり、自然に囲まれながら、両親と共に生活を送っていました。
1893年、15歳上の人気作家ウィリーと結婚します。結婚後はパリに移り住み、日夜芸術家たちが集まるサロンに通います。劇中では、最初のうちは芸術家たちの高慢な態度に悪印象を持っていたコレットでしたが次第に馴染んでいきます。
ウィリーは浮気グセと浪費グセのある人物で、作家とはいいつつ、ゴーストライターを雇って自分の作品を人に書かせていた人物でもありました。2人の関係はときに悪化することもあり、家計の経済事情も悪くなっていきました。
そんな中、ウィリーはコレットに小説を書くことを提案します。その結果誕生したのが、コレットの田舎で育った半生を自伝的に描いた「クロディーヌ」です。
しかし、この「クロディーヌ」はコレットの名義ではなく、ウィリーが著者として出版されます。劇中ではコレットが執筆した小説に対して、ウィリーがアドバイスを送りながら修正するようなシーンも見られ、ウィリーはプロデューサー的な立場だったことが伺えます。
ただ、この段階ではあくまでコレットはウィリーのゴーストライターでしかありませんでした。そして「クロディーヌ」はフランスで大ブームを引き起こします。当時の若い女性に声を与えたという評価を受け、小説に登場する「クロディーヌ」という人物は当時の女性のアイコン的な存在にもなりました。
「クロディーヌ」の大ヒットを受けて、小説を舞台化するなどのビジネス的な展開も大成功、クロディーヌというブランド名で数々のヒット商品が誕生するなど、フランス中に社会現象を巻き起こします。
また、「クロディーヌ」の人気を受けて、その後を描いたシリーズ作品も出版されていきますが、この頃にはコレット自身も自分の名前で小説を書きたいという願望を胸に秘めていました。
夫婦として愛し合っていた面もありましたし、ウィリーはプロデューサー的な立場でもあったため、コレットは「クロディーヌ」シリーズの著者を夫婦の合作として出版したいという思いを伝えます。
しかし、ウィリーに猛反対されてしまいます。その頃、コレットは同性愛にも目覚めており、ミッシーとの愛人関係もスタートさせています。小説を書くモチベーションを失ってしまったコレットは、パントマイムやバレエなどに興味を持つようになり、次第に自らが舞台に立つようになります。
新作が執筆されないため、家計事情が行き詰まっていた中、ウィリーは独断で「クロディーヌ」シリーズの版権を売却してしまいます。そのことに激怒したコレットは、ウィリーのもとを去り、離婚を決意します。その後、訴訟によって版権を取り戻したコレットは、女流作家として一時代を築き上げていきます。
ここまでが映画の中で描かれていたコレットの半生になります。その後は、再婚と離婚を繰り返しながら、数々の名作を世に送り出していきます。その間に第一次世界大戦や第二次世界大戦を経験し、1954年にこの世を去ります。
自身が同性愛だったこともあり、ローマ・カトリックによる葬儀は拒否していたのですが、国葬が行われるなど、フランス中から多大なる評価を得ていたことがわかります。
フランスで最も著名な女流作家として名を残したコレット。その足跡は現代においても私たちに大変重要なことを伝えてくれます。
【解説】女流作家としてのコレット
コレットの人生がこの時代に映画化されたことには、いくつかの意味があります。その1つが女流作家としてのコレットです。現代では、女性も当たり前のように世に出てくる時代ではありますが、当時の時代背景を考えると彼女の残した功績や苦難は非常に大きなものであったことが伺えます。
この辺は映画「天才作家の妻 40年目の真実」でも同様のモチーフが描かれていますが、当時の時代を考えると女流作家が世に出てくることは考えづらい部分もあります。
作家といえば男性が当たり前で、劇中でも芸術家たちが集まるサロンに参加していた芸術家は男性がほとんどで、女性は芸術家の妻といった立ち位置でした。
コレットの作品も当初はウィリーの名を使って出版されていたことからも、それが伺えます。ゴーストライターという形ではありますが、こうでもしないとコレットの作品が世に出版されることはなかったかもしれません。
そのような時代背景の中で、コレットは女性として自らの才能を世の中に示し、当時の人々に多大な影響を与えたことは間違いありません。小説を書くだけではなく、自らが舞台に立つなど、非常にアクティブで好奇心旺盛、自分のやりたいことをとことんやり抜く姿は、当時にしてみれば革新的な生き方であったことでしょう。
そして、このコレットの自由な生き方というのは、現代の女性においても目指すべき方向性を示唆しているともいえます。女性のあり方が刷新されていく中で、そのような時代でもなかったにもかかわらず、自由に生きたコレットという人物は、現代女性のロールモデルとしても評価されるべきとも解釈できます。
現代でも充分とまではいきませんが男女平等が進んできた世の中ではありますが、それすら考えられていなかった時代にここまで革新的な生き方をしてきたコレットのすごさが感じられます。
100年前の時代の話ではありますが、現代においても強く影響を与えることができる人物でもあり、フランスで今のなお高い人気を誇っていることの理由がよく理解できます。
【解説】同性愛者としてのコレット
コレットは女流作家でもあり、同性愛者(バイセクシャル)でもありました。作家時代愛人としてナポレオン3世の血縁者を名乗っていたベルブーフ伯爵夫人ミッシーとの親密な関係が劇中でも描かれています。
このミッシーという人物、軍人の家系ということもあり、当時の女性としては受け入れられていなかったズボンを履くなど、こちらも先進的な生き方をしていました。
そのような人物に魅力を感じたコレットはミッシーとの蜜月の時間を過ごします。次第に、パントマイムなどの舞台に興味を持ったコレットはミッシーとともに舞台に上がることを考え始めます。
題材も同性愛をモチーフにしたものでしたが、当時のキリスト教的な価値観の中で同性愛は当然認められていませんでした。キリスト教において同性愛は認められない性的逸脱でもあり、当時の同性愛者は迫害を受けるほどでもあり、現代と比較すると厳しい現状がありました。
当時のコレットが活動していた舞台ではブーイングが続いたり、舞台に物を投げ込まれたりしてもいました。そんな中、舞台活動を継続し、自分の生き方を貫いた姿には、これまた現代からの視点で見ても示唆に富んだ人物像が伺えます。
現代よりも厳しい目線が向けられていた同性愛に対して、それを隠して忍んでいたわけではなく、自ら公にすることによって自分自身のアイデンティティを主張する姿は力強さを感じましたし、この姿勢は何も同性愛に限った話ではないこともわかります。
女性としても、同性愛者としても当時の時代背景からは完全に逸脱し、自分の思うままに生きた人物でもあるコレット。その意志の強さと力強さが映画でも細かく描かれていました。
【解説】映画「コレット」を見てから読んでみたい作品たち
もちろんコレットの小説を読んだことがある人もいるでしょうし、コレットという人物を知らずに映画をみた人もいるでしょう。私は後者なのですが、映画をみてから俄然彼女の残した小説に興味を駆り立てられました。
コレットの処女作でもあり、フランス全土で社会現象を引き起こした「クロディーヌ」シリーズやコレットが劇団時代に各地を巡っていた時期にかかれていた「さすらいの女」など、劇中に登場した作品だけでも読んでみたくなりました。
コレットは生涯で約50点もの小説を残しており、「クロディーヌ」シリーズでは、当時の若い女性に声を与えたといわれるほどの評価をされています。類まれな観察力と直感的で開放的な言葉の数々、毒気と心を鷲掴みにするような文体によって、フランスで最も知られる女流作家にまで上り詰めました。
この他にも、2人目の夫ベルトランとの関係から着想を得た「青い麦」、ブロードウェイで舞台化され、オードリー・ヘップバーンを主演に抜擢した「ジジ」など興味深い作品が数多くあります。
映画「コレット」をみて、コレットの生き方や考え方、そして自分の意志を貫く力強い姿に共感を得た人は、彼女の残した偉大なる名作たちを読んでみてください。
【解説】時代を彩ったファッションアイコンをキーラ・ナイトレイが熱演
フランス中で人気を誇り、小説だけではなく、ファッションアイコンとしても絶大な支持を得ていたコレット。先進的で洗練された美貌とファッションセンスを兼ね備えており、現代でも色褪せない魅力を放っています。
そんなコレットを演じたのは、イギリス出身の実力派女優キーラ・ナイトレイです。彼女は「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」「ある公爵夫人の生涯」「プライドと偏見」など数々の映画に出演しており、アカデミー賞のノミネート経験もある女優です。
力強い眼と洗練された美貌は、まさにコレットにぴったりのはまり役でもありました。映画の中で、コレットは結婚するまでは長髪だったのですが、小説がヒットしたころから髪を短くし、新しい女性の実像を確立しました。
キーラ・ナイトレイもどの時期のコレットを演じる上でも、魅力的な女性像を観客に与え、意志の強い表情やズボンを着こなす姿などからも、見事な演技を披露したといえます。
そして、その脇も実力派俳優たちが固められています。コレットの夫ウィリーの役にはドミニク・ウェストが務め、コレットの愛人ミッシーはデニース・ゴフが抜擢されました。
実力のあるキャストが脇を固め、そして主演のキーラ・ナイトレイの魅力が存分に発揮されている映画です。
映画「コレット」は現代にも通ずる力強く生きた女性を描いた映画
映画「コレット」について紹介していきました。伝記物の映画はよく作られていますが、最近では、こういった題材に現代的な議論を絡める形で映画が作られていることが多いですね。
コレットという人物は、まさに現代の女性たちがロールモデルにするような人物でもあります。現代よりも男女が不平等な扱いを受けていた時代、そして、同性愛者も世の中に認められていなかった時代に、誰よりも自由に自分らしく生きた女性です。
映画を通じてコレットという人物の興味深い人生に共感を得ることができますし、彼女が残した偉大な小説にも興味が沸き立ちます。
フランスで最も有名な女性作家でもあるコレット。今なおフランスに影響を与える彼女の足跡を劇場でご覧になってみてください。